【行政法7】国家賠償法3条1項の費用負担者

今回は、事例研究 行政法 第1部 問題9を素材に、国家賠償法3条1項の費用負担者について考えてみようと思います。素材判例は、最判S50・11・28です。

 

国家賠償法3条1項は、同法1条1項及び2条1項の責任を追及する場合に、実際の行為主体と費用等の支出者が異なる場合について規定している。この規定は、今回の事例の様に、実際に公園および保護柵の設置をした甲県が責任主体となりうるが、国もまた自然公園法および同法施行令に基づく補助金を支出していることから責任主体となりうるのではないかという場合に問題となる。

 

一見して、本件においても国は補助金を支出しているのだから3条1項により責任を負うのではないかと考えることもできるが、本件における補助金が、3条1項の費用に含まれるかという点を考える必要がある。なぜなら、この3条1項にいう費用とは、(公の営造物の設置と管理の瑕疵に関する責任においては)公の営造物の設置と管理について負担されるものでなければならず、単なる贈与的な支出であれば、3条1項にいう費用には当たらないと考えられるからである。

 

本件事例はほぼほぼ素材判例と同様であるから、この点についても素材判例である鬼ヶ城事件判決を理解することにしよう。

 

判例における規範

 この判例は3条1項における費用負担者には、当該営造物の設置費用につき法律上負担義務を負う者のほか、これと同視しうる補助金支給者もこれに含まれるとしている。

 

この様な規範を導く前提として、3条1項の趣旨が、被害者の救済にあり、行為主体と費用負担者が異なる場合に賠償責任の追及を困難にすることを防ぐことにあるとしている。つまり、行為主体と費用負担者が異なる場合には被害者としてはいずれに対しても責任追及をすることができ、その責任割合は3条2項における内部問題として解決すべきだとしているのである。

 

そして、いかなる場合に補助金支給者が法律上の負担義務者と同視しうるかという点については、①費用負担者が法律上負担を義務付けられている者と同等もしくはこれに近い設置費用を負担し、②実質的に当該営造物による事業を共同して執行していると認められる者であり、③当該営造物のの瑕疵による危険を効果的に防止しうる者であるとしている。

 

この3つの要素がいかなる関係にあり、どの点を重視すべきかについては明確ではないが、判例百選の解説によれば、②を基本とすべきだが、③ないし①の点を中心に考えざるをえないのではないかとしている。いずれにせよ、これら3つの要素は相関関係的なものになると思われ、補助金の支給額が多額になればその分当該補助金支給者の関与が強まる場合が多いであろう。

 

また、この判例の射程については、この判決が国賠法2条1項が適用される場合における判断であるから、本判決の法理が直接妥当するのは2条1項の責任に限られ、1条1項の責任の問題では、射程外となりそうである。

 

その他の問題点

本事例では、上記の3条1項の問題に加え、2条1項における問題点もある。その中でも重要なのは、被害者の営造物に対する使用方法がいかなる態様であったかという点に着目し、2条1項の瑕疵が通常有すべき安全性であることから、この使用方法が通常想定される使用方法による場合に賠償責任を限定するという守備範囲論である。

 

この守備範囲論は上記の様に「設置管理の瑕疵」についての解釈から導き出されるものであるが、これに対する反論として、通常想定される使用方法以外の方法がとられていたとしても、これが当該営造物に関して予測される使用方法であった場合や、この様な使用方法がなされていることを認識していた場合には、守備範囲論によって責任を免れることはできないというものがある。また、この予測に関しても一律に一般人を基準とすることは妥当ではなく、当該営造物の設置場所や使用環境等により変化すべきものである。

 

最後に、2条1項の問題とは異なるが、国賠法4条により、民法の規定が適用されることがあるため、本件事例の様に被害者に過失がある場合、過失相殺がなされることも忘れないようにしよう。