【民訴6】既判力の拡張、反射効

今回は、事例研究 民事法Ⅱ 第1部 問題4を素材に、既判力の拡張、そのうち主に反射効について考えてみようと思います。この問題の反射効についての設問は設問4で、この事例の素材となった判例最判S51・10・21です。

 

事例としては、Xが貸金債務の主たる債務者Y1とその債務の連帯保証をしたY2とを相手に訴訟を提起したが、Y2が訴訟に出席しなかったため、裁判所はこれらの訴訟の弁論を分離し、Y2についてはXの陳述に対する擬制自白を認め弁論を終結し、認容する判決を出した(①判決)。その後Y1との訴訟においてXはその請求を放棄した(②判決)。そこで、Y2は①判決に基づく執行について、②判決を援用して請求異議の訴えを提起した(③訴訟)というものである。ここでは、③訴訟で②判決を援用することは、①判決との関係でどの様な影響を受けるかという問題が生ずる。

 

 

反射効の意義

まず、反射効とは、当事者間に既判力の拘束のあることが、当事者と実体法上特殊な関係すなわち従属関係ないし依存関係にある第三者に反射的に有利または不利な影響を及ぼすことをいう。

 

これがどのような場合に生じると考えられているかというと、保証関係がその例とされる。つまり、主たる債務者への請求が棄却された場合には、保証債務についても不利(保証人勝訴)に影響するということである。

 

ここで注意が必要なのは、反射効は既判力とは異なるものであるということである。

 

判例における反射効

判例にでは、反射効という効力を直接に認めることはなされていないようである。

 

本事例の素材となった判例においても、反射効という効力には触れられず、この判例の分析をするものによれば事案を既判力により解決を図っているとされている。

 

この判例はその点において特殊な面を有し、反射効が問題となる保証関係の紛争につき、既判力の時的限界という問題で処理しているように思われる。つまり、判例においては、保証人が請求について争わずして敗訴が確定し、その後主たる債務者との関係で債務の不存在が認められたとしても

「同判決が保証人敗訴の確定判決の基礎となった事実審口頭弁論終結の時までに生じた事実を理由としてされている以上、保証人は右主債務者勝訴の確定判決を保証人敗訴の確定判決に対する請求異議の事由にする余地はないものと解すべきである。」とする。

 

この判旨はつまり、主たる債務者が勝訴した理由となった事実は保証人との訴訟における口頭弁論終結前までに生じた事実であるから、これを提出せずに確定した後に、後訴でこの事実を主張することは既判力により遮断されるという方法で、保証人による請求異議の訴えを棄却している。

 

これにおいては、そもそも主たる債務者と保証人との弁論が分離され、時間差を生じて判決が出されたことにも原因があるといえる。しかし、訴訟法上はこのような主債務者および保証人の関係では必要的共同訴訟にはならず、通常共同訴訟であるから、裁判所が職権で弁論を分離したことは適法となる。もっとも、弁論が分離された理由が保証人が請求について認めているという事情があったからであると考えれば、もし、保証人が主たる債務の存在や保証債務の存在について争う態度を示している場合には、恣意的に弁論を分離することは裁判所のミスとして、その後の保証人による請求異議の訴えを認めるという考え方もできるように思われる。

 

なんにせよ、主債務と保証債務とは別個の訴訟物に基づくものであるから、これらについて既判力による拡張を認めることは困難であるし、反射効という効力を認めるとしても、それはやはり保証債務の付従性などの実体法上の法律関係を根拠になされるものと考えられるから、やみくもに反射効というものを使うことは妥当ではないだろう。

 

請求の放棄の性質

ここで、本事例では判例とは異なり、債権者が主たる債務者との訴訟において、請求の放棄を行っている。上述の通り、先に敗訴が確定した保証人が後訴で②判決を援用する場合、②判決の勝訴の理由が①訴訟の口頭弁論終結時点で生じている事由であった場合にはその主張が遮断されることになる。もっとも、請求の放棄それ自体の効果として主たる債務の消滅という効力が生じるのだとすれば、これは口頭弁論終結後に生じた事由として、保証人は後訴での主張が認められることになる。

 

この点、請求の放棄が訴訟物たる権利関係の主張についてそれを維持する意思のないことを裁判所に対して陳述する訴訟行為であって、債権の放棄と同一と見ることはできないと解されていることからも、保証人敗訴後に請求の放棄がなされていても、後訴において保証人が②判決を援用することが許されないということには変わりはないように思える。