【刑法1】名誉毀損罪の問題

本日の間題は『事例から考える刑法』事例12です。

事例は大まかに言って
甲社のAからセクハラを受けてたXが、Aが乙県庁との談合の疑いがあるのを聞いて、過激な表現をする週刊誌の記者Yに派手に記事にするよう依頼、Yは調査の上で公表。Zはこの記事をブログに転載した。
というもの。

事例を読んで

問題はさほど長くないものの、X、Y、Zの罪責を検討する必要がある点とそれぞれがいかに関係しているかが難しいイメージを受ける

読んでる途中では、せいぜい名誉毀損と真実性の証明、さらに真実性の錯誤について検討させて、Xは誤信が確実な資料に基づかない、Yは調査の上であるから基づく、よって故意阻却。Zに関しては週刊誌を資料としているから一応確実かな、程度。

最も頭を悩ませるのはXYの関係、Yが実行行為者であることは問題なく、上記の通り結論的には故意阻却で犯罪不成立となる。そうすれば、Xが狭義の共犯と考えるのであれば従属性の観点からXも犯罪不成立となりうる。共同正犯としても、故意なき者との共同正犯を認めるかは困難だし、単独正犯で認めるしか道はなさそう。

あと、名誉毀損罪の成立を否定するわけだけど、侮辱罪は成立するのではないかな、特にイラスト部分については免れない気がするけど文章と分ける必要あるのかな、と。

解説を読んで

まず初めに見落としていたのは、伝播性の理論。
本事例は週刊誌への掲載、公表であるから当然に公然性は具備されるであろうと考えていた。しかし、Xについて見れば確かに最初の事実摘示による名誉毀損はYにAの犯罪をリークした段階であることが盲点であった。「記者に対するリーク」は伝播理論に従えば公然性を見備する可能性があることを忘れないでおこう。

ここで伝播理論をおさらいしておくと、230条1項における「公然」とは、不特定または多数人が認識しうることを言うが、これ以外の者に対しても、伝播により多数の者が認識することになる場合には、公然性を具備するというものである。判例もこれを肯定していると考えられている(最判S34.5.7 19事件)。

さらに構成要件レベルの見落しとすれば、Zについて検討を要する、「公知の事実の摘示」についての問題。Zが週刊誌を見たということは(Yにより出版された後には)既にAに関する事実は公知となっているといえる。そうであれば新たな法益侵害もないし、犯罪とならないとも考えられるからである。もっとも、判例・通説ともにこの様な場合でも犯罪成立を認めているから触れる程度でよいのかもしれない。

あと、甲社も槍玉にあげているから「法人に対する名誉毀損」なんて問題もあったな、とかなり見落しまくっていた。

ただ最も問題なのは、やはりXYの関係であるよう。
Xに対する名誉毀損をYにリークした段階で認める場合には、既遂に達し、この段階では単独正犯であろう。ただ話を先に進めるために、ここでは伝播理論に批判する学説に目を向けて、XYを共犯関係(ないし共に犯罪不成立)について論じるのが特策のように読めた(妥当か否かは別)。

230条の2第1項が適用されるためには、「公共の利害に関する事実」であり、かつ「公益目的」であることを認められた後に真実性の証明が許される。注意を要するのは、法文上「専ら」と公益目的につき制限があるように見えるが、一般に主たる動機が公益を図る目的であればよいとされている点である。
また、230条の2第1項が適用された場合の効力についても、構成要件阻却説、違法性阻却説、処罰阻却説の対立がある。本問においては、ここでいかなる説に立つかでXの罪責に影響がある(もっとも直接は後の錯誤の効力によるが、出発点は同じ)。
判例を先取りすれば、真実性の錯誤につき故意を阻却している。このことを考えると、230条の2第1項を違法性阻却事由として見ることができると考えるのが分かりやすい。

このように考えるとYについては故意を阻却し犯罪不成立となり、XはYとの共犯であると考えれば従属性の観点からXも犯罪不成立となる、これが妥当かは不明であるから、Yの罪責から検討して、後のXについては伝播理論により既遂と認める方がよいのかもしれない。

Yについて名誉毀損を否定した場合、別途侮辱罪が成立するかを検討することになるが、どちらの保護法益も外部的名誉であると考える通説ではこれを否定することになるようである。もっとも、Aにおける談合の事実のみならず侮辱的要素の強いイラストが付されている本件記事においては成立を認めてよいと考えられる。

最後に、本件で忘れてはいけない判旨
真実性の証明がない場合でも「行為者がその事実を真実であると誤信し、その誤信したことについて、確実な資料、根拠に照らし相当の理由があるときは、犯罪の故意なく、名誉毀損の罪は成立しない」(最判S44.6.25 21事件)