【商法10】発起人組合、設立後の会社への財産の帰属

今回は、事例で考える会社法事例4を素材に、発起人組合と設立後の会社への財産の帰属について考えてみようと思います。参考判例は、大判S2.7.4です。

 

事例としては、A・B・Cの三者がD株式会社を設立することを目的として共同し、Bがこれについての権限を委ねられ、設立を目的とした会議やそのごD社設立後も使用することを考えてEとの間でマンションについての賃貸借契約を締結するという点で、その名義、手続き、そしてこの賃貸借に関する費用を設立後のD社に帰属させるための手続きについてが設問1である。

設問2は、Aがもともと有していた特許についてD社に帰属させたいと考えているという点で、いかなる方法を採ることが有効かについて問われている。

設問3は、設立後のD社と取引を行ったGとの関係で、これが不履行となった場合のABCに対する責任追及の主張が問われている。ここで前提とすべきは、AがD社設立の際に出資を行うことができず、FがAに貸付を行いこれをD社に払込み、D社設立後、D社からAに同額を貸付け、AはFに貸付金の返還を行ったという事実があり、これを原因としてD社のGに対する債務不履行が生じたというものである。

 

まずは、D社設立前にABCが共同で行動することについて考え、その際の費用などのD社への帰属およびAの特許を帰属させる方法について考えてみようと思います。

 

発起人組合

まず、ABCが共同してD社設立を目的に事業を行うという意思の合致が認められるため、このような場合にはABCは民法上の組合としての発起人組合を発足させたものと考えることができる。実際にABCは組合契約を締結したわけではないが、特段の決まりがない事項に関しては、民法上の組合の業務執行であると処理することが簡便であるということである。

 

では、BがするEとの賃貸借契約についてはその名義、手続きについてどのように処理すべきであろうか。ここで見落としてはならないのは、民法上の組合は法人格を与えられていないことから、権利能力を有しない。すなわち、発起人組合を名義として賃貸借契約を締結することはできない。さらに、その後D社として使用を継続するものとしても、D社が設立登記をする以前には、いまだ法人格を得ていないため、D社という名義で賃貸借契約を締結することもできない。

 

そこで、本件のように発起人が設立のための賃貸借契約を締結する際の名義としては、発起人本人の名義による他ないと考えられる。本件では、当面の間Bがその資金から費用を負担することを考えていることからも、B名義となる。もっとも、上記のようにABCが発起人組合を黙示によって締結していると考えれば、「発起人組合総代B」とすることも考えられる。また、このような賃貸借契約を締結する際の手続きとして民法上の組合の業務執行が組合員の過半数によるとされているため、B単独でできるかということも問題となりそうだが、本件では、ACはBにその業務を委ねていることから、Bが業務執行組合員の地位を有していると考えられ、ABC間において特段の手続きは不要だと言える。

 

では、Bが賃貸借契約によって負担した費用を設立後のD社に帰属させることができるかについてであるが、これを考える上で重要な視座として、当該費用が会社の負担として認められる性質のものかという点と、いかなる手続きを経る必要があるかと言う点である。ここで、一般的に会社設立のための場所を確保するという行為は会社設立において必要な行為であるから、賃貸借契約にかかる費用は会社の負担として認められる性質のものと言えそうである。しかしながら、本件マンションは会社設立のためという目的を超え、設立後の事業運営のためのものとも言える。つまり、会社設立の費用として会社に負担として認められない開業準備行為としての費用といえなくもない。そこで、本件マンション賃貸借契約にかかる費用のうち、この設立費用として認められる限度で設立後のD社に帰属させることができると考えるべきである。

 

そして、この帰属に必要な手続きとしては、会社法28条4号にもとづき定款に記載し、公証人の認証を受けた後に検査役による検査を受ける必要がある。

 

設立後の会社への財産の帰属

Aがもともと有していた特許権について、設立後の会社へ帰属させる方法はいかなるものがあるだろうか。Aはそもそも出資として会社へ帰属させることを考えていたが、これはすなわち現物出資による方法である。そして、現物出資によらないとすれば、財産引受けとして帰属させる方法が考えられる。これらはともに会社法28条1号・2号に規定されているように変態設立事項として定款に記載しない限りは認められない。そうであれば、33条により検査役による検査が必要となる。もっとも、この検査役の検査を省略することもできる場合はある。

 

いずれにしても検査役や弁護士等の選任に時間と費用を費やすことになる。問題中に利害得失を考慮せよと記載されていることからも、こうしたリスクを指摘する必要がある。そこで、これらのリスクが生じない方法を考える必要がある。

 

467条1項5号には株式会社が成立後、2年以内に、その成立前から存在する財産であって、事業のために継続して使用するものについては株主総会の特別決議を経ることで取得することができるとされている。これはいわゆる事後設立という方法である。この方法を利用すれば、検査役等の選任が不要となり、株主総会による決定で済むことになる。本件ではD社の株主はABCのみであるから、特別決議であっても容易であるといえる。なお、本件ではAが取締役に就任することから、AとD社が特許権について譲り渡す場合には、356条1項2号における利益相反取引となることから、上記特別決議とは別に通常決議も必要となる。

 

発起人の責任について

設問3についてはすべてを検討することはしないが、発起人が会社の設立に際して損害を与えた場合に負う責任について簡単に確認しておきたい。

 

ここでチェックしておきたいのは、発起人に対する責任は53条に規定されており、1項が対会社、2項が対第三者という構成になっている。また、この責任が認められるためには、発起人が職務を行うについて悪意または重過失である必要がある。そして、発起人相互間には取締役相互間におけるような監視義務を課す規定はなく、あくまで当該発起人が行うべき職務についての責任のみを負うということに注意が必要である。

 

したがって、本件Cには発起人としての責任を追及することは難しいと思われる。

 

会社の設立前における発起人の行為や責任についてはあまり触れることがないし、この機会に確認しておこう。