【刑訴10】伝聞・非伝聞(伝聞供述)、犯行計画メモ

今回は、事例研究 刑事訴訟法 第4部問題5を素材に伝聞・非伝聞の区別と犯行計画メモの証拠能力について考えてみようと思います。参考判例は、最判S38.10.17と東京高判S58.1.27です。

 

まず、本事例において証拠能力の有無が問題となっているのは、甲がVを殺害した事件について、乙が関与していたのではないかという事例の公判において、証人Mがした「乙が甲に『Vは目障りだ』と言っていた」旨の証言である。問題文にはこの証言についての立証趣旨は記載されていないため、これも含めて場合分けをし、検討する必要がある。

 

さらに、丙の記載したメモには犯行計画らしきものが記載されており、これは乙が逮捕される際に、逮捕に伴う捜索差押により押収されたものである。これについては、「事前共謀の存在および乙の関与」という立証趣旨が明示されている。

 

この事例本でも伝聞証拠の最初の問題であるから、まずは、基本的な伝聞法則から確認して、本問でのそれぞれの証拠能力について考えてみようと思います。

 

伝聞法則の整理

まず、伝聞証拠とは何か、これは320条に記載される公判期日における供述に代わる書面または公判期日外における他の者の供述を内容とする供述をいうと考えられます。また、320条が原則としてこのような伝聞証拠についての証拠能力を認めていないことを伝聞法則といいます。

 

この伝聞法則の趣旨としては、このような証拠には、その成立において知覚、記憶、表現、叙述という過程があり、この過程で誤りが混入する危険性があるため、公判廷における反対尋問による吟味が必要であるところ、これがなされない場合には証拠能力を認めるべきではないというものに基づきます。

 

この伝聞法則を回避ないしは伝聞法則の適用を受けながら証拠能力を認める方法として、当該証拠が非伝聞証拠であるという考え方と321条以下の伝聞例外に当てはまるとの考え方がありえます。そして、この前者の考え方をするうえでは、当該証拠によっていかなる事実を立証しようとしているか、つまり立証趣旨との関係を考える必要がある。

 

伝聞・非伝聞の区別

さて、以上のように伝聞法則による証拠能力の原則否定と伝聞の回避ないし例外という方法を確認したが、本問におけるMの証言中、乙が発言した旨の部分に関しては、公判期日外における他の者の供述を内容とする供述として、原則伝聞供述として証拠能力を否定される。しかしながら、仮に立証趣旨を「当該発言が存在したこと」とした場合には、乙による供述の真実性は問題とならないため、伝聞証拠にはあたらず、非伝聞として証拠能力を認めることができると考えられる。これが判例の立場ともいえる。

 

もっとも、本件のように乙から甲へと伝えられた発言内容がVの殺害意思であると推論する必要がある場合に、供述の存在自体を立証趣旨とするため非伝聞であるとするのは伝聞法則の潜脱ではないかという批判がなされている。この批判によれば、このような場合には、立証趣旨となるのは供述内容の真実性であるとしつつも、原供述がこのような殺害意思を示すような場合、原供述者の内心を述べる供述として、伝聞証拠の成立過程のうち知覚、記憶という誤りの混入する恐れの大きい部分を欠いており、伝聞証拠に当たらないと考え、これを聞いた者の公判期日における供述であれば、その者への反対尋問により状況的信用性を確保する事ができ、伝聞法則は適用されないと考えるべきだとされる。どちらにせよ、結論は同じになるが、立証趣旨の考え方、供述者への反対尋問の確保という要件などが異なり、いずれの立場で論じているかを注意しながら答える必要がある。

 

犯行計画メモ

次に、丙の記載した犯行計画メモの証拠能力について考えてみる。

 

本件メモは丙が甲から聞いた犯行計画を記した物であるから、公判期日外の供述をその内容としており伝聞証拠と考えることができる。もっとも、犯行計画メモのような場合には、上記原供述が伝聞証拠とならないことと同様に、メモ作成者の現在の内心を記したものと考えられ、知覚、記憶の過程をへていないと考えられるからである。なお、このような場合であっても、その作成が真摯になされたことが証明される必要がある。

 

もっとも、このように考えたとしても、それはメモ作成者との関係であって、その内心を立証することを超えて、他の共謀者の内心までもを立証することは許されないといえる。これを立証するには、共謀者とメモ作成者との間に共通の意思形成がなされたことが別途立証されなければならず、これが立証されれば、当該メモにより立証される作成者の内心と同じ内心を有していたことを立証することができると考えてよいだろう。

 

本件メモにおいてこれを考えてみると、立証趣旨は乙の事前共謀および関与とされているが、メモ自体から乙の関与は立証できず、乙の内心の立証はメモ作成者たる丙のそれを超えるものであって、当該立証趣旨との関係では本件メモは伝聞証拠であることを免れず、証拠能力が認められないものと考えられる。

 

伝聞証拠の問題は、ある程度パターン化されているとはいえ、そのパターン自体が複雑で理解が難しく、いざ自分の言葉で書こうとすると行き詰まることが少なくない。原理原則、趣旨規範、を意識しながら確認していきたい。