【商法1】退職慰労金の一方的な打ち切り

本日の問題は、TKC論文演習セミナー商法の1 退職慰労金の一方的な打ち切りについてです

事案はタイトルにあるように、Y株式会社の取締役であったXが退任する際に退職慰労金について内規に従い支給することを決定されたが、その後の経営悪化に伴い右内規を廃止してXに対しての退職慰労金の支給も打ち切ったと言うもの

退職慰労金支給決定の委任

設例では最初に退職慰労金について株主総会で取締役会に一任する旨の決議がなされ、さらに取締役会では代表取締役に一任する旨の決議がなされている。代表取締役は社内の役員退職慰労金規定(本件内規)に従い金額および支給期間を決定している

これについては会社法361条1項の問題だと気づく。
つまり、退職慰労金の支給決定を取締役会(取締役)に一任することが361条1項の趣旨に反するとして許されないのではないかという論点である。ここは判例が確立しているところだそうなので、判例の示す要件を頑張って覚えよう

「株式会社の取締役または監査役であった者に対して支給される退職慰労金(死亡の場合の弔慰金を含む。以下同じ。)は、それが在職中の職務執行の対価であるときは、商法二六九条にいう報酬に含まれると解されるところ、同条の立法趣旨に照らすと、株主総会の決議により、右報酬の金額などの決定をすべて無条件に取締役会に一任することは許されないというべきであるが、これと異なり、株主総会の決議において、明示的もしくは黙示的に、その支給に関する基準を示し、具体的な金額、支払期日、支払方法などは右基準によって定めるべきものとして、その決定を取締役会に任せることは許されるものであり、このような決議をもって無効と解すべきでないことは当裁判所の判例とするところである(最高裁昭和三八年(オ)第一二〇号、同三九年一二月一一日第二小法廷判決、民集一八巻一〇号二一四三頁参照)。」
つまり、株主総会の決議が全くの一任であった場合には許されないが、そうではなく、これまでの慣行や内規に従って決定することを黙示に承認したと言える場合には一任することも許される

設例ではさらに取締役会から代表取締役に一任されているが、結局のところ内規に従っていることから有効であるとされているようである


退職慰労金の一方的な打ち切り

本問で一番問題となるのは、退職慰労金支給決定の後、会社の経営悪化に伴い内規を廃止してXに対する退職慰労金支給を打ち切ることが適法であるかという点である。

取締役の報酬に関しては、一度金額等が決定した場合には、当該取締役の同意なく減額ないし無報酬とすることはできないとされている。理由は、具体的な報酬額が決定された段階で契約内容になるためである。

退職慰労金についても同様に考えられるのはわかるが、その他に考慮しなければならない要素はないかどうかを考える必要がある。

退職慰労金については、集団的、画一的処理を図るという制度的要請から、変更等の必要性、内容の妥当性、手続きの相当性を考慮して一定の場合には本件内規を改廃することができ、本件内規が改廃された場合には、これに同意しないものに対しても効力が及ぶと解することができないか。実際にこれは原審の判断である。

「集団的、画一的処理を図るという制度的要請」という言葉はとてもわかりにくいきがするけれど、要は、異なる時期に退任した者同士の不公平が生じるおそれがあるため、内規に従って支給されることが求められているということのようである。そうであれば、内規の改廃まで想定されているはずだということ

しかし、最高裁は、これを支持しなかった。
判旨は以下の通り
「被上告人が,内規により退任役員に対して支給すべき退職慰労金の算定基準等を定めているからといって,異なる時期に退任する取締役相互間についてまで画一的に退職慰労年金の支給の可否,金額等を決定することが予定されているものではなく,退職慰労年金の支給につき,退任取締役相互間の公平を図るために,いったん成立した契約の効力を否定してまで集団的,画一的な処理を図ることが制度上要請されているとみることはできない。」
もっとも、黙示的な合意、事情変更の原則の適用の有無を審理させるため原審に差戻しているため、内規の改廃により退職慰労金の打ち切りが認められる余地も残しているようである。

自分は、原審の言ったようなことは思いつかなかったから事情変更の原則を適用して打ち切りを有効としたけど、事情変更の原則が適用される場面は限定されるべきって考えると経営悪化という理由だけでは難しそうだったな。