【民法7】共有物と持分権の主張

今回は、事例から民法を考える事例5を素材に、共有物と持分権の主張について考えてみようと思います。素材判例は、最判S41・5・19です。

 

今回の事例では、相続財産である甲土地および乙建物が相続によりECDの共有状態となったことが前提となる。さらに、事案を考える上では、被相続人であり両不動産の所有者であったのがAであり、EがAとともに居住し、さらには、家業を行っていたという経緯が重要となる。まずは、共有物における持分権者の主張について簡単に確認しておきたい。

 

所有権の共有と持分権

まず、ひとつの不動産について複数人の共有となる場合、各人の有する当該不動産への権利が一体どのような性質を有するものなのかという問題がある。これには、共有者全員において所有権が認められるとする単一説と所有権とは独立する持分権を各人が有するという複数説があったが、現在の通説は複数説である。これを採る我妻先生も、この問題においていずれの説を採るかは結論においては相違がないことを認めていて、要は、当該不動産への権利を侵害する場合などにおいて権利主張をするにさいし、構成が異なるというところに意味がある。ちなみに、通説が複数説を採る理由としては、単一説に基づき共有者の一人が権利主張をして、訴訟に敗訴した場合に、その既判力は他の共有者におよんでしまうことから、手続き的保障がなされないということは認められないということにある。

 

主張の構成として考えれば、単一説によれば共有者の一人からの権利主張は所有権に対する保存行為であるということになり、複数説によれば各自の持分権にもとづき、さらに不動産の明渡等が不可分債務であることを理由とすることになる。

 

では判例が採ってきた立場を確認しよう。基本的に、従来の判例は単一説によってされる説明がなされてきた。しかし、最判H15・7・11は共有者の一人による不実登記の抹消手続き請求について、明示的に持分権に基づくとしていながら、単独での抹消登記手続請求を認めている。

 

共有者の一人による明渡請求

本事例のように従前から不動産を占有していたものに対して、共有権者はそれを排除し自己に明け渡すように請求することはできるだろうか。確かに、共有者であれば、すでに占有をしている者についても自己の持分権を超える範囲で使用する権限は有しない。

 

この点について判例は、

「他のすべての相続人らがその共有持分を合計すると、その価格が共有物の過半数を超えるからといって、共有物を現に占有する前記少数持分権者に対し、当然にその明渡を請求するものではない」としている。

もっとも、この判決には、「明渡を求める理由」を主張立証すれば明渡を請求することも可能である旨が述べられている。この点については、各事例において個別的判断をするほかないだろうが、もっとも重要なのは、当該不動産の占有についての共有者間の合意の有無であろう。これが共有物の管理の内容として過半数による合意とされていれば、その決定に従うべきことになる。逆に、このような合意がなく、しかも従前の共有財産となる前の使用状況が続いており、それについて共有者となる者が異議を申し立てていないといった事情があるのであれば、やはり明渡請求を認めるべきではなく、これを主張することが権利の濫用として排斥されることも考えることができる。

 

今回の事例では、Eが従前から使用していたことから第三者Fに対して無償で貸借しているが、少なからずこれはCDの持分権を侵害することになるから、Cからの持分権の割合を限度にする賃料相当額の支払い請求については認められることになるだろう。

 

抹消登記か更正登記か

自分が気になった点として、無断で移転登記をした後に持分権侵害として登記を抹消する際になされる登記手続きは、抹消登記なのか一部抹消(更正)登記なのかという問題がある。

 

本件事例では無断で移転登記をしたのがAが死亡する前のいまだ共有状態となっていない時点であるから、真正な登記の表示という不動産登記法の趣旨からして、抹消登記をすべきだという主張が自分としては理解がしやすかったが、実際にどのような登記手続きをとるべきかというところはなかなか難しそうである。