【憲法3】平成28年司法試験公法系第1問

今回は平成28年司法試験公法系第1問について検討したいと思います。

今回も設問は2つで、設問1においては原告(A付添人として)の性犯罪者継続監視法が違憲である旨の主張について、設問2では原告の主張に対する検察官の反論及び私見について問われている。

事例の概観
本事例では、連続して発生した性犯罪をきっかけに、性犯罪における確定判決を受けた者のうち、心理的その他の要因により再犯の可能性があるとされた場合に、検察官の申し立てに基づき裁判所の決定により、その者の継続的監視を行い、また特定の区域への立ち入り禁止命令をすることができる旨が規定された性犯罪者継続監視法が制定された。そして、Aが強制わいせつ罪により確定判決を受けその執行を終えたが、再犯のおそれがあるとして、同法により継続監視を行う決定を求める申し立てをされたというものである。


設問1、Aの付添人としての主張

憲法答案のセオリー通り、まずは、憲法上の権利を確定する必要がありますが、性犯罪者継続監視法との関係では、まず、継続監視について、憲法13条がプライバシー権を保障しているとして、その保障の内容は、自己の現在する位置情報をみだりに知られないということも含むと主張すべきことになる。これについては、13条が新しい人権を認めるための条項としても無制約ではなく、人格的利益といえるものについての保障を認めるものだとして、自己の位置情報をみだりに知られないという権利は、人の自由な生活に重要なものであり、人格的利益といえるとして説得力を強めたいと思う。

そして、継続監視により、右権利は制約を受ける。

さらに、立ち入り禁止の命令についても、憲法22条1項が移転の自由を保障しており、これは住居等の移転のみならず、人の行動としての移動の自由をも含むものとして保障されているが、特定区域として限られるとしても、移動の自由が制約されるものといえる。

もっとも、13条により認められる右権利及び移動の自由も絶対無制約なものではないため、公共の福祉による制約は認められると考えられる。そこで、この公共の福祉による制約が認められるか否かの審査基準はどのように考えるか。

Aとしては、自己の位置情報をみだりに知られない権利及び移動の自由は、プライバシーの保護との関係で重要であり、これが正当化されるとしても、厳格な基準によって判断されなければならない。すなわち、制約する立法の立法目的が必要不可欠な「やむにやまれぬ利益」を保護するものであり、規制手段が目的達成のために必要最終限度のものである必要があるとすべきである。

これを同法において考えてみると、立法目的は、性犯罪の再犯を防止するという必要不可欠なものといえる。しかし、規制手段は他のより制限的でない手段によっても達成できるにもかかわらず、監視対象者を常時警察が監視するというものである。したがって、必要最小限度のものとはいえないため違憲である。

Aとしては上記主張を行う。


設問2、検察官の反論と私見

検察官としては、13条により保障されるプライバシー権や移動の自由が重要だとしても、これが対象となるのは一定の再犯の危険性の高い者についてであり、この者の位置情報については「公共の利害に関わる情報」であるから保護の要請が低くなるもしくは審査基準は緩やかになされるものと反論し、立法目的が重要で、規制手段がこれと実質的関連性があればよいとする。

同法の目的は刑事政策上重要で、再犯を防止するのに継続的な監視および立ち入りの禁止をすることはこの立法目的を達成する手段として実質的関連性が認められるといえる。


以上のような主張と反論を踏まえた私見としては、より具体的に事案を分析していきたいところである。

権利保障と制約については、より詳しく述べるとしても、特に争いなのない点であると思われるので、簡潔に述べて、審査基準の定立において検討を要する。

使いたい事情としては、継続監視される期間が「20年以内」という長期に及び、これが確定判決に基づく刑の執行が終了した後に科されるものだという点。さらに、立ち入り禁止がなされる地区とは日常生活に密着した場所であるから、対象者の私生活を強く制約するものだという点。

もっとも、性犯罪の再犯を防止するという刑事政策上の目的も重要である点を見過ごすことはできないと思われる。

そこで、中間的な審査基準、すなわち、立法目的が重要で、規制手段がこれを達成するために実質的な関連性があるか否かを基準に判断すべきであるとする。

あてはめにおいては、実際にこの継続監視および立ち入り禁止がなされることを想定してその制約の強度を述べることで、実質的な関連性を否定し、違憲とするのが妥当であろう。


まとめ

憲法答案はやっぱり難しい、今回の問題は平成26年のストリートビュー規制とどこか似ているような気もしますが、アメリカのメーガン法の日本版といった内容のようである。事例研究憲法の第2部問題11にも類似の事例があるようなので、目を通す必要があるでしょう。

この検討は辰巳法律研究所の速報解説を元に書きましたが、Lecの分析コメントでは13条、22条1項の他に14条についての主張も記載されていました。ただ、不合理ではないというのは難しいということなので、時間に余裕がない限り、切ってしまってもよいのでしょう。時間配分と主張の取捨選択というのも憲法答案では考えるべきなのかもしれません。