【商法10】発起人組合、設立後の会社への財産の帰属

今回は、事例で考える会社法事例4を素材に、発起人組合と設立後の会社への財産の帰属について考えてみようと思います。参考判例は、大判S2.7.4です。

 

事例としては、A・B・Cの三者がD株式会社を設立することを目的として共同し、Bがこれについての権限を委ねられ、設立を目的とした会議やそのごD社設立後も使用することを考えてEとの間でマンションについての賃貸借契約を締結するという点で、その名義、手続き、そしてこの賃貸借に関する費用を設立後のD社に帰属させるための手続きについてが設問1である。

設問2は、Aがもともと有していた特許についてD社に帰属させたいと考えているという点で、いかなる方法を採ることが有効かについて問われている。

設問3は、設立後のD社と取引を行ったGとの関係で、これが不履行となった場合のABCに対する責任追及の主張が問われている。ここで前提とすべきは、AがD社設立の際に出資を行うことができず、FがAに貸付を行いこれをD社に払込み、D社設立後、D社からAに同額を貸付け、AはFに貸付金の返還を行ったという事実があり、これを原因としてD社のGに対する債務不履行が生じたというものである。

 

まずは、D社設立前にABCが共同で行動することについて考え、その際の費用などのD社への帰属およびAの特許を帰属させる方法について考えてみようと思います。

 

発起人組合

まず、ABCが共同してD社設立を目的に事業を行うという意思の合致が認められるため、このような場合にはABCは民法上の組合としての発起人組合を発足させたものと考えることができる。実際にABCは組合契約を締結したわけではないが、特段の決まりがない事項に関しては、民法上の組合の業務執行であると処理することが簡便であるということである。

 

では、BがするEとの賃貸借契約についてはその名義、手続きについてどのように処理すべきであろうか。ここで見落としてはならないのは、民法上の組合は法人格を与えられていないことから、権利能力を有しない。すなわち、発起人組合を名義として賃貸借契約を締結することはできない。さらに、その後D社として使用を継続するものとしても、D社が設立登記をする以前には、いまだ法人格を得ていないため、D社という名義で賃貸借契約を締結することもできない。

 

そこで、本件のように発起人が設立のための賃貸借契約を締結する際の名義としては、発起人本人の名義による他ないと考えられる。本件では、当面の間Bがその資金から費用を負担することを考えていることからも、B名義となる。もっとも、上記のようにABCが発起人組合を黙示によって締結していると考えれば、「発起人組合総代B」とすることも考えられる。また、このような賃貸借契約を締結する際の手続きとして民法上の組合の業務執行が組合員の過半数によるとされているため、B単独でできるかということも問題となりそうだが、本件では、ACはBにその業務を委ねていることから、Bが業務執行組合員の地位を有していると考えられ、ABC間において特段の手続きは不要だと言える。

 

では、Bが賃貸借契約によって負担した費用を設立後のD社に帰属させることができるかについてであるが、これを考える上で重要な視座として、当該費用が会社の負担として認められる性質のものかという点と、いかなる手続きを経る必要があるかと言う点である。ここで、一般的に会社設立のための場所を確保するという行為は会社設立において必要な行為であるから、賃貸借契約にかかる費用は会社の負担として認められる性質のものと言えそうである。しかしながら、本件マンションは会社設立のためという目的を超え、設立後の事業運営のためのものとも言える。つまり、会社設立の費用として会社に負担として認められない開業準備行為としての費用といえなくもない。そこで、本件マンション賃貸借契約にかかる費用のうち、この設立費用として認められる限度で設立後のD社に帰属させることができると考えるべきである。

 

そして、この帰属に必要な手続きとしては、会社法28条4号にもとづき定款に記載し、公証人の認証を受けた後に検査役による検査を受ける必要がある。

 

設立後の会社への財産の帰属

Aがもともと有していた特許権について、設立後の会社へ帰属させる方法はいかなるものがあるだろうか。Aはそもそも出資として会社へ帰属させることを考えていたが、これはすなわち現物出資による方法である。そして、現物出資によらないとすれば、財産引受けとして帰属させる方法が考えられる。これらはともに会社法28条1号・2号に規定されているように変態設立事項として定款に記載しない限りは認められない。そうであれば、33条により検査役による検査が必要となる。もっとも、この検査役の検査を省略することもできる場合はある。

 

いずれにしても検査役や弁護士等の選任に時間と費用を費やすことになる。問題中に利害得失を考慮せよと記載されていることからも、こうしたリスクを指摘する必要がある。そこで、これらのリスクが生じない方法を考える必要がある。

 

467条1項5号には株式会社が成立後、2年以内に、その成立前から存在する財産であって、事業のために継続して使用するものについては株主総会の特別決議を経ることで取得することができるとされている。これはいわゆる事後設立という方法である。この方法を利用すれば、検査役等の選任が不要となり、株主総会による決定で済むことになる。本件ではD社の株主はABCのみであるから、特別決議であっても容易であるといえる。なお、本件ではAが取締役に就任することから、AとD社が特許権について譲り渡す場合には、356条1項2号における利益相反取引となることから、上記特別決議とは別に通常決議も必要となる。

 

発起人の責任について

設問3についてはすべてを検討することはしないが、発起人が会社の設立に際して損害を与えた場合に負う責任について簡単に確認しておきたい。

 

ここでチェックしておきたいのは、発起人に対する責任は53条に規定されており、1項が対会社、2項が対第三者という構成になっている。また、この責任が認められるためには、発起人が職務を行うについて悪意または重過失である必要がある。そして、発起人相互間には取締役相互間におけるような監視義務を課す規定はなく、あくまで当該発起人が行うべき職務についての責任のみを負うということに注意が必要である。

 

したがって、本件Cには発起人としての責任を追及することは難しいと思われる。

 

会社の設立前における発起人の行為や責任についてはあまり触れることがないし、この機会に確認しておこう。

【刑訴10】伝聞・非伝聞(伝聞供述)、犯行計画メモ

今回は、事例研究 刑事訴訟法 第4部問題5を素材に伝聞・非伝聞の区別と犯行計画メモの証拠能力について考えてみようと思います。参考判例は、最判S38.10.17と東京高判S58.1.27です。

 

まず、本事例において証拠能力の有無が問題となっているのは、甲がVを殺害した事件について、乙が関与していたのではないかという事例の公判において、証人Mがした「乙が甲に『Vは目障りだ』と言っていた」旨の証言である。問題文にはこの証言についての立証趣旨は記載されていないため、これも含めて場合分けをし、検討する必要がある。

 

さらに、丙の記載したメモには犯行計画らしきものが記載されており、これは乙が逮捕される際に、逮捕に伴う捜索差押により押収されたものである。これについては、「事前共謀の存在および乙の関与」という立証趣旨が明示されている。

 

この事例本でも伝聞証拠の最初の問題であるから、まずは、基本的な伝聞法則から確認して、本問でのそれぞれの証拠能力について考えてみようと思います。

 

伝聞法則の整理

まず、伝聞証拠とは何か、これは320条に記載される公判期日における供述に代わる書面または公判期日外における他の者の供述を内容とする供述をいうと考えられます。また、320条が原則としてこのような伝聞証拠についての証拠能力を認めていないことを伝聞法則といいます。

 

この伝聞法則の趣旨としては、このような証拠には、その成立において知覚、記憶、表現、叙述という過程があり、この過程で誤りが混入する危険性があるため、公判廷における反対尋問による吟味が必要であるところ、これがなされない場合には証拠能力を認めるべきではないというものに基づきます。

 

この伝聞法則を回避ないしは伝聞法則の適用を受けながら証拠能力を認める方法として、当該証拠が非伝聞証拠であるという考え方と321条以下の伝聞例外に当てはまるとの考え方がありえます。そして、この前者の考え方をするうえでは、当該証拠によっていかなる事実を立証しようとしているか、つまり立証趣旨との関係を考える必要がある。

 

伝聞・非伝聞の区別

さて、以上のように伝聞法則による証拠能力の原則否定と伝聞の回避ないし例外という方法を確認したが、本問におけるMの証言中、乙が発言した旨の部分に関しては、公判期日外における他の者の供述を内容とする供述として、原則伝聞供述として証拠能力を否定される。しかしながら、仮に立証趣旨を「当該発言が存在したこと」とした場合には、乙による供述の真実性は問題とならないため、伝聞証拠にはあたらず、非伝聞として証拠能力を認めることができると考えられる。これが判例の立場ともいえる。

 

もっとも、本件のように乙から甲へと伝えられた発言内容がVの殺害意思であると推論する必要がある場合に、供述の存在自体を立証趣旨とするため非伝聞であるとするのは伝聞法則の潜脱ではないかという批判がなされている。この批判によれば、このような場合には、立証趣旨となるのは供述内容の真実性であるとしつつも、原供述がこのような殺害意思を示すような場合、原供述者の内心を述べる供述として、伝聞証拠の成立過程のうち知覚、記憶という誤りの混入する恐れの大きい部分を欠いており、伝聞証拠に当たらないと考え、これを聞いた者の公判期日における供述であれば、その者への反対尋問により状況的信用性を確保する事ができ、伝聞法則は適用されないと考えるべきだとされる。どちらにせよ、結論は同じになるが、立証趣旨の考え方、供述者への反対尋問の確保という要件などが異なり、いずれの立場で論じているかを注意しながら答える必要がある。

 

犯行計画メモ

次に、丙の記載した犯行計画メモの証拠能力について考えてみる。

 

本件メモは丙が甲から聞いた犯行計画を記した物であるから、公判期日外の供述をその内容としており伝聞証拠と考えることができる。もっとも、犯行計画メモのような場合には、上記原供述が伝聞証拠とならないことと同様に、メモ作成者の現在の内心を記したものと考えられ、知覚、記憶の過程をへていないと考えられるからである。なお、このような場合であっても、その作成が真摯になされたことが証明される必要がある。

 

もっとも、このように考えたとしても、それはメモ作成者との関係であって、その内心を立証することを超えて、他の共謀者の内心までもを立証することは許されないといえる。これを立証するには、共謀者とメモ作成者との間に共通の意思形成がなされたことが別途立証されなければならず、これが立証されれば、当該メモにより立証される作成者の内心と同じ内心を有していたことを立証することができると考えてよいだろう。

 

本件メモにおいてこれを考えてみると、立証趣旨は乙の事前共謀および関与とされているが、メモ自体から乙の関与は立証できず、乙の内心の立証はメモ作成者たる丙のそれを超えるものであって、当該立証趣旨との関係では本件メモは伝聞証拠であることを免れず、証拠能力が認められないものと考えられる。

 

伝聞証拠の問題は、ある程度パターン化されているとはいえ、そのパターン自体が複雑で理解が難しく、いざ自分の言葉で書こうとすると行き詰まることが少なくない。原理原則、趣旨規範、を意識しながら確認していきたい。

【憲法10】財産権の規制

今回は、事例研究憲法 問題9を素材に財産権の規制について考えてみようと思います。素材判例最判H15・4・18です。

 

まず、この問題を読んだときにはこれまでの事例問題とは異なり、私人間における民事上の請求が問題とされている点に戸惑いを覚えました。問題文の冒頭には証券取引法の改正についての記述があり、憲法の事例問題といえば確かにその要素もあるけど、くらいにしか考えず何が本質的な問題なのかは見抜くことができませんでした。

 

そこで、事例を整理した上で、この問題の本質的な狙いの部分を明らかにしていこうと思います。

事実の整理

まず、証券取引法の改正については措いておくとして、XはY社のすすめで自己の資産を運用することとし、B信託銀行と特定金銭信託契約を締結し、Cを顧問とした。その際、この資産運用においてXに損失が生じた場合にはY社が損失補填・損失保証する旨の本件保証契約も締結していた。

 

もっとも、この保証契約は改正前証券取引法においても違法とされていたが、刑罰は科されず通説的に当事者間での契約は有効に成立するものと解され、運用されていた。そして、改正証券取引法においてはこの保証契約に関して刑罰が科される厳罰化がなされた。

 

Xは資産運用において損失を被ったことから、改正証券取引法が施行された日以後において本件保証契約に基づく履行請求を行ったが、Y社は改正証券取引法において刑罰化されたことを理由にこれを拒んでいるという状況である。

 

そこで設問としては、Xは誰にどのような請求をすることができるかが問われている。

Xの主張

Xとしては、まずY社を相手に本件保証契約に基づく履行請求訴訟を提起するところから始めるべきである。これは純粋なる民事上の請求であるが、これが認められればXとしては問題がないのである。

 

しかしながら、民事上の請求が認められ、Y社が履行義務を負うと解すれば、Y社はこれにより刑罰を受ける可能性があるため、裁判所により犯罪が行われることが助長されるという自体になりかねない。そこで、裁判所が当該履行請求を改正証券取引法の規定に基づき否定することを見越し、予備的に「仮に本件保証契約に基づく履行請求が改正証券取引法の規定に抵触するため認められないとするならば、右規定はXにおける自由な財産権の処分を制約するものとして憲法29条1項に反し違憲無効である。そうであれば、本件履行請求も認められる。」との主張を追加することになろう。そして、これが本事例における憲法上の問題点ということになる。

 

ここで注意が必要なのは、もし改正証券取引法が施行された後に本件保証契約を締結していた場合には、そもそも右契約は公序良俗に反し無効となる(民法90条)、つまり、上記主張は「改正証券取引法が施行されたとしても、施行前に締結された保証契約は有効に成立するが、その履行請求が施行後になされる場合には認められない」との立場にたっていることである。上記予備的主張を追加する際に指摘する必要があるかもしれない。

 

さらに、Xとしては、Y社に対する訴訟とは異なり、国に対しても請求を立てることが考えられる。それは、改正証券取引法により財産権の制約がなされ、これが公共の福祉により正当化されるとしても、29条3項に基づく正当な補償を必要とするというものである。この点が、設問において「誰に対し」とわざわざ記述したねらいであろう。

 

財産権の制約と違憲審査基準

では、このように憲法上の問題点が見えてきたところで、Xの主張の当否について考えてみる。

 

本件のように財産権の制約が正当化されるかを判断する審査基準としては、経済的自由権において用いられる規制目的二分論に立脚するかいなかをはっきりとしなければならない。結論を先取りすれば、本件の場合には、この二分論により基準を定立することは困難であろうと考えられる。つまり、改正証券取引法の規制目的は①証券市場における価格形成を正常化すること及び②投資家の市場に対する信頼を守るというものが挙げられているが、これは当然ながら消極目的とはいえず、さらには経済的弱者を保護すると言った積極目的とは言い難いものである。

 

そこで、同じ29条の財産権侵害における審査基準を定立した森林法違憲判決を参考にすることが有用であると思われる。右判決の判旨は有名であるが、その分重要である。すなわち、財産権の規制が29条2項の公共の福祉に適合するかは、規制の目的・必要性・内容と制限される財産権の種類・性質およびその程度等を比較衡量して決すべきであり、「立法の規制目的が…公共の福祉に合致しないことが明らかであるか、又は規制目的が公共の福祉に合致するものであっても規制手段が右目的を達成するための手段として必要性若しくは合理性に欠けていることが明らかであって、そのため立法府の判断が合理的裁量の範囲を超えるものとなる場合に限り、当該規制立法が憲法29条2項に違背」し、無効と解するのが相当であるとしている。

 

Xとしては、この基準に則り、添付されている学説において批判されている点を指摘し、合理性ないし必要性を欠いていることが明らかだとして違憲の主張を構成することになろう。他方で、Y社としては、規制目的二分論における積極目的規制に分類できるとの主張も考えられるが、最終的には森林法判決の基準においても、合理性および必要性は認められるとの主張を展開することになろう。

 

最後にXが国を相手に損失補償を求める訴訟を提起した場合の主張としては、当然ながら証券取引法に損失補償請求権を基礎づける条項がないとしても29条3項を根拠として請求することができる旨、そして、損失補償が必要か否かについては特別犠牲説に則り主張することになる。この特別犠牲説による主張の方法というのも初めて事例問題として考えることになったような気がするが、解説に記載のあるように、侵害行為の対象が特定個人・集団であるとの形式的要件と、侵害行為が財産権に内在する社会的制約として受忍すべき限度を超え、財産権の本質的内容を侵すほど強度のものであるという実質的要件の主張が必要なる。

 

事例研究憲法の第二部に掲載されている問題はこれまでのテンプレ的な問題とは一線を画するものが多く、考える力を養うにはとても良いが、自分の考えの足りなさを痛感するばかりである。

 

【刑法10】振り込め詐欺と誤振り込み

今回は、事例から刑法を考える 事例20を素材に、振り込め詐欺と誤振り込みの問題について考えてみようと思います。参考判例は、振り込め詐欺について東京高判H17・12・15で、誤振り込みについては最決H15・3・12です。

 

まず、本問ではXについての振り込め詐欺出し子の問題の前に、拾った免許証を変造し、無人契約機のスキャナーに提示してローンカードの交付を受け、さらに隣接する貸出機から金銭を引き出したという最決H14・2・8をモデルとした事実もあります。

 

簡単に要点だけメモしておけば、免許証の偽造については、一般人が真正な文書だと誤信する程度の外観を備えていなければならないのではないかという問題があり、これに当該文書の利用態様から誤信可能性を考慮に入れるべきかという点を論じる必要があるようです。また、偽造文書の行使についてもスキャナーにかざすという点がこれに当たるかを述べる必要があります。

 

ローンカードの交付および金銭の引き出しについてはローンカードの財物性と金銭の財物性が異なることを指摘し、ローンカードが対人であるから詐欺(1項)、金銭は貸出機であるから窃盗と処理し、これらは併合罪になるというところまで押さえておきたいところです。

 

では、本題の振り込め詐欺と誤振り込みについて考えてみます。

 

振り込め詐欺出し子

まず、振り込め詐欺の本犯たるY・Zの罪責を確定させておくことが整理に役立つと思われます。

 

振り込め詐欺については、組織的犯罪法の管轄でもありますが、本件のように他人を装い電話をかけ、指定する口座に金銭を振り込ませるといった典型的な振り込め詐欺は、刑法上の詐欺の構成要件に該当するものと考えられます。もっとも、今回のXが出し子をやっているようにこの振り込め詐欺の既遂時期がいずれの時点なのかは重要であると思います。

 

判例では、預金として振り込まれた時点で実質的には引き出すことが可能となり、財物の移転が認められ、既遂に達すると考えられているようです。そうであれば、本件においても、Xが指定されたWの口座から金銭を引き出す前に、EないしFが振り込んだ時点でYZの詐欺は既遂に達していると考えられます。

 

そうすると、Xはこの振り込まれた金銭を引き出したに過ぎないから、YZとの詐欺の共同正犯にはならないと考えられます。それでは、Xの行為はなんらかの犯罪を構成するだろうか、ここが一番の悩みどころでした。

 

なんとなくですが、振り込まれた金銭については詐欺によって交付された財物であるから、盗品関与罪の成立も考えられるのではないだろうかと思ったが、解説によれば、振り込まれた金銭とWの預金とは同一性を有しないから盗品関与罪の成立は困難だろうとしっかりと指摘がなされていました。

 

そこで、Wという非実在の者の口座から金銭を引き出したという視点から、窃盗罪ないし詐欺罪の成否を考えてみる必要があります。つまり、仮にXが拾った財布の中にキャッシュカードが存在していて、これを用いて預金を引き出した場合には、当然ながら窃盗罪が成立します。これは、Xに預金を引き出す権限が存しないため、当該引き出し行為は、窃取にあたるということを意味します。確かに、W名義の口座を開設したのはYであり、そのYから権限を与えられて引き出しているため、Wの口座から金銭を引き出す権限を有しているとも考えることができます。しかしながら、そもそもYが非実在のWの口座を開設し、通帳およびキャッシュカードの交付を受けること自体が詐欺罪を構成し、約款上Yにおいても預金を引き出す正当な権限を有していないと考えることができます。そうであれば、権限を有しないYから引き出すことを許されたとしても、XはWの口座から金銭を引き出す正当な権限を有するものとはいえないことになります。したがって、XがYの指示でWの口座から金銭を引き出した行為についてそれぞれ窃盗罪が成立すると考えられます。

 

 

誤振り込みと詐欺罪

では、2回目の引き出しをしようとした際にG社が誤って振り込んだ150万円を、Xが自己の口座に送金した行為について検討していきます。

 

ここで重要となるのは、誤振り込みがあった場合に当該金額について受取人の預金が成立するかという点、判例が詐欺罪の成立根拠としている告知義務が生じない預金預払機からの送金というケースに当該判例の射程が及ぶかどうかという点です。

 

判例が誤振り込みにおいて判示した内容はといえば、誤振り込みであっても受取人の預金が成立する(民事判例を引用)が、銀行実務や社会的条理を考慮し受取人において、自己の口座に誤った振り込みがあることを知った場合には、銀行に組戻しといった措置を講じさせるため、誤振り込みがあった旨を告知すべき信義則上の義務があるとし、これに反して払い戻しの請求をすることは銀行に対する欺罔行為にあたるということである。

 

この判例によれば前半の問題は解決したが、後半の問題である、射程について考えなければならない。

 

確かに、判旨は誤振り込みがあった場合には告知義務が生じるとする。これは銀行窓口において銀行に当該事実を告知することができる状況の場合にのみ当てはまるものとも考えられる。しかし、判旨が続けていうように、告知義務があるのは、誤振り込みにより得た金額部分には最終的に自己のものとする実質的権利が存しないからであるといえ、このような実質的権利が存しない場合であれば、当該判例の射程がおよび、誤振り込みがあったことを告げずに払い戻しを受けることは許されないと考えるべきであろう。

 

本件では誤振り込みにかかる金額部分について引き出したわけではなく、自己の口座に送金するという手段を使っているが、この場合には、告知義務に反して送金することが電子計算機使用詐欺の「虚偽の情報」を与えたに該当するといえるだろう。

 

なお、YZとの共犯関係を考えると、振り込め詐欺はXが加攻する以前に既遂に達しているため、共犯関係を生じない。他方でXが引き出したEないしFからの金銭については窃盗罪はYZの指示のもと行われたものであるからXYZの共同正犯となる。また、Xが行なった電子計算機使用詐欺についてはX単独の犯罪と考えられるから、YZに共犯関係は生じない。

 

 

今回は多くの犯罪が関係する複雑な問題であったが、解説の丁寧さに感動を覚えた。生徒との議論を楽しんでいた島田教授の寛大さに脱帽です。

 

宅地建物取引士試験について

今回は日記です。

 

宅建士試験では、民法借地借家法・区分所有建物法・不動産登記法都市計画法建築基準法国土利用計画法・宅地造成法・土地計画法・農地法・そしてもちろんのこと宅建業法が出題範囲とされます。

 

法律系の問題といっても、やはりいつも考えている法律問題とは違って、各種法の「解釈」についての勉強ではなく、法律に規定されていることを事細かに記憶することが求められていると言えます。法律職ではなくてある種営業職なので仕方のないことですが、楽しくない勉強になります。そして、苦手であることも否定できません。

 

都市計画法やその他の土地利用と国・地方公共団体の関係を規律する法律に関しては、行政法の分野でよく目にする言葉が使われます。なので、この点においては宅建士試験の勉強は役に立つのかもしれないとの思惑もありました。実際は、かなりベクトルが違う勉強になっていますが。

 

宅建士試験で民法の分野の問題を落とすことは許されませんが、油断せずに、全問正解を狙っていきたいと思います。

 

 

 

【民訴9】訴えの取り下げ、再訴禁止効

今回は、法学教室2016年7月号 演習民事訴訟法を素材に、訴えの取り下げについて考えてみようと思います。素材となった裁判例は東京地判H19・7・11で、参考判例最判S52・7・19です。

 

設問を読んだときは、例えば設問1で、XがYに訴えを提起してYが自己の当事者能力の欠缺を主張して訴え却下判決を求め、予備的に請求棄却を求めているなか、Xが訴えを取り下げたのに対し、Yがこれを認めず、なおも訴え却下判決を求めているという状況で、一体何が問題となるのかがうまく把握できなかった。条文を頼りにすると、確かに被告が抗弁を提出した等の場合に訴えを取り下げるには被告の同意を要するとされているが、本件における争い(論点)がここに当たるものとは考えが及ばなかった。これに対する最判もないため、いまだ議論の余地があるのかもしれないが、問題の着眼点としてしっかりと覚えておこう。

 

訴えの取下げの要件

さて、本事例の設問1が上記のような問題であるということが分かったわけだが、設問としては、Xの主張およびYの反論を考えろといったものになっている。そこで、Xとしては、Yの主張(当事者能力の欠缺)では、訴えの取下げにおいて被告の同意を要する261条2項は適用されないという主張、さらに本事例において訴え却下判決を求める主張を維持し、これを得たとしてもYの利益とはならないため、同意を要すると解することはできないと主張することになる。

 

この第二の主張は、そもそも訴えの取下げに被告の同意を要するとしたのは、被告が本案について争う姿勢を見せた場合には、被告としても請求棄却判決をえることについての利益を保護する必要があるからである。

 

では、Yとしての反論はどのようなものとなるか。上記のXの主張は択一的なもので、いずれかに当たるため訴えの取下げに被告の同意は不要とするものであると考えられるから、Yとしてはいずれの主張に対しても反論する必要がありそうである。

 

まず、261条2項の適用される抗弁とは異なるという点に関しては、たしかに訴訟要件の判断は本案の前段階において審理されるものと考えられ、管轄違いの抗弁などは本案以前のものと考えられていることと同じようにも考えられる。しかし、当事者能力の欠缺に関しては、本案での抗弁として提出することが許されないわけではなく、管轄違いの抗弁とは異なる。また、予備的に請求棄却を求める抗弁を提出していることからも261条2項が不適用であるとは言えない。

 

そこで、Yに訴え却下判決を求める必要性があるかを検討しなければならない。これに関連する論点として、訴訟判決の既判力というものがある。一般に訴訟判決にも欠けると判断された訴訟要件につき、同一当事者、同一請求の後訴に対し既判力が作用するものと考えられている。これは、訴訟要件の存否をめぐる紛争においてもその蒸返しが行われることがあり得るためこれを防ぐ必要があることを理由とする。したがって、Yとしては当事者能力が欠けるという争いに関しての蒸返しを防ぐため訴訟判決を得る利益を有すると考えられるため、このような主張をして、訴えの取下げにはYの同意が必要であると反論する。

 

再訴禁止効

設問2では262条2項に規定される訴えの取下げの効力としての再訴禁止効が問題となっている。前提として、Xの訴えの取下げにYも同意してその効力が発生しているといえる。また、訴えの取下げ後にYが提起した訴えは確認の訴えであるが、訴訟物たる実体法上の権利関係が同一であることから、再訴禁止効の適用が問題となる。

 

再訴禁止効が認められる趣旨としては、訴えの取下げに対する制裁という側面と、再訴の濫用の防止という側面とがあり、その両者を考慮しているのが判例である。また、最判S52は再訴禁止効が作用するのは、単に当事者・訴訟物を同一とするだけではなく、その利益・必要性についての事情が同一である場合であるとし、これは、再訴の提起を正当ならしめる新たな利益・必要性があれば再訴も許されるという規律を示している。つまり、再訴の許容性を事例に沿って検討することになる。

 

また、本事例では再訴を提起したのが訴えの取下げをした原告Xではなく、被告であったYである。262条2項の文言を見ると再訴が禁じられるのは訴えの取下げをした原告側のみであるようにも思われるが、被告の同意を要するとされる場面で、本事例でもYが同意をした上で訴えの取下げが行われているような場合には、両者が訴えの取下げをした当事者と考えることができるため、Yに再訴禁止効を生じさせることは可能である。そして、Yの再訴についてこれを正当ならしめる新たな利益・必要性について考えてみると、Xが訴えを取下げてからまもない時に、協議の結果たる金銭の支払いを拒んでいるという状況では、新たな利益・必要性は認められない。したがって、Yの再訴提起は不適法である。

 

また、Xとしても協議の結果たる金銭の支払いを拒まれている状況であるから、訴えの取下げの効力自体を争い、本訴についての期日指定の申し立てをすることが可能であると考えられる。この場合には訴訟物を同一とするYの再訴は二重起訴禁止に反して不適法却下されることになる。

 

【商法9】会計帳簿の閲覧請求、株主名簿の閲覧請求

今回は、事例で考える会社法 事例16を素材に、会計帳簿の閲覧請求と株主名簿の閲覧請求について考えてみようと思います。

 

今回の問題はそこまで複雑な論点を含むものではないため、平成26年改正のあった部分を含めた条文を確認していきましょう。

 

会計帳簿の閲覧請求

まず、甲会社は乙会社における貸借対照表等を作成するために用いた有価証券台帳および有価証券元帳の閲覧謄写を求めたいと考えている。解説では、これらの文書が会計帳簿であることが前提としてなされているが、これは、会計帳簿を元に計算書類を作成されること、計算書類とは貸借対照表、損益計算書、株主等変動計算書および個別注記表を指すとされていることから、貸借対照表を作成するために用いられた二つの文書は会計帳簿に当たると考えられるためである。

 

そして、甲会社は433条1項を根拠に会計帳簿の閲覧謄写請求を行うことになる。要件としては、総株主の議決権の100分の3以上の議決権か、発行済株式の100分の3を保有することがあるが、そのほかに問題となるのは、会計帳簿の閲覧謄写に対する理由を明らかにしなければならないというところである。

 

この閲覧の理由について原告側に立証責任が課されるかが問題となるが、当該文書を閲覧することで請求する側は事実を証明することができるのであって、この文書の閲覧のために理由の立証を要求することは本末転倒である。

 

そこで、この閲覧の理由については、閲覧を求める理由と、閲覧対象となる書面を特定できるよう具体的な閲覧目的が記載されていれば認められるものと考えるべきである。

 

そして、乙会社としては、この甲会社からの閲覧請求を拒否することができるかどうかが問題となる。433条2項は各号に掲げる事由がある場合には閲覧請求を拒むことができるとしているから、乙会社としては甲会社の請求が433条2項のいずれかに該当する旨を主張する。本問で言えば、3号の競争関係にある場合であるとして閲覧請求をこばめるだろうか。この実質的に競争関係にある事業を営みというのは、現在においてそのような事業がなされている場合のみならず、近い将来に行われる可能性がある場合にも認められるべきものである。

 

株主名簿閲覧謄写請求

では、甲会社が閲覧請求をしているのが株主名簿であったばあいにも同様の処理となるのであろうか。

 

ここで、平成26年改正が関係してくるが、改正前においては、株主名簿閲覧謄写請求の拒否においても、433条2項3号と同様の規定が存在した。もっとも、この規定は改正により削除された。したがって、乙会社としては、他の拒否事由を主張せざるを得ず、この点で会計帳簿の閲覧謄写請求を拒む場合とは異なるといえる。

 

 

ところで、このような改正によって処理が異なるに至った手続きが問題として出題された場合に、「改正によって削除されたのだからこれを拒否事由としないものとしたと考えられる」といった考慮を答案にあらわしていいものなのだろうか。実際自分のばあいには、判例理論であったりする場合にも、明確に「この点、判例は〜」といった書き方をすることはしたくないところがある。これは、判例をミスリードしていた場合の予防線ではあるけれど、判例理論に乗っかるとしてもそれを素直に当てはめるようなものはほとんどないのだから、やはり判例理論を論理の一つに組み込むといった書き方をしたい気がするのである。

 

そのような書き方ができているとはお世辞にも言えないと思うが。