【民法8】代理受領と相殺

今回は、事例から民法を考える 事例11を素材に代理受領と相殺について考えてみようと思います。代理受領についての判例判例百選に掲載がありませんが最判S44・3・4です。

 

そもそも代理受領とは何か。正直なところ、この事例の解説を読むまでは知らなかった。基本書に立ち返れば、非典型担保のひとつとして記述されているが、なかなか理解が難しい。

 

まずは代理受領というのが一体どのようなものなのかを整理して、事例について検討してみよう。

 

代理受領とは

代理受領とは、債務者が第三債務者に対して有する債権について、債権者が取立てないし受領の委任を受け、債権者は第三債務者から受領した金銭を債務者に対する債権に充足することにより他の債権者に優先して債権を回収するものである。

 

もっとも、この優先弁済権は事実上のものであり、受領の委任を受けた者ができるのは「弁済の受領」にとどまるが、債務者が債権者に対して有する弁済金の返還請求権と被担保債権とされていた債権とを相殺することで簡易な決済を行うことができるというものである。

 

代理受領の実質は権利質とも言われるし、債権譲渡が行われた場合とも同様の効果を得ることができる。そして、実際の取引では債権譲渡したいが譲渡禁止特約が結ばれているなどの場合にも利用が可能となるため用いられているという。

 

しかし、本事例のように代理受領について承認を行った第三債務者が債務者に弁済ないし相殺の意思表示を行った場合には、債権者に与えられた代理受領の権限がどうなるのか、債権者が第三債務者になんらかの請求ができるかという問題が生じる。

 

代理受領の効果が債権譲渡と類似することから民法における債権譲渡の規定を考慮して考える必要がある。さらには、この考慮から導かれる一般的な考え方に事例の有する特殊性を加味することで事案に即した検討をしなければならない。

 

第三債務者による債務者への弁済

代理受領を承認した第三債務者が債務者へ弁済ないし相殺の意思表示をした場合に、どうしたらよいか。

 

たしかに代理受領を承認するという第三債務者の意思も加えられているが、代理受領により担保を設定する契約は債権者と債務者の間で結ばれるものである。さらに、第三債務者に対して、なんらの利益も与えない代理受領について弁済の相手方を拘束することは妥当ではない。他方で、代理受領が債権者と債務者の間での担保的機能を有することを知りつつ任意でその承認をしたということは、上記の利益をある程度制限されることを許容しているとも考えることができる。そこで、判例および通説は、

担保目的であることを知って第三債務者が債権の代理受領の承認をした場合には、その承認は、代理受領によって債務者に対する債権の満足を得られるという債権者の利益を承認した、正当の理由なく右利益を侵害しないという趣旨をも当然に包含するものと解すべきであるから、代理受領の承認後に第三債務者が債務者に弁済したときには、それによって当該債権は消滅するが、第三債務者は、その弁済するにつき正当な理由がない限り不法行為責任を負うとしている。

 

このように、第三債務者がした代理受領の承認によって生じる債権者の期待権ともいえるものを侵害したとして不法行為責任を負わせることで解決していくのである。しかし、これはあくまで第三債務者が債務者に弁済をした場合の事例であって、本件のように第三債務者が債務者に対して相殺をした場合にはどのように考えるか。

 

第三債務者の債務者に対する相殺

解説を読む限りでは、ここについての判例はないようである。

 

弁済をする場合との相違点は、第三債務者においても弁済による債務からの解放という利益のみならず相殺することによる担保的機能を期待するという利益が存することである。

 

そして、第三債務者としては譲渡禁止特約を設けることにより自己の債権について相殺の担保的機能に着目した利益を防御しているといえる。また、「債権譲渡と相殺」の論点における無制限説的な考え方によれば、たとえ代理受領の承認をしていたとしても右承認の前に相殺に供される両債権債務関係が生じていれば、相殺の期待権は保護されるものとして、第三債務者が債権者との関係で不法行為責任を負うこともないと考えられる。

 

これが一般的な考え方といえようが、事案が有する特殊性を考慮する必要がある。本件で言えば、BACが一連の本件施設の建設という計画の中で、相互に密接な関係を有していたという点がその特殊性を生じさせる。つまり、CはBが担保目的での代理受領を承認することを条件として、または承認することを信じてAとの契約を締結し、履行している。そして、BがAとの関係で相殺を行うことができたのも、Cのこのような履行があったからこそと言える。したがって、Bとしては、代理受領の承認をしたことによって自己の利益よりもCが代理受領により得る利益の方が優先することを認めていたということができる。このような特殊性を加味すれば、Cが有する利益をBがAとの関係において相殺をしたことで侵害したものとして、Bに対し不法行為責任を負わせることができるのではないだろうか。

 

 

判例百選によっても網羅できない論点があるのは当然ながら、未知の問題に対応する基本的な知識が必要だ。