【商法5】利益供与、委任状勧誘

今回は、事例で考える会社法 事例18を素材に会社からの利益供与の問題と委任状勧誘について考えていきたいと思います。

 

 会社法120条の利益供与禁止の規定は、総会屋と呼ばれる者たちへの対策として導入されたものであることは周知のことであろう。もっとも、条文上で利益供与を許されない相手方としては「何人」とされていることから、単に総会を混乱させるために出席する総会屋(株主)に対する利益供与を禁ずる規定とはなっておらず、また「株主の権利の行使に関し」利益を供与することが禁止されていることから、この意義が不明確であるなど問題点がある。さらには、会社と株主の間で経営権について争いがあり、または敵対的買収の恐れがある場合に、会社から議決権行使のお願いを株主にするとともに優待制度を設けるなどの場合にも問題となる。

 

このような利益供与に関する問題を考えてみたい。そして、最後にこれと関係する株主提案と委任状勧誘についても少しだけ考えてみたいと思う。

 

利益供与について

120条は会社による株主の権利の行使に対する利益の供与を禁じている。これは上述のように総会屋対策として導入されたものである。

 

細かく要件を確認していけば、まず、供与される財産が会社の計算においてなされることが必要である。つまり、取締役が他者に利益を供与したとしてもそれが取締役の計算においてなされていれば120条には違反しない。もっとも、これを最終的に会社が補填するなどがあれば120条に反するだろう。

事例に即して考えれば、本事例の設問1においてはBは自己の計算において支払いを行っているから120条には反しないとできる。

 

次に、利益の供与が必要である。これは、金銭に限らず、幅広く解釈されているため、役務の提供などの利益であってもよい。また、利益の供与に何らの対価がない場合には当然に、対価があってもこれが釣り合わない場合にも120条に違反することになる。

 

そして、この条文上一番問題とされるのは、「株主の権利の行使に関し」という文言の解釈についてであろう。

つまり、本事例の設問2と同様の事例である最判H18・4・10は、株主である者が他の者に保有株式を売却したと会社に伝え、会社としてはその売却先が株主として好ましくない場合に、これの買い戻しのために金銭を支払ったという事案に対して

株主の譲渡は株主たる地位の移転であり、それ自体は「株主の権利の行使」とは言えない「しかしながら、会社から見て好ましくないと判断される株主が議決権等の株主の権利を行使することを回避する目的で、当該株主から株式を譲り受けるための対価を何人かに供与する行為は、」該当する

としている。

つまり、設問2においても、乙会社を使って買い戻しのための融資を行った行為は「株主の権利の行使に関し」ということができるからAは120条4項の責任をおうことになる。

 

なお、120条の利益供与の相手方は「何人」とされていること、利益供与と権利行使との関連性については主観を重視する立場によれば利益供与の相手方が実際に株主に対して影響力をゆうするか等は問題とならないといえる。

 

株主優待制度との関係

現在の株式会社においては、株式保有数に応じて株主優待制度を取り入れていることがある。ここにおける問題としては、120条の利益供与というよりは109条の株主平等原則であったり、剰余金配当といったところの問題となりそうである。

 

しかし、本事例の設問3のように経営権の争いが生じている状況で、議決権行使を促すため(会社提案に賛同してもらうため)に何らかの優待制度を実施することも考えられ、この場合には120条の規制が問題となってくる。

 

この問題のキーワードとしては供与される利益が「社会的儀礼の範囲内」か否かというところである。つまり、取締役が自らに有利な議決権行使を誘導するために同制度を不当に利用する場合には、120条違反となりうるのである。

 

この点について裁判例東京地裁H19・12・6)は3つの考慮要素を事案に即して検討している。つまり、①株主の権利行使に影響を及ぼす恐れのない正当な目的か、②個々の株主に供与される額が社会通念上許容される範囲のものであるか、③総額も会社の財産的基礎に影響を及ぼすものでないかという3点を検討することになる。上記裁判例では、議決権を行使した株主に対して500円のクオカードを配布するという優待制度を実施したことについて、②③については問題ないとされたが、議決権行使書面および株主通知における記載が会社提案に賛成した者に対してのみ配布されるものととられるおそれがあり、このような場合には①における正当な目的とは言えないとして利益供与に当たるとしている。

本事例に当てはめてみると、たしかに会社側の議案に賛成するか否かにかかわらず配布するということが記載されているが、それ以上に会社提案に賛同することを強調した記載になっていることから、裁判例に従いこれを利益供与に当たるとすることもできる。

 

委任状勧誘の規制

委任状勧誘とは、一般に上場株式の議決権について、自らまたは第三者が代理行使できるよう、株主に対して勧誘することを意味するが、これに対しては金融商品取引法の規制がなされる。

 

委任状による勧誘という言葉は耳にしたことがあるが、じっさいのところどのような制度なのかいまいち理解していないところでもある。今回調べた限りでは、上記の様に金商法ないし内閣府令にしたがった手続きにおいてのみこの委任状の勧誘は可能となり、これを行うのは、株主総会の招集者であるから、会社に限らず株主においても取りうる手段であるということはわかった。他方で、書面による議決権行使は、会社から株主に対して要請することができる手段であるというところに差異がある。前述の裁判例では、じつはこの株主による委任状勧誘と会社からの書面による議決権行使の要請が問題となった事案でもあった。問題点としては、委任状用紙には議案ごとの株主本人が賛否を記載する欄の設置が義務付けられていたが、株主提案および委任状を発送した段階ではわからなかった会社提案の議案についてこれを設けていなかったことが争われたが、委任状と議決権行使書面の手続き的差異等を考慮して無効としなかった。

 

 

この様な金商法上の規制等までは手が回らないけれど、知識としてしっておいて損ではないから、メモをしておこう。