【商法3】平成28年司法試験民事系2問目

今回は、平成28年司法試験民事系2問目を検討していきます。

 

今回は、設問3つに関連する事実が付いています。まず設問1は、AおよびBが代表取締役を務める甲会社における内紛について、Bは、Aが海外出張中であることを利用しA以外の取締役に対し臨時取締役会を招集し、Aを代表取締役から解職する決議を提案し、賛成多数により可決された。それに加えて、Aに対する報酬の額を甲会社で一般に取締役として運用されていた50万円ではなく、20万円に減額した。これらについて、臨時取締役会決議の効力(小問1)、Aが甲会社に請求できる報酬の額(小問2)が問題となる。設問2では、その後にAが甲会社の株主総会において取締役を解任されたことを不当として甲会社にたいして損害賠償請求をする場合について(小問1)、仮に、上記株主紹介招集通知発送後にAが多額の会社資金を流用していたことが発覚したことから、Aが株主に根回しをし、定足数を満たさない流会にした。これをうけてBが株主としてAを解任する訴えを提起する場合の手続(小問2前段)、その会社法上の問題(小問2後段)が問題となる。最後に設問3は、以上の内紛が解決した後甲会社が大会社かつ公開会社になった後、甲会社の従業員Eと乙会社の従業員Fが会社資金を着服していたことが発覚したことから、甲会社のコンプライアンス部門担当取締役のD(後段)と代表取締役C(前段)に対する損害賠償責任の有無が問題となる。

 

 

設問1について

本問は、取締役会決議の効力と、取締役の報酬についての問題である。

 

小問1について

取締役会決議の瑕疵について、会社法にその効力についての規定はないことを指摘して、この点を問題とします。結局のところ、取締役会決議に瑕疵があれば、一般原則に従い無効となると考えられます。

 

本件事実では、Aに対して招集通知が発せられていないことおよび招集通知に決議の目的が記載されていないことが瑕疵と言えるかを検討します。まず、目的事項の記載については、366条2項において必要となる場合がありうるが、本件では取締役会の招集権者についての記述もなく、原則通り不要と解されるため、瑕疵には当たらない。では、Aに招集通知を発しなかったことが瑕疵と言えるか。たしかに、Aは海外出張であるから現実に取締役会に出席することはできないが、通信手段が確立されている現在では、ビデオ会議その他の方法で参加することが可能であるから、これをもってAに招集通知を発しないことは許されない。また、Aは自己が解職されるという審議については369条2項の特別利害関係人に当たるため議決に加わることはできないと考えられるが、取締役会においては日々の業務について臨機応変に対応することが求められていることから、Aに解職についについての議案以外も議決される可能性がある。そうであれば、Aに対して招集通知を発するべきであるから、これをしなかった本件臨時取締役会には瑕疵があると言える。

 

もっとも、Aの解職についての議案においては、上述の通り、Aは議決に加わることはできず、そうであれば、招集通知が発せられなくともこの議案についての結論に変わりはなかったと言わざるをえない。このような場合には、例外的に、当該取締役会決議は有効のものと解されることになる。したがって、本件臨時取締役会決議は有効である。

参考判例は、最判S44・3・28と最判S44・12・2。

 

小問2について

取締役の報酬に関しは、お手盛り防止の要請から、361条に規定が設けられている。本件のように株主総会において具体的金額を決定せず、最高限度額のみを決定し、取締役会において具体的な額を決定するよう委任することも、上記の趣旨を害しないため認められている。

 

もっとも、361条においても、報酬の減額についての規定はないため、Aの同意なく取締役会決議により減額することは認められるかが問題となる。

 

本件事実によると、Aが代表取締役としてもらっていた150万円を減額し20万円とする旨の決議がなされている。ここで、会社と取締役の関係については民法上の委任の関係にあることから、報酬について会社と具体的金額により合意した場合には、これが委任契約の一内容として確定し、会社側が一方的にこれを変更することは許されないという原則を示す。もっとも、このような場合においても、取締役があらかじめ変更されることに同意したと認められる場合には、例外的に減額することも許されるとする。本件のように、会社の運用として、一定のポストに就くものの報酬につき金額が定められているような場合には、当該ポストに就いた場合には当該金額の報酬を受けることとなるという黙示の同意があったものと考えられる。そうであれば、Aは代表取締役から取締役に変更となることにより、取締役がうける報酬額に減額されることについては同意があったと考えるべきである。しかしながら、本件ではこれをも下回る額に変更されていることから、Aとしては、取締役がうけるべき報酬額である50万円を請求することができる。

 

設問2について

設問2では、Aの解任についての問題を検討します。

 

小問1について

まずは、Aが自己の解任は不当であったと考え、甲会社に対して損害賠償請求をするというものである。この請求の根拠としては、339条2項を挙げるべきある。すなわち、Aの解任について「正当な理由」があったか否かが問題となる。

 

本件事実では、Aが解任された理由として、Aが指揮した海外事業の失敗が挙げられている。そこで、このような経営判断についての結果が「正当な理由」に該当するかを検討する必要がある。この際には、もし、このような経営判断に関する結果により正当な理由ある解任とされれば、取締役がリスクを恐れて経営判断に踏み切らないなどの萎縮効果を生じさせるおそれがあるという点と、取締役が会社に損害を与えた場合の損害賠償(423条)においては経営判断の原則が適用され、取締役の責任が否定される可能性が高いため、株主においては、正当な理由ある解任として認められるべきであるという点を考慮して結論を導くことになる。本件事実では、経営判断の原則が適用されれば、責任が否定される要素がおおいため、株主における経営に対するインセンティブを尊重して、正当な理由ある解任であったとすべきと思う。

 

小問2について

Bが提起する訴えは854条の役員の解任の訴えであることを指摘して、前段ではこれらの要件に当てはまるかを検討します。

 

後段の問題となるのは、本件事実では定足数を満たさず総会が流会になっているということが、854条の「否決」に当たるかという点です。これについては、通説に従えば、定足数が満たされず流会になったような場合でも、否決に当たるとされているため、これを認めないと本件のような欠席戦術によりAの保身を認めることになる点を指摘して同様の結論に導けば良いと思われる。

 

なお、854条の解任事由がいつの時点で必要となるかも問題となるが、解任議案は株主総会の過程においても提出が可能であることからも、開催前に生じている必要はないといえ、本件事実のように招集通知が発せられた後に生じた事由において解任することも認められると考えられる。

 

設問3について

設問3では内部統制システムについて、その構築義務レベルと機能運用レベルでの責任について問うものです。

 

まず、CおよびDに対する損害賠償請求の根拠となるのは423条1項に基づくものである。そこで、それぞれにおいて任務懈怠があったか否かを検討することになります。

 

内部統制システムに関しては、とりわけ取締役会設置の大会社においては構築義務が明文で規定されている(362条5項)。つまり、構築レベルにおいて、これを怠れば、任務懈怠が認められることになる。本件事実では、甲会社は取締役会設置の大会社であるが、内部統制システム構築の基本指針に基づき法務・コンプライアンス部門を設置し、社内規則を制定し、これを運用しているため、構築レベルにおける任務懈怠は認められないと考えられる。

 

内部統制システムにおいては、これを構築するのみではなく、機能的に運用されている必要がある。つまり、たとえ内部統制システムが構築されていたとしても、機能的に運用されていないと認められれば、これにつき任務懈怠責任が認められることになる。この点については、これを担当する者とそうでないものにおいて判断基準が異なってくる。

 

まず、代表取締役Cにおいては、コンプライアンス部門の業務については担当取締役であるDを割り当て、Dによる機能的運用を信頼することも任務懈怠ということはできない。さらに、Cが報告を受けた後、直ちに調査を指示していることからも、任務懈怠責任を否定することができる。

 

では、担当取締役Dに任務懈怠責任があったと言えるか。たしかに、Dが報告を受けた時点では、甲会社にそのような不正を行った前例がなかったことや、Eが元部下であり信頼できたこと、会計監査人においても不正の報告がなかったことを理由に任務懈怠責任を否定することができるとも考えられる。しかし、報告を受けた以上は、調査をする必要があったと考えられるし、調査から2週間で事実が発覚する程度のものであったのであるから、何らの調査もしなかったDには任務懈怠責任があったというべきである。

 

 

まとめ

今回の問題は、小問が多くそれぞれ別個の論点に関係するものであったため、一つ一つに当てられる時間は短くなるのは致し方ないところだろうと思う。

 

やはり、限られた時間でどこにどれくらい書くかは重要で、多くの問題を解くしかないように思う。

 

会社法の論点としては、基本的な点が中心だったように思えるから、その内容の密度を上げていけるようにしたい。