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【刑訴法8】鑑定に関する問題

今回は、事例研究 刑事法Ⅱ刑事訴訟法 第4部 問題9を素材に、鑑定に関する問題について考えてみようと思います。今回は鑑定という大きなくくりで制度上問題となる点を検討するため、参考判例を中心に確認していこうと思います。

 

参考判例としては、強制採尿について必要となる令状に関し最決S55・10・23、私人による鑑定書の証拠能力につき最決H20・8・27、科学的証拠の鑑定結果の証拠能力につき最決H12・7・17、精神鑑定結果の拘束力につき最決S59・7・3および最判H20・4・25です。

 

強制採血に必要な令状

まず、鑑定の前段階となる被疑者の血液の採取について、いかなる令状によれば強制採血をすることが可能であるかが問われている。

 

参考判例としてあげたものは強制採尿のものであるからこの判例をそのまま援用することは当然できないが、ここでなされる議論をもとに強制採血の場合を検討することになる。

 

まとめ的に整理をしておけば、強制採尿には、医師をして医学的に相当と認められる方法により行わせなければならない旨の条件の記載をした捜索差押許可状により執行され、強制採血は、医師をして医学的に相当と認められる方法により行わせなければならない旨の条件の記載をした鑑定処分許可状と同条件を記載した身体検査令状を併用して執行することになる。

 

この両者で必要となる令状については議論があるところではあるが、実務的には上記のようになっていると説明されるため、これを記憶することで足りるだろう。強制採尿と強制採血との違いを考えれば、尿がいずれ体外に排出されるものであり、強制に身体的損傷をあたえず採取することができるといったところで、強制採尿の手続きではより緩やかな捜索差押許可状のみでの執行が可能とされている。

 

私人による鑑定の結果と証拠能力

本事例では、捜査機関の嘱託に基づくわけではなく、私人としてDが血液の分析を行い、この結果を報告書として提出されている。この報告書の性質と、証拠能力の有無を考えてみる。

 

まず、本事例の分析のような、特別の知識経験に属する法則またはその法則を具体的事実に適用した判断の報告は判例のいう鑑定の定義に当てはまる。そして、その判断報告を記載した報告書は、鑑定結果を記載した鑑定書ということになる。そして、供述を内容とする書面は、当該書面に記載された供述の内容の真実性を証明するために用いられる場合には、伝聞証拠となり、321条以下の伝聞例外に該当しない限り証拠能力は否定される(320条、伝聞法則)。すなわち、本件鑑定書は、鑑定結果という鑑定人の供述を内容とし、本件における立証趣旨は定かではないが、その内容の真実性の証明と考えられるから、伝聞証拠として、原則証拠能力が否定される。もっとも、鑑定書であれば321条4項により、鑑定人が法廷で真正に作成されたものであることの供述がなされれば、証拠能力を認めることができるとされている。しかしながら、刑訴法で考えられている鑑定人とは、裁判官に命じられて鑑定を行ったものと考えられており、何らの命を受けていない私人の場合にはこれを適用することはできないと言わざるをえない。そこで、この321条4項を私人の場合に準用できるかという問題が生じる。

 

参考判例では、目的となった報告書は321条3項書面であるとして証拠請求されたが、裁判所は321条3項の文言からこれを準用することはできないとした。しかし、報告書の性質上321条4項を準用することで証拠能力を認めることができるとしている。この判例には、3項文書と4項文書との区別が不明確となるという批判がなされているが、私人が行う場合には、五感の作用に基づいて認識した結果を記した実況見分調書と学術的経験に基づく法則を適用し判断した結果を記した鑑定書の区別がそもそも曖昧であることから、個別に検討するほかないようにも思える。現在では、少なくとも、特別の学識経験を有するものが、かかる学識経験に基づいて一定の実験を行い、その考察結果を報告したものについては、321条4項を準用できると考えることになるだろう。

 

鑑定結果の拘束力に

これまでの鑑定のもととなる証拠の収集方法や鑑定書の証拠能力といった問題と異なり、裁判所と鑑定結果との間の問題がある。つまり、裁判所が当該裁判上必要となる知識経験の不足を補うために第三者に鑑定を命じる場合、この鑑定結果に裁判所が拘束され、鑑定結果と異なる判断をすることが許されないのではないかという問題が生じる。

 

たしかに、本事例のように精神鑑定を命じた、被告人が心神耗弱か心神喪失かという判断は鑑定人に法的評価を命じているようにも思え、これが専門的知識経験から判断された場合には、裁判所の判断と当然になりそうである。しかし、鑑定により得られた結果としては、たとえ上記のようなものであっても、証拠資料の一つに過ぎないと考えるべきであり、これをいかに評価するかは裁判官の自由心証に委ねられていると考えることが妥当である。

 

もっとも、参考判例の後者では、精神障害の有無および程度等に関して、精神医学者の鑑定意見を採用しえない合理的な事情が認められるのでない限り、その意見を十分尊重して認定すべきであると判示している。

 

 

最後に、鑑定とは異なるが本事例では捜査機関が被疑者が出したゴミ袋の内容物を領置したことも証拠物の押収として令状の有無が問題となる。この点は、被疑者の出したゴミ袋の内容物の領地に関して判断した最決H20・4・15が刑訴法221条による遺留物の領置として無令状での押収を適法としている。