【商法4】株式の準共有と権利行使

今回は、法学教室2016年5月号 演習商法について考えていきたいと思います。素材判例最判H27・2・19です。

 

事例としては、

非公開会社である甲会社の株式は取締役であるAが全株所有していたが、Aが死亡したことでB、C、Dの準共有となった(B、Cは甲会社の従業員である)が、106条本文の権利行使株主は指定されていない。Aが死亡した後は、甲会社の取締役はEである。

設問は、(1)から(3)までの株主総会決議についてその効力をB、CないしDが争うことができるか、効力は生じるかが問われている。その各株主総会決議は、EとDが通じ、Eが甲会社を支配するための新株発行議案についてDが株主権を行使したもの(1)、Aの後任としてBを取締役に選任する旨の議案にB、Cは賛成し権利行使を行ったが、Dが反対している(2)、甲会社を消滅会社として乙会社と合併することについての審議にC、Dが賛成したが、Bが反対した(3)というものである。

 

株式の準共有

この株式の準共有という問題は、平成17年会社法改正において106条が新設されたことで明文による処理が可能となった。それまでは、最判H11・12・14が共有者全員が議決権を共同して行使する場合のみ権利行使が可能となると解されていた。

 

そこで、新設された106条においては、権利行使株主の指定・通知がなされていない場合に会社の同意があれば何らの制約なく権利行使することができるようにも読めるため、これらの関係が問題となっていた。

 

学説の多数としては、設問(1)のように恣意的な権利行使を許すことへの批判から、何らかの制約を課すべきであると考えられてきたが近時の判例がこれにつき初めて判示したため、これを確認しよう。

 

最判H27・2・19

この事例の素材となった最判H27・2・19では、学説でも主張されていた、民法の共有規定に制約の根拠と処理の方法を求めた形になった。すなわち、

106条の「文言に照らすと、株式会社が当該同意をした場合には、共有に属する株式についての権利の行使の方法に関する特別の定めでもある同条本文の規定に基づく指定及び通知を欠いたまま当該株式についての権利が行使された場合において、当該権利の行使が民法の共有に関する規定に従ったものでないときは、株式会社が同条ただし書きの同意をしても、当該権利の行使は、適法となるものではないと解するのが相当である。

 そして、共有に属する株式についての議決権の行使は、当該議決権の行使をもって直ちに株式を処分し、または株式の内容を変更することになるなど特段の事情のない限り、株式の管理に関する行為として、民法252条本文により、各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決せられるものと解するのが相当である」とした。

さらに、この民法の規定に従わず不適法となった場合には、当該株主総会決議は、決議の方法が法令に違反するとしての取り消し得るものとなるとしている。

 

このように、判例は、会社法106条が民法の共有規定の特則であるとの考えに立ち、106条本文の指定・通知を欠く場合には同条は適用されず、民法の共有規定により処理されると述べた。そして、当該権利行使が民法共有規定のいずれに当たるかの問題として、直ちに株式を処分または株式の内容の変更の場合には、特段の事情があるが、これらではない場合には管理に当たるとしている。

 

具体的にいかなる場合が特段の事情に当たるかは述べられていないが、同様の学説を主張していたものは、合併や、事業譲渡、解散などがこれに当たると考えている。

 

設問について

以上の判例に従えば、

設問(1)については、管理としての252条が定める持分価格の過半数による方法に従っていないため、取り消し事由となる。

設問(2)については、上記の方法に従っているため、適法として取り消すことはできない。

設問(3)については、上記の方法に従っているが、この議決の結果甲会社が吸収合併されることから判例における「特段の事情」が認められるとして、この場合には民法251条における全員による権利行使の方法に従う必要があり、これに従っていない本件では取り消し得るということになる。

 

最後に、そもそも取消訴訟を単独で提起できるかという点については、最判H2・12・4が同様の状況(権利行使株主を指定していないにもかかわらず権利行使を行い、これに対して取り消しを主張する場合)について認めていることから同様の理由が当てはまる。つまり、原告が株主総会の手続きの瑕疵を主張して訴えを提起しているのであるから、会社がこの株主の原告適格を争うことは、当該決議の瑕疵を自認することになり、また、同規定の趣旨を恣意的に使い分けているとも言えるため、信義則に反し、許されないから、株式の準共有者は単独で株主総会決議取り消しの訴えを提起することができると考えられる。

 

なかなかマイナー論点であったが、近時の重要判例でもあるため、チェックしておいて損ではないだろう。