【行政法8】行政行為の撤回と法律の授権、撤回の手続法的検討

今回は事例研究行政法 第1部 問題3を素材に行政行為の撤回と法律の授権について考えてみようと思います。参考判例最判S63・6・17です。

 

 今回考えてみるのは行政行為の撤回と法律の授権についてですが、今回の事例に含まれている行政法学の基本的な点についても確認をしていこうと思います。

 

基本的な知識の確認

設問1ではXの提起すべき訴訟の形式と被告が問われています。ここでの基本的な知識としては、行訴法3条2項の処分の意義ですが、そもそも問題となっている「指定医師の指定の取消し」という行為が行政行為の撤回であり、これも行政手続法上の不利益処分に当たるという点を理解しなければなりません。

 

つまり、行政行為の取消しには、狭義の行政行為の取消しと行政行為の撤回という二つの類型があり、行政行為の瑕疵が原始的に生じているのか後発的なものなのかにより区別されます。そして、行政手続法上の「不利益処分」は、行政庁が法令に基づき、特定の者を名あて人として直接に義務を課しまたは権利を制限するものいいます。したがって、行政行為の撤回も権利を制限するものとして不利益処分にあたります。

 

なお、行政行為とは、法令に基づき行政機関が一方的に行う行為であり、これにより公定力が生じるものをいいます。

 

また、被告を考える上で、行訴法11条の被告適格の条文を確認する必要があります。11条は原則として処分を行った行政庁が属する国または公共団体を被告とすべきとする行政主体主義を採っている。しかしながら、同条2項は処分をした行政庁が国または公共団体に属さない場合には当該行政庁を被告とする旨の例外を設けている。そこで、被告を考えるには、当該処分を行った行政庁を確定しなければならないことになります。

 

この点、解説に付属するミニ講義の中に「行政庁が行う行為が行政行為なのではなく、行政行為を行うものが行政庁なのである」という明快な説明がなされています。つまり、当該処分(行政行為)を行う者が行政庁として認められ、当該行政庁がどのような性格を有しているかを検討することになります。本事例では「指定医師の指定の取消し(撤回)」という処分(行政行為)を行ったのは甲県医師会であり右医師会は公的機関ではないが当該処分における行政庁ということになる。そして、甲県医師会は国または公共団体に所属するものではないから甲県医師会自体を被告とすることになる。

 

さらに、Xが当該処分の違法性を主張する上で重要となるのは、取扱規則の法的性格である。一般に規則は法規命令と行政規則の分類でいう行政規則に当たるものであり、行政機関の内部的規律を定めたものにすぎない。行政規則はこのように国民の権利義務を制限するものではないため、法律の留保を必要としない。そこで、上記のように本件処分たる行政行為の撤回の理由とされる事由が取扱規則にあるため、これを根拠に行政行為を行ったとすれば法律の留保に反することになる。すなわち、行政行為の撤回に法律の授権が必要かという問題が生じるのである。

 

また、取扱規則の内容に着目してみれば、これは行政庁が処分(本件で言えば不利益処分)をする基準を定めているものと言え、すなわち処分基準の性質を有しているといえる。この処分基準は審査基準とともに裁量基準と言い換えられるが、その性質もまた行政規則であることが原則である。そこで、Xが主張する違法性の内容として、この裁量基準に関する実体的違法性の主張が考えられる。

 

行政行為の撤回と法律の授権

さて、だいたいのことは基本的な確認の中でやってしまったような気がしますが、行政行為の撤回と法律の授権について判例を確認していくことにしましょう。

 

この問題の内容は上述の通りで、行政行為の撤回も行政行為の一つであることから独自の法律の留保を必要とするのではないかという点にあります。もちろん、法律の委任を受けた法規命令において撤回についての留保がなされていればこれを根拠に行政行為を撤回することは何ら問題ないと思われます。しかし、本事例のように法令においては権限の付与についての規定しか設けておらず、権限の取消しについての裁量基準が行政規則により定められている場合には、問題となる。

 

ここで参考判例となっている菊田医師事件について判例百選をみても判旨が簡素であることに驚くばかりです。では、判例はどのように理解すべきなのだろうか。事例研究の解説を読むと、判例は当初行政行為の法律による授権にはその撤回の授権も含まれているという考え方を採っているとしています。つまり、本事例で言えば、指定医師の指定についての根拠規定において指定医師の指定の取消しについての授権もなされているということになります。そして、参考判例の射程についての問題はあるが、同様の問題についての判例の状況を整理すると、①まず撤回権の行使によって得られる利益と、これによって生じる不利益とを比較衡量し、②当該処分の放置が公共の福祉の要請に照らして著しく不当であると認められる場合かどうかを検討して、この場合にのみ撤回を許容するという検討手順を踏んでいるようである。参考判例が②についての検討をしていないように思えるのは、事例が撤回される者に有責性がある場合であるからとも考えられる。

 

以上はXの行政行為の撤回についても法律の授権が必要だという主張に対する甲県医師会側の反論となるが、判例に従えばこの点に関する限りで撤回は違法とは言えないだろう。

 

行政法も少しやらないと定義やら仕組みやらが抜けてしまうから網羅的にこなしていかなくては。