【刑訴6】先行手続きの違法と証拠能力

今回は、事例研究刑事法Ⅱ 刑事訴訟法第4部問題3を素材に、先行手続きの違法と証拠能力の問題について考えていこうと思います。参考判例は、最判S53・9・7と、最判S61・4・25および最判H15・2・14です。

 

今回の事例は非常に典型的という感じがしますが、典型的であるがゆえにしっかりと問題提起から結論までのプロセスを理解する必要がある気がします。簡単に事例を見ると、詐欺罪の容疑がかけられた甲の様子を警察官が見に行くと覚せい剤の影響による錯乱状態のような甲を発見し、甲が警察署による採尿に応じないため、複数の警察官により連行し、説得を続けて最終的に尿を任意提出させ、これを検査したところで通常逮捕し、覚せい剤使用(および所持)の容疑で捜索差押許可状の発布を受け、これを執行したところ覚せい剤を発見したため差押をし、これを鑑定したというもので、覚せい剤使用の罪で起訴された際に請求された各種証拠の証拠能力が認められるかという問題である。

 

対象となる証拠は、①甲の尿を鑑定した結果を記した鑑定書、②覚せい剤そのもの、③覚せい剤についての鑑定結果を記した鑑定書である。事例の特殊性としては、採尿手続きおよびその提出に強制手段が取られたという事情がないという点と、甲には詐欺罪の嫌疑がかけられ、これに関する甲宅の捜索差押許可状がすでに発布されており、覚せい剤使用の捜索差押許可状とともに執行されたという点であろう。

 

この事例で問題となるのが、連行行為が違法である場合の、これをきっかけとして収集された証拠の許容性であることがわかる。そして、①については、先行手続きの違法が証拠収集行為(採尿手続き)にも認められ、これにより得られた鑑定書の証拠能力が違法収集証拠排除法則により排除されるのではないかという問題が、②③については、違法収集証拠にあたる証拠をきっかけになされた捜査活動により発見された証拠の許容性を問う、いわゆる毒樹の果実理論の問題である。この二つの問題の区別はわかりにくいところがあるが、別問題であることを理解する必要があるだろう。これらの問題につき区別して、検討していく。

 

先行手続きの違法と違法収集証拠排除法則

まず、違法収集証拠法則の基準を簡単に押さえておこう。これは捜査における強制処分と任意処分の区別に関する最決と同等に重要かつ著名な判旨だと思われる。つまり、判例最判S53・9・7)は違法に収集された証拠物の証拠能力が否定される場合を「令状主義の精神を没却するような重大な違法があり、これを証拠として許容することが、将来における違法な捜査の抑制の見地からして相当でないと認められる場合」であるとする。判旨では、この基準を導く過程として、刑事事件における真実発見の要請という立場と憲法においても要請される適正手続という立場との調整を行っている。そして、この基準を要素に分解するとすれば、重大な違法と違法捜査の抑制という二つの要素にすることができる。

 

以上の違法収集証拠排除法則が適用されるのは、通常、証拠収集行為自体に違法性がある場合であると考えられる。そこで、証拠収集行為自体には違法性がないともいえるが、それに先行する手続きに違法性があると言えそうな場合に、どのように考えるべきかという問題について検討していく。

 

ここで、一番重要な視点は、なぜこのような場合が問題となるかという意識である。それは、このような場合に違法収集証拠排除法則を適用できないとすれば、この法則により達成しようとする目的、すなわち、適正手続の保障、司法の廉潔性、違法捜査の抑止を達成することができなくなるということである。そして、この目的を達成するためには、いかなる基準で、先行手続きの違法を評価するべきかという考えに至るのである。このような問題意識を踏まえて、判断基準については、判例の力を借りることにしよう。

 

判例は、最判H15・2・14においては「密接な関連」というキーワードを、最判S61・4・25では「同一目的」「直接利用」というキーワードを用い、証拠収集行為の適法性を検討するにあたっては、先行する手続きの違法性をも加味するという方法をとっている。すなわち、先行手続きが証拠収集行為と密接な関連がある場合には、先行手続きが違法であれば、証拠収集行為も違法となるということになる。ここで、両判決のキーワードの関係がどのようなものかが問題となるが、解説においては密接関連性の有無を判断するメルクマールとして「同一目的」「直接利用」があると理解すべきとされている。

 

もっとも、このように密接関連性を根拠に証拠収集行為が違法とされたとしても、直ちに証拠能力を否定するのではなく、ここで認定された違法の程度が、違法収集証拠排除法則により排除されるほどのものかを検討している。したがって、検討のプロセスとしては、証拠収集行為の適法性を検討(密接関連性のある先行行為に違法があればこれをも参酌する)、違法とした場合違法収集証拠排除法則を適用し証拠能力の有無を検討するということになる。

 

毒樹の果実理論

では、①の証拠につき違法収集証拠排除法則により排除されるべきであると考えた場合、②③の証拠のように、①の証拠をきっかけになされた捜査活動により得られた証拠の証拠能力をどのように考えるべきか検討していこう。

 

毒樹から得られた果実たる派生証拠の証拠能力が否定されるべきではないかという考え方においても、やはり違法収集証拠排除法則の目的達成という視点がある。

 

もっとも、派生証拠が得られる場合には、上記の①のような先行手続きと証拠収集行為というような関連性(因果性)は薄れ、新たな手続きが介在していることが多い。そこで、もっとも重要となってくるのは、違法手続きと派生証拠との関連性(因果性)の有無・程度を個別の事案ごとに考えていく必要がある。

 

考え方の指針として、この毒樹の果実理論とその例外法則について頭に置いておくことが有効かもしれない。それは、希釈化の理論、独立入手源の法理、不可避発見の法理と呼ばれている。

 

判例としては、本事例の素材となったと思われる最判H15・2・14を見る必要がある。この判決の事案においても、違法に収集された採尿結果の鑑定書を疎明資料として発布された捜索差押許可状により差押られた覚せい剤とそれに関する鑑定書の証拠能力が問題となっている。判例は、覚せい剤の差押については裁判官による新たな捜索差押許可状が発布されているという点と、同時に嫌疑がかけられていた窃盗についての同様の捜索差押許可状も同時に執行されていたことを理由として、違法収集証拠と派生証拠との密接関連性を否定し、派生証拠の証拠能力を肯定している。

 

この判例に従えば、本事例においても派生証拠たる②③の証拠能力は肯定されるであろう。

 

少し疑問に思ったのは、本事例では、覚せい剤使用の罪に関する捜索差押許可状の請求についての疎明資料が甲の採尿結果についての鑑定書ではなく、捜査官の作成した捜査報告書等とされている点である。上記判例のように鑑定書が違法収集証拠である点には相違がないが、裁判官が捜索差押許可状を発布した際にチェックを受けた資料が捜査報告書であり、この捜査報告書に記載された事実には虚偽が含まれているとすれば、本件において、裁判官の令状発布の審査は正当性を欠くということができないだろうか。そうであれば、上記判例が違法性の希釈化の根拠とした裁判官のチェックという理由付けは本件には妥当せず、これをもかいくぐって収集された②および③についても違法手続きとの密接関連性を認めることが可能と言えないだろうか。この点をついた答案を書くのはかなりの冒険になりそうなので、進んでいく必要もないだろうけれど、考えたことをメモしておこう。