【刑訴3】違法な現行犯逮捕と再逮捕

今回は事例研究 刑事法2刑事訴訟法 問題2です。素材判例は東京高判H17・11・16のようです。

 

事例としては、

設問1ではVが電車内で痴漢にあい、電車内から父親にその状況をメールで伝え、降車後も犯人がつきまとってきていたため駅を出てしばらくのところでAが現行犯逮捕したというもの。これがVによる現行犯逮捕であった場合も含めた適法性。

設問2では同様の事案でAが逮捕する前に警察官であるBが不審に思い職務質問をしている最中にAやVの証言をもとに現行犯逮捕した場合の適法性。

そして、設問3では、現行犯逮捕された甲についての勾留請求が却下された場合に、釈放したのち同様の事実で再び逮捕することができるか否か。

 

設問1について

まず、被害者たるVが甲を現行犯逮捕できるかを検討する。

 

現行犯逮捕においては、憲法33条と刑訴法213条により認められていると一言のべ、その要件充足性を検討していく。現行犯逮捕が認められるには被逮捕者が「現に罪を行い又は現に罪を行い終わった者」に当たる必要があり、これを検討するには現行犯逮捕の趣旨たる犯罪と犯人の明白性という観点から考えていく。すなわち、現行犯逮捕の要件としては、特定の犯罪が現に行われていることの明白性が認められること、その犯罪について被逮捕者が犯人であることの明白性が認められること、そして逮捕の必要性である。

 

Vが甲を逮捕した状況については、Vが痴漢の被害にあった車両から一度降り、別の車両に乗り、その後電車を降り、駅を出てしばらく歩いている。確かに犯行現場からは場所的時間的にズレが生じている。もっとも、上記のように、現行犯逮捕が犯罪と犯人の明白性が認められる場合に可能であるとすれば、Vが犯人を甲であると認識してから逮捕までの間甲はVの後をつけており、Vもこれを確認しているから、被害現場における状況が逮捕時まで継続していたものと考えることができる。そうであれば、場所的時間的にズレが生じていても犯罪と犯人との明白性は認められ、Vによる現行犯逮捕は可能である。

 

では、Vから状況を知らせるメールを受けてしたAの現行犯逮捕は適法であるか。現行犯逮捕において、逮捕者において犯罪を現認していなければならないか、自己が直接覚知した状況以外の資料に基づき現行犯逮捕することができるかという問題である。この点、厳格に解せば犯罪を現認していないAによる現行犯逮捕は許されないことになる。このように厳格にする必要はなく、他人の供述等とあいまって犯罪と犯人との明白性が認められれば足りると考えるべきである。

 

もっとも、本件では、AがVからのメールにより犯人の特徴その他を認識し、実際に甲がVを追跡していることを現認しているが、これによっても甲が痴漢という犯罪を現に行い終わった犯人であるとの明白性が認められるとは言い難い。そうであれば、Aが甲を現行犯逮捕したのは違法であると言える。

 

また、準現行犯においても212条2項各号に該当する事実が認められないことから、これにより適法とすることはできない。

 

ただし、実際にはVによる現行犯逮捕が適法となりうる事案であることから本件現行犯逮捕はAとVとが共同して行ったとして適法とする余地がある。

 

設問2について

設問2では、警察官であるBが現行犯逮捕をしている。上記のようにAによる単独の現行犯逮捕が認められないことから、A以上に甲の行動を現認していないBがAおよびVの供述等を基礎として現行犯逮捕することはできないと考えるべきである。さらに、本問では上記とはことなり、Vが甲から逃れるために書店に入り、甲がVの追跡をやめ引き返したという事実があるため、Vにおいても現行犯逮捕の要件を欠くことになり、共同で現行犯逮捕したと構成しても適法とすることは難しい。

 

なお、設問3で述べるが甲については緊急逮捕(210条)の要件を具備していたものと言えるため、Bが逮捕後適法に逮捕状を請求すれば、違法とまでは言えなかったと考えられる。

 

設問3について

設問3では、上記設問2のBによる逮捕後に行った勾留請求が却下されている。これは、上述の通りBによる現行犯逮捕が違法と判断されたからであると考えられる。なぜなら、勾留には逮捕前置主義が採られ、逮捕手続に対する異議申し立てができないことから、勾留手続においてその先行する逮捕の適法性も加味し、この逮捕手続に重大な違法があればこれを却下すべきであるからである。

 

本件においては、甲が犯罪を犯したという充分な嫌疑があり、犯行を否認しており、任意同行を頑強に拒んでいることからすれば緊急性・必要性が具備され緊急逮捕することができた、しかし、Bは現行犯逮捕が可能としてその後の令状請求を行っていない。緊急逮捕における令状請求は令状主義からの要請であり、これを怠る違法は重大である。

 

そして、勾留請求が却下された場合に、再度の逮捕・勾留が認められないとすれば、甲の身柄を拘束したままの捜査はできないこととなる。たしかに、被疑者の身柄拘束についてはその侵害が被疑者の権利を侵害すること、厳格な時間制限を設けていることからすれば、同一事実における逮捕勾留は一度のみ可能であるとする一罪一逮捕一勾留の原則を厳格に適用し、再度の逮捕勾留は認められないとも考えられる。もっとも、真実発見の要請から、例外的に再逮捕が認めらるべきと考える。

 

本件では、たしかに令状主義の要請たる事後の令状請求は行われていない。しかしながら、これは逮捕の手続き的要件における重大な違法であるといえ、逮捕の実体的要件たる犯罪の嫌疑および逮捕の緊急性・必要性は十分に認められるものである。そうであれば、勾留却下を受けて甲を釈放したのちに同様の事実において適法な手続に基づく再逮捕は認められるべきである。もっとも、被疑者の身体拘束に対する時間制限との関係で、より迅速な対応が求めらることになるから、逮捕後遅滞なく勾留請求がなされることを要件とすべきである。

 

 

今回は本当は法学教室の演習をやろうと思ってたけど、どちらも現行犯逮捕の適法性を取り上げており、以前やったこの事案の方がしっかりしていたのでこちらの解説をもう一度読んでまとめる形にした。現行犯逮捕においては、その要件が犯罪と犯人との明白性であるという点と、他人の供述等の資料に基づいて明白性を認定して良いかという点が主に問題となるから忘れないようにしよう。