【行政法2】建築確認取消訴訟における原告適格と違法性の承継

今回はTKC論文演習セミナー 行政法 問題2です。素材判例は、最判H21・12・17です。もっとも、原告適格については、最判H14・1・22を参考とのこと。

事例の概要としては、
建築確認を行う前には県知事による安全認定を受ける必要があったところ、これを受けて建築主事は建築確認を行った。そこで、近隣住民が右安全認定は違法になされたものと考えたが、すでに安全認定に対する取消訴訟の出訴期間は経過していたため、建築確認についての取消訴訟を提起し、右取消訴訟内で安全認定の違法性を主張しようとした
というものである。

問題となるのは、
建築確認取消訴訟を提起したXらに原告適格があるのか否か(設問1)
建築確認の取消訴訟において、先行する処分たる安全認定の違法性を主張することができるか(設問2)
である。


設問1、原告適格について

まずは、取消訴訟原告適格を検討する必要がある。
行政事件訴訟法9条1項は、取消訴訟原告適格を「法律上の利益」を有する者とする。そして、原則として、処分の名宛て人には原告適格が認められる。しかしながら、本件の近隣住民のような処分の名宛て人とならない第三者については、同条2項に規定されているように、「当該法令の趣旨および目的」と「当該処分において考慮されるべき利益の内容および性質」を考慮して原告適格の有無を検討する必要がある。

まず、当該法令とは、本件では建築基準法を指す。すなわち、建築基準法の趣旨および目的を考える、手がかりとなるのは当該法令の1条等に規定されている目的条項である。

建築基準法1条は、建築物に関する最低の基準を定めて、国民の生命、健康及び財産の保護を図るとしている。そして、建築主事による建築確認を要することもこの目的を達成するためのものであると考えられる。そうであれば、建築主事による建築確認は、当該建築物の建築にあたり、その名宛人のみならず近隣住民の生命、健康及び財産の保護も「法律上の利益」として法律上保護しているものと解する。

9条1項「法律上の利益」を有する者、法律上保護された利益
名宛人以外の第三者は9条2項による、
「当該処分又は裁決の根拠となる法令の趣旨及び目的」→当該法令の趣旨及び目的を共通する関係法令の趣旨及び目的
「当該処分において考慮されるべき利益の内容及び性質」→当該処分又は裁決がその根拠となる法令に違反してされた場合に害されることとなる利益の内容及び性質・これが害される態様及び程度
をそれぞれ勘案する


設問2、違法性の承継について

次に問題となるのは、建築確認の取消訴訟においてその先行する処分たる安全認定の違法を主張することができるかという問題である。これはいわゆる違法性の承継といわれる行政法上の論点である。

まず、明文にておいて違法性の承継が否定されているわけではないため、これが原則として否定される理由を述べる必要がある。これについては、処分が違法として取り消されるためには取消訴訟による必要があり、この取消訴訟には出訴期間が定められている。この出訴期間が定められているにも関わらず、後行の処分の取消訴訟において先行処分の違法を主張することができるとするのは、法の趣旨を没却することになることを指摘することができる。

そこで、原則として違法性の承継は認められないと解するべきであるが、一定の場合には例外を認めることができるとし、その具体的な基準を考えていく。

考えるポイントは、先行処分と後行処分の関係性と、原告における手続保障の観点である。

まず、先行処分と後行処分が別個の処分であるとしても、これらを全体としてみると一体的な処分としてみることができれば、後行の処分に瑕疵がなくとも、先行処分の違法性を承継したものと考えることができる。
また、先行処分の段階では、原告となる者にとって争うことが困難あるいは期待できない場合には、出訴期間が経過したとしても、当該取消訴訟を提起する手続保障が十分ではなかったと言えるから、後行の処分の取消訴訟において先行処分の違法を主張することを認めるべきであると考えることができると言える。

本件においては、そもそも安全認定と建築確認は同一の建築主事が行うこととされていたという経緯や、県知事が安全認定をすることができることとされたのは便宜的なものであり、安全認定と建築確認は全体として一体的な処分であると言える。また、安全認定がなされた段階では原告となりうる近隣住民に対して通知する義務を負っているわけではなく、建築確認が行われた段階でこれを知ることになるため、手続保障が十分とは言えなかった。

そして、安全認定においては県知事に裁量があるとしても、本件のように要件に該当しないことが明らかである場合には、裁量権の逸脱もしくは濫用として、違法な処分と言える。そして、右違法な安全認定に基づく建築確認も違法性を帯びると考えられる。


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