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【刑法10】振り込め詐欺と誤振り込み

今回は、事例から刑法を考える 事例20を素材に、振り込め詐欺と誤振り込みの問題について考えてみようと思います。参考判例は、振り込め詐欺について東京高判H17・12・15で、誤振り込みについては最決H15・3・12です。

 

まず、本問ではXについての振り込め詐欺出し子の問題の前に、拾った免許証を変造し、無人契約機のスキャナーに提示してローンカードの交付を受け、さらに隣接する貸出機から金銭を引き出したという最決H14・2・8をモデルとした事実もあります。

 

簡単に要点だけメモしておけば、免許証の偽造については、一般人が真正な文書だと誤信する程度の外観を備えていなければならないのではないかという問題があり、これに当該文書の利用態様から誤信可能性を考慮に入れるべきかという点を論じる必要があるようです。また、偽造文書の行使についてもスキャナーにかざすという点がこれに当たるかを述べる必要があります。

 

ローンカードの交付および金銭の引き出しについてはローンカードの財物性と金銭の財物性が異なることを指摘し、ローンカードが対人であるから詐欺(1項)、金銭は貸出機であるから窃盗と処理し、これらは併合罪になるというところまで押さえておきたいところです。

 

では、本題の振り込め詐欺と誤振り込みについて考えてみます。

 

振り込め詐欺出し子

まず、振り込め詐欺の本犯たるY・Zの罪責を確定させておくことが整理に役立つと思われます。

 

振り込め詐欺については、組織的犯罪法の管轄でもありますが、本件のように他人を装い電話をかけ、指定する口座に金銭を振り込ませるといった典型的な振り込め詐欺は、刑法上の詐欺の構成要件に該当するものと考えられます。もっとも、今回のXが出し子をやっているようにこの振り込め詐欺の既遂時期がいずれの時点なのかは重要であると思います。

 

判例では、預金として振り込まれた時点で実質的には引き出すことが可能となり、財物の移転が認められ、既遂に達すると考えられているようです。そうであれば、本件においても、Xが指定されたWの口座から金銭を引き出す前に、EないしFが振り込んだ時点でYZの詐欺は既遂に達していると考えられます。

 

そうすると、Xはこの振り込まれた金銭を引き出したに過ぎないから、YZとの詐欺の共同正犯にはならないと考えられます。それでは、Xの行為はなんらかの犯罪を構成するだろうか、ここが一番の悩みどころでした。

 

なんとなくですが、振り込まれた金銭については詐欺によって交付された財物であるから、盗品関与罪の成立も考えられるのではないだろうかと思ったが、解説によれば、振り込まれた金銭とWの預金とは同一性を有しないから盗品関与罪の成立は困難だろうとしっかりと指摘がなされていました。

 

そこで、Wという非実在の者の口座から金銭を引き出したという視点から、窃盗罪ないし詐欺罪の成否を考えてみる必要があります。つまり、仮にXが拾った財布の中にキャッシュカードが存在していて、これを用いて預金を引き出した場合には、当然ながら窃盗罪が成立します。これは、Xに預金を引き出す権限が存しないため、当該引き出し行為は、窃取にあたるということを意味します。確かに、W名義の口座を開設したのはYであり、そのYから権限を与えられて引き出しているため、Wの口座から金銭を引き出す権限を有しているとも考えることができます。しかしながら、そもそもYが非実在のWの口座を開設し、通帳およびキャッシュカードの交付を受けること自体が詐欺罪を構成し、約款上Yにおいても預金を引き出す正当な権限を有していないと考えることができます。そうであれば、権限を有しないYから引き出すことを許されたとしても、XはWの口座から金銭を引き出す正当な権限を有するものとはいえないことになります。したがって、XがYの指示でWの口座から金銭を引き出した行為についてそれぞれ窃盗罪が成立すると考えられます。

 

 

誤振り込みと詐欺罪

では、2回目の引き出しをしようとした際にG社が誤って振り込んだ150万円を、Xが自己の口座に送金した行為について検討していきます。

 

ここで重要となるのは、誤振り込みがあった場合に当該金額について受取人の預金が成立するかという点、判例が詐欺罪の成立根拠としている告知義務が生じない預金預払機からの送金というケースに当該判例の射程が及ぶかどうかという点です。

 

判例が誤振り込みにおいて判示した内容はといえば、誤振り込みであっても受取人の預金が成立する(民事判例を引用)が、銀行実務や社会的条理を考慮し受取人において、自己の口座に誤った振り込みがあることを知った場合には、銀行に組戻しといった措置を講じさせるため、誤振り込みがあった旨を告知すべき信義則上の義務があるとし、これに反して払い戻しの請求をすることは銀行に対する欺罔行為にあたるということである。

 

この判例によれば前半の問題は解決したが、後半の問題である、射程について考えなければならない。

 

確かに、判旨は誤振り込みがあった場合には告知義務が生じるとする。これは銀行窓口において銀行に当該事実を告知することができる状況の場合にのみ当てはまるものとも考えられる。しかし、判旨が続けていうように、告知義務があるのは、誤振り込みにより得た金額部分には最終的に自己のものとする実質的権利が存しないからであるといえ、このような実質的権利が存しない場合であれば、当該判例の射程がおよび、誤振り込みがあったことを告げずに払い戻しを受けることは許されないと考えるべきであろう。

 

本件では誤振り込みにかかる金額部分について引き出したわけではなく、自己の口座に送金するという手段を使っているが、この場合には、告知義務に反して送金することが電子計算機使用詐欺の「虚偽の情報」を与えたに該当するといえるだろう。

 

なお、YZとの共犯関係を考えると、振り込め詐欺はXが加攻する以前に既遂に達しているため、共犯関係を生じない。他方でXが引き出したEないしFからの金銭については窃盗罪はYZの指示のもと行われたものであるからXYZの共同正犯となる。また、Xが行なった電子計算機使用詐欺についてはX単独の犯罪と考えられるから、YZに共犯関係は生じない。

 

 

今回は多くの犯罪が関係する複雑な問題であったが、解説の丁寧さに感動を覚えた。生徒との議論を楽しんでいた島田教授の寛大さに脱帽です。