【行政法9】規制行政の分類、裁量基準の個別的審査義務

今回は、事例研究 行政法第2部問題11を素材に、規制行政の分類と裁量基準の個別的審査義務について考えてみようと思います。解説内には幾つかの素材判例が挙げられているが、今回のテーマについては福岡地判H3・7・25(控訴審はH4・10・26)のようです。

 

規制行政の分類

まず、設問1で問われている、伝統的な行政行為の分類に照らせば本事例における温泉掘削許可(温泉法3条1項)がいかなる性質があるかを考える。

 

このような行政行為の分類が問題となるのは、明文上の文言と行政法学上の分類とが一致しないことがあるためで、さらには行政行為の性質は事情の変化にともなって変わる可能性があるからでもある。この温泉掘削許可についても、これまでの分類とはことなるものであるとの主張もなされているところのようである。

 

そこで、許可や認可といった規制行政の分類とその定義を確認していこう。

 

まず、許可制とは、ある種の国民の活動を一般的に禁止した上で、国民からの申請に基づき審査を行い、一定の要件に合致する場合、禁止を個別具体的に解除する法的仕組みである。ここでポイントとなるのは、本来であれば自由である行為につき、原則禁止とするという点であろう。そのため、許可制の中でもその禁止の趣旨によって警察許可と公共事業許可という分類がなされる。

次に、特許制とは、国民が一般には取得しえない特別の能力または権利を設定する行為のことである。これは許可制とは異なり、国民にとって一般的に自由な行為を規制するのではなく、特定の行為をするための地位を付与するものである。

最後に、認可制とは、法律行為の内容を行政庁が個別に審査し、当該行政庁が効力を発生させる意思表示が法律行為の効力を補充して効力を完成させる仕組みをいう。認可制のポイントは、行政庁がする認可はあくまで法律行為の効力を補充し、完成させるものにとどまるという点であろう。

 

このように従来の行政行為の分類を確認して、温泉掘削許可について考えてみると、温泉掘削をしようとする者がこれを行えるようにするために行政機関に申請し、許可を受けることで温泉掘削をすることができるとされるものであるから、許可あるいは特許であると考えられる。この両者のうちいずれかは上記のように国民にとって一般的に自由とされている行為か否かという点が重要となるだろう。これを考えるためには許可の根拠法たる温泉法の趣旨目的および当該制度の運用状況等を参考にする。

 

たしかに、温泉法の1条をみると、温泉を保護し、災害を防止することで温泉の利用の適正を図るというある種の特許制度を目的としているとも考えられる。しかし、温泉掘削許可数の資料をみると、過去8年間において申請をしたが不許可とされた例は数が少なく、特別の地位を付与しているものは言い難い。つまり、一般的には自由である温泉掘削について、温泉を保護するためという公共目的によって原則禁止にし、このおそれのない場合にはその禁止を解除するという許可制が採られていると考えることができる。

 

なお、許認可等いずれに当たるとしても、行政手続法上の行政庁における応答義務および事前手続きの必要となる申請にあたる。

 

裁量基準の個別的審査義務

本事例では、温泉掘削許可の申請に対する不許可処分につき取消訴訟を提起するというものであるが、その本案において違法事由として主張することの中に、「裁量基準を機械的に運用し適用したことは違法である」という旨のものがある。これが意味することが、裁量基準の個別的審査義務というものである。

 

まず、前提として、本事例における温泉関係許可基準内規は上記のように温泉掘削許可の申請を判断するための内部的審査基準である。これは、行政手続法において作成および公表が義務付けられる審査基準と考えられる。このように許可をするか否かにつき行政庁に裁量権があると考えられる場合に、基準となるべき審査基準は裁量基準であり、行政規則に該当するため、国民に対する拘束力がないことは当然ながら、行政庁に対しても、これに反して処分を行ったとしても直ちに違法となるものではなく、当不当の問題が生じるのみと考えられている。しかし、このような裁量基準であるとしても一度基準を設定し国民に公表されたものに反することは申請者間の平等原則違反の疑いが生じると考えられるし、原則として、この基準に則った運用をすることが望ましいと考えられる。

 

以上は裁量基準と行政処分の原則的な運用についての考え方であるが、これとは異なり、裁量基準を形式的に適用することで妥当でない結論が出る場合には、裁量基準を適用せず、個別的な審査をすべきであるとする考え方が、裁量基準と個別的審査義務の問題である。この問題のポイントは、主張の中心はそもそも裁量基準を適用する前提とは異なるという旨である点である。つまり、裁量基準が設定された趣旨目的を考え、自らが申請した事情からすれば、当該裁量基準が設定された趣旨目的には当たらないもしくはこれと異なる等の主張ということである。

 

実際には素材とされた裁判例でもこれは認められなかったが、行政処分の違法性主張のひとつの手法としてチェックしておくべきものではある。