【憲法9】営業の自由、委任の範囲を超える規則制定

今回は、事例研究 憲法 第2部問題8を素材に、営業の自由と委任の範囲を超える規則制定について考えてみようと思います。素材判例最判H25・1・11薬事法施行規則事件です。

 

今回の事例はもっぱら薬事法施行規則事件を簡略化したもので、この判例自体も平成25年のものと新しいものなので、この判例について確認するとともに、立法の委任について基本的なところをおさらいしていこうと思います。

 

立法の委任

まず、この事例のように立法の委任を欠く、あるいは委任の範囲を超える省令・政令の制定がなされたとして無効の主張をする場合、どの様な構成をすることになるかを考える。これはある種統治の部分にも関連するもので、普段の人権論の範囲とは異なるため見落としがちである。

 

当然のごとく、国民の権利を制限し、義務の範囲を確定するためには法律の留保が必要であり、この法律を制定するのは憲法41条により国会ということになる。この権力分立の原則を厳格に貫けば、そもそも国会以外の機関による委任立法全てが認められないということになる。しかし、国民の自由を奪う刑罰においても法律の委任を受けることで政令においても科することができるとされているため、憲法が一切の委任立法を禁じているとは解釈することはできない。もっとも、国会が唯一の立法機関とされていることからも全権委任に等しい白紙委任は認められず、個別具体的な委任を要すると考えられる。そして、いったいどの様な委任であれば白紙委任とはいえず、個別具体的な委任であると言えるかという点が問題となる。

 

この点については、各事例ごとの判断とするしかないが、その判断要素として、政令等を制定する際に、法律が委任した範囲を合理的に解釈する必要があるため、制定された政令の適法性を判断する上でも、この法律が委任した範囲を合理的に解釈し判断することになる。

 

ところで、この立法の委任という問題では、授権規定たる法律が白紙委任であるとして違憲無効であるという場合と、委任された命令が委任の範囲を逸脱し無効であるという場合があると思われる。どちらにせよ権利制約がなされる命令の無効を主張するため、上記の様な判断をすることになるが、主張の構成としてどちらなのかを意識して検討することが大事ではないだろうか。

 

薬事法施行規則事件

さて、本事例の素材となっている薬事法施行規則事件では施行規則が医薬品の販売業者の郵便等販売方法を規制していることに対して新薬事法にこの規制を委任する規定は存しないとして規則の違法無効を主張したものである。

 

判例は新薬事法に郵便等販売方法を規制する趣旨を明確に示すものは存在しないことを認めている。そして、この判例のポイントと言えるであろう点として、規制を明確に示す規定がない場合、この規制が委任の範囲を逸脱していないというためには、授権規定の解釈をする上で、立法過程における議論を斟酌するとした点ではないだろうか。つまり、立法過程において当該規制がなされるべきであるという事が議論され、国会の意思として認められるのであれば、これに基づく委任立法として規則が適法という事ができるのである。さらに、判例ではこの様な立法過程を斟酌するとともに、規制により制約される国民の権利の重大性にも着目していると考えられる。そこで、今回の事例でも制約の対象となっている営業の自由についても考えてみよう。

 

営業の自由

 営業の自由は憲法上22条で保障されている職業選択の自由に含まれるとして、憲法上保障されている。つまり、営業の自由は職業選択の自由という人権をより広く解した場合の保障である。職業活動というものには、その職業を選択・開始すること(これと表裏一体なものとして職業の継続・廃止)とこの職業を特定の形態として遂行する若しくは活動の内容を決定するという構成になっており、その保護の重要性や制約の強度も変わるものと言える。

 

また、職業選択の自由は経済的自由に分類されるため、精神的自由権との関係においていえば緩やかに審査されると考えられるが、経済的自由においても規制の目的が消極目的規制(国民の生命身体に対する危険を防止するという目的の規制にであり、市場経済的視点からなされるものではないから国会の裁量権の範囲は制限的であり、裁判所の審査能力の範囲内として厳格に判断することが妥当な規制)である場合には、厳格な審査に付されるべきであるとも考えられる。この規制目的二分論は判例において破棄された理論とも言えるが、当事者の権利主張においてはいまだ有効な視点ではないだろうか。

 

 この営業の自由の制約としての判例は、薬局開設距離制限判決(最大判S50・4・30)において、薬局開設が許可制であり、許可条件たる距離制限によって薬局開設自体が認められないこととなるため、大きな制約的効果が生じるとしている。このことを前提に判例は厳格な審査基準により当該距離制限を違憲とした。

 

 

今回の事例では、通常であれば人権論として薬事法施行規則が郵便等販売方法により営業を行なっていた者の権利を制約するとして違憲の主張を構成することになろうが、問題文中にXの主張の骨子があり、これが委任の範囲を超える旨のものであることに注意して、営業の自由の制約という主張を当該規則の41条違反の主張のいち内容として展開するというテクニカルな方法を採ることになる。実際にこのような誘導がない限りは通常の主張の構成で良いと思われるが、判例がこの構成で規則の憲法違反の判断を回避したという点も含めて記憶に留めておけば良いかもしれない。