【刑法9】不正なパチスロ遊戯とメダル窃取の限界

今回は、事例から刑法を考える 事例19を素材に、不正なパチスロ遊戯とメダル窃取の限界について考えてみようと思います。参考判例は、最決H19・4・13と最決H21・6・29になります。

 

今回のテーマはパチスロ遊戯とメダル窃取という限定的なものですが、そもそもパチスロにおける遊戯とメダルの取得というシステム自体に複雑なところがあり、不正なメダル取得が窃盗に当たると考えた場合でも窃盗罪の構成要件に該当するかを検討する余地が多分にあることから、参考判例を確認して、考えていきましょう。

 

不正なパチスロ遊戯とメダル取得

パチスロ機からメダルを不正に取得するという行為が窃盗罪の構成要件に該当するかどうかについて、問題となる点を整理すれば、①パチスロ店内でメダルをパチスロ機から取得してもいまだメダルの占有を移転したとは言えないのではないかという点、②窃盗罪における窃取という概念との関係で問題がないかという点、③不法領得の意思のうち、権利者排除意思が認められるかという点、ということになる。

 

まず、①の点については、行為者がメダルを景品と交換するかゲームに再利用するかを自由に選択できるようになった点で、その占有を取得したと言える、というように説明が可能である。

 

また、③の点についても、不正に取得されたメダルを景品と交換する意思は、その交換価値の消耗を内容とする点で権利者排除意思といえると説明される。

 

このいずれの点もパチスロというシステム自体に不正に取得されたメダル等によっては景品交換は行わないという前提があることを意識することが大切であろう。不正に取得したものを変換する意思を有していたとしても、本来有する交換価値を見過ごすことはできず、これを消耗していることで権利者排除意思を肯定することができるだろう。

 

もっとも問題があるのが②の点である。窃盗罪における窃取とは、権利者の意思に反する占有の移転であり、この「意思に反する」という点をいかに解するかという問題でもある。不正は方法でメダルを取得しているのだから権利者すなわち店主の意思に反するということは当然に可能であろう。しかし、この意思に反するという点をこのように広く解することは不都合がある。すなわち、本事例においても、店内に「暴力団関係者、プロの方の入店禁止」という看板が掲げられているため、そもそも体感機を使わずともXおよびYがパチスロ機を使用してメダルを取得したこと自体も「意思に反する」と言えなくはないのである。このような場合に窃盗罪を成立することが妥当ではないことは明らかであるから、たとえ「意思に反する」としても解釈により何らかの限定をかけるべきなのではないかというのが、今回の②の点の問題である。

 

判例はこの点に関し「通常の遊戯方法の範囲を逸脱しているか否か」ということをキーワードにしているようである。つまり、権利者の合理的意思を解釈すれば、通常の遊戯方法によるメダルの取得は意思に反しないため窃取とは言えないが、これを逸脱した遊戯方法によりメダルを取得した場合には、権利者の意思に反するとして窃取を認めるのである。たしかにこのキーワードは「意思に反するか否か」についての指針を示しているようにも思えるが、実際に内容は不明確なままであって、何が「通常の遊戯方法の範囲」なのかは定かではない。結局のところ、それぞれの店舗の店主の意思というより、これを超えてパチスロという特殊なシステムの前提として許容されている遊戯方法を「通常の遊戯方法」として、これに反するような方法でメダルを取得することは権利者の意思に反するものだとするほかないだろう。

 

不正な方法でメダルを取得していたYを隠蔽していたXについて

さらに、以上の問題は実際に不正な方法を用いてメダルを取得した実行犯についての議論である。本事案では実行犯たるYの不正行為を隠蔽するためにプレーしていたXについての罪責も検討する必要がある。ここで、XとYが共同して犯行を計画し実行していることから窃盗の共同正犯が成立することは当然認められる。もっとも、Xが独自にプレーしていたのは通常の遊戯方法にほかならないから、Xが窃取した目的物はYが不正な方法により取得したメダルの範囲に限られると言わなければならない。つまり、Xが独自に取得したメダルについての窃盗罪の成立は否定される。

 

最決H21・6・29は本事例でのXのように不正な方法でメダルを取得する共犯者を隠蔽するために通常の遊戯方法でプレーしていた者について判断したものである。ここでは、原判決が通常の遊戯方法により取得したメダルについても窃盗罪の成立を認めていた点につき法令の解釈適用を誤ったものだとしている。もっとも、この点につき誤認があっても、刑訴法411条の適用はないとして上告を棄却している。

 

本事例では店員Zが逃げようとするYに対し暴行を加えたところYが頭を打ち意識不明になった(のちにこれを原因として死亡)後にZが腹いせにYを踏みつけ傷害を負わせたという過剰防衛についての量的過剰の問題も付け加えられている。量的過剰を判断する一体的判断のための事情については確認を要するが、問題を読んだ限りでこれが一体的に判断され過剰防衛となるとは思えないから、今回は取り上げなかった。

 

ただ、「単なる犯罪行為としての「傷害」より過剰防衛の「傷害致死」の方が実質的には有利な認定であり、しかも、単なる犯罪行為としての「傷害」であれば過剰防衛による刑の減免の余地はないが、過剰防衛の「傷害致死」であれば刑が減免される可能性がある。」という最決H20・6・25の調査官解説の記述は単純に不意をつかれた。