【民法6】サブリースと賃料減額請求

今回は、事例から民法を考える 事例16を素材にサブリースと賃料減額請求の問題を考えてみようと思います。

 

サブリースという契約関係について

まず、サブリースという契約類型を理解するために、本事例の事実関係を確認しておきます。本事例では、Aがスポーツクラブ経営のために建物を探していたところ、Bが適当な物件を探してくる旨を約し、建物を有するCに打診し、Cがこれをスポーツ施設に改装し、Bに賃貸し、これをさらにBがAに転貸借するという関係になっている。そして、設問として提示されているのは、Aの業績が悪化したことにより収益をあげられなくなったBがCに対し、BC間の賃貸借契約について賃料減額請求を行うというものである。

 

このようにCという土地または建物を所有するオーナーが右不動産の運用をBに一括して委託し、これをBがAに転貸借するといった関係が、サブリースという契約関係である。これによりCは資産を運用することができるし、BはAから得る転貸料から収入を得ることができるし、Aとしては営業する場所を確保することができるといったメリットがある。

 

このような契約関係は、民法上の典型契約に当てはまるのかどうかが議論されてきたが、現在では判例最判H15・10・21)が、サブリースも使用収益の対価として賃料を支払うという内容を含まれている以上、賃貸借契約なのは明らかであるとしている。

 

この判例は続けて、本件契約には、借地借家法が適用され、同条32条の規定も適用されるというべきであるとしている。借地借家法32条は建物賃貸借に関する借賃減額請求権について規定している。

 

借地借家法32条の借賃減額請求権

借地借家法32条1項は、建物の借賃が、土地もしくは建物に対する租税その他の負担の増減により、土地もしくは建物の価格の上昇もしくは低下その他の経済事情の変動により、または近傍同種の建物の借賃に比較して不相当となったときは、契約条件にかかわらず、当事者は、将来に向かって建物の借賃の額の増減を請求することができるとしている。

 

借地借家法はなかなか条文に目を通す機会がないだろうから長々と書いたが、この条文で大切なところは、考慮要素が例示されていることと、強行規定であるという点であろうか。強行規定であるから、当事者間における賃貸借契約において、賃貸借期間中の賃料の変更は認めない旨の特約があったとしても、その合意は無効であり、32条の適用は認められる。

 

もっとも、減額しない旨の特約が排除され、32条の適用が認められたとしても、これにより当然に、また、どの程度の減額が認められるかは別問題である。そして、これらを考えるための考慮要素が32条1項には規定されている。要は、賃料が当初と比べて不相当となった場合に認めるという事情変更の原則を立法化したものということができる。しかし、単なる価格の変動という事実のみならず、賃料が定められた要因や経緯なども総合考慮するべきだというのが平成15年判決の示すところである。

 

このような考慮要素によりどのような結論が具体的に出されるかは、個別的な事案について検討するほかない。本事例においては、BC間の賃貸借契約においては賃料が固定式に設定され、これには、経済的変動に対するリスクはBが負うことが現れているとも言える。さらに、CはBからの賃料支払いを期待して改築費用の融資を受けたわけであるから、減額が許されたとしても、Cが返済しなければならない右融資額を下回るほどの減額は認められないと考えることもできる。

 

賃貸借契約解除と転貸人への明渡請求

最後に、転貸借関係における一般的な問題を確認しておこう。

 

つまり、賃貸借契約が解除された場合に、適法転貸借の転借人に対して、賃貸人が明渡請求をすることができるかという問題である。

 

判例最判H9・2・25)では、賃貸借において紛争が生じ賃借人が賃料を支払っていない状態で、賃貸人が解除の意思表示をし、転借人に明渡請求をした段階で、転貸借契約は社会通念上履行不能となると判示されている。これは、転貸人から転借人に対する転貸料支払請求事件における判示である。

 

そして、賃貸人からの明渡請求については、解除の原因によってその結論が変わっている。つまり、賃借人の債務不履行を原因として賃貸借契約が解除された場合には、転借人に対する明渡請求は認められるが、賃貸借契約の合意解除は、信義則により転借人に対抗することができないとする。では、本事例のような更新拒絶(本件では賃借人からの拒絶)により期間満了となった場合には、どのように解すべきであろうか。この点、Cが減額に応じなかったという理由から債務不履行解除に利益状況が似ているとして、明渡義務を認めることも考えられる。また、本件がサブリースの事案であり、賃貸借契約と転貸借契約の関係を一体的に考えるとすれば、BC間の紛争により更新をせず期間が満了したということをAに主張することは信義則に反するという判例最判H14・3・28)に近い考え方もすることができるかもしれない。もっとも、平成14年判決は賃貸人がサブリース関係において中心的立場の者であった。本事例での賃貸人たるCはAB間のサブリース計画に参加した者であって、利益状況が異なるようにも思え、一般の賃貸借契約と転貸借契約の関係と同様に、CからAの明渡請求を認めるという考え方がしっくりくるように思える。