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  【刑法6】共謀共同正犯と正当防衛

今回は事例から刑法を考える 事例16を素材に共謀共同正犯と正当防衛について考えてみたいと思います。参考判例は最決H4・6・5です。

 

まず、今回の共謀共同正犯と正当防衛という問題がどのようなものかというと、共同正犯における実行者には正当防衛の要件が充足すると考えられるが、共謀者にはこれが認められない場合、片方の違法性が阻却することが他方の違法性に影響を与えるのであろうかというものである。参考判例としてあげた判例において、過剰防衛のケースにおいて過剰防衛の判断は共犯者それぞれにおいてなされるべきであること及び急迫性の要件も個別に検討されるべきであることが示されていることから、この判例を援用することができれば事案解決はそう難しくはないかもしれない。もっとも、この判例の射程をどのように考えるか、この判例の理論的解釈については非常に困難な問題が含まれているようにおもう。正直なところ、理解しているかと言われれば怪しいが、 一応の理解をまとめておきたいと思う。

 

また、今回のケースで関連する積極的加害意思について判断した判例の判旨も確認しておこう。

 

正当防衛の要件

まずは簡単なところから、正当防衛の要件を確認しておこう。事例問題においては、ある行為の構成要件該当性を認め、その後に正当防衛による違法性阻却が可能な事案かを検討することになる。つまり、これから挙げる要件をいずれかにおいて充足しなければ犯罪が成立する(相当性を欠く場合には過剰防衛の成否が問題となるが犯罪は成立する)。

 

正当防衛の要件としては、①急迫性、②不正な侵害、③防衛行為、④相当性である。正当防衛は緊急避難とは異なり、不正な侵害対正当な防衛であるから、その前提として回避の義務は課されない。そのため、緊急避難で求められる補充性は必要ではなく、急迫性があればよいとされている。もっとも、回避の義務が課されないとしても、不正な侵害が予期される場合にまで防衛行為によることが許容されるのだろうか、これが侵害の予期・積極的加害意思という問題である。

 

この点としては、有名な判例があるため、その判旨を確認することにする。最決S52・7・21は、政治団体どうしの対立において、片方の襲撃が予期され、そのために闘争用の道具を準備していた場合における正当防衛の成否について

「刑法36条が正当防衛について侵害の急迫性を要件としているのは、予期された侵害を避けるべき義務を課する趣旨ではないから、当然又はほとんど確実に侵害が予期されたとしても、そのことから直ちに侵害の急迫性が失われるわけではないと解するのが相当であ」るとしている。そして、これに続けて

「しかし、同条が侵害の急迫性を要件としている趣旨から考えて、単に予期された侵害を避けなかったというにとどまらず、その機会を利用し積極的に相手に対して加害行為をする意思で侵害に臨んだときは、もはや侵害の急迫性の要件を充たさないものと解するのが相当である。」として防衛者に積極的加害意思がある場合には急迫性を否定し、正当防衛の成立を否定した。

 

共謀共同正犯と正当防衛

では、共謀共同正犯により犯罪がなされた場合、実行者に正当防衛の要件を充足するという事情があった場合に、共謀者の違法性に影響を与えるのであろうか。

 

まずは判例を確認しておこう。本事例とは多少異なるが参考判例である最決H4・6・5は、XとYが共同してAの家に押しかけることを企て、XがYにナイフを渡し、Aが襲ってきたら反撃するよう指示をした。Yとしては、Aが襲ってくるなど思ってはいなかったが、AがYをXと間違え暴行を加えたため、ナイフにより反撃し、殺害したという事案において、Yには過剰防衛が成立するとされたことからXにも過剰防衛が成立すると旨の主張に対して

「共同正犯が成立すると場合における過剰防衛の成否は、共同正犯者の各人につきそれぞれの要件を満たすかどうかを検討して決すべきであ」るとし、さらに、XにはAの攻撃について予期するだけでなく積極的加害意思が存するとして

「Xにとっては急迫性を欠くものであ」るとして正当防衛を認めなかった原審を是認した。

 

この判例を援用すれば本ケースにおいてもXには積極的加害意思が認められ、実行者たるYにはこれが認められない。そうであれば、Yには正当防衛が成立し、Xについては急迫性を否定し、正当防衛不成立、殺人罪の共謀共同正犯(Yの故意について傷害致死にとどまる場合には単独正犯)が成立すると考えられる。

 

この判例の理論的根拠については、難しい議論が展開されている。確かに、客観的違法論によれば違法は連帯し、責任は個別に判断するということになる。そうであれば違法性阻却が片方に認められる場合には、他方の違法性も阻却されるべきではないだろうか。

たとえば、この制限従属性説によった帰結は、共同正犯という一次的責任を負う場合には適用されず、違法性レベルにおいても個別判断をすることができると考えることもできる。

もしくは、客観的事情は実行者を基準とすることができ、積極的加害意思といった主観的事情については個別に判断することができると考えることができる。

さらに、本件におけるXのような違法性が阻却される前提となる状況を、わざわざ作り出している者は、実行者の行為の違法性が阻却されることだけを理由として処罰を免れることはないと考えることもできる。

 

最後の見解は島田先生の提唱するものであるから、説得的に感じるのは気のせいだろうか。

 

正直なところ、事例を解く上ではこの判例を知っていることが第一に重要であり、これを援用できれば答えを導くことができるといえるから、理解が甘い場合には深追いして記述することは避けるべきかもしれない。

 

その他の問題点

この事例16は総論の故意・緊急行為・共犯についてのその他の問題も含まれている。気になった点だけ最後にメモしておこう。

 

本件のようにBからの不正な侵害に対抗するためにAの所有たる壺を投げて壊したことが器物損壊罪の構成要件に該当するが、違法性阻却がなされるかという点、この場合にはBの侵害がAとの共同正犯と言えば正当防衛の検討となるが、それぞれ別個に検討すると考えれば、Aの壺を壊すという行為は緊急避難と扱われるべきである。

 

本件のようにXとYが共同正犯としてA及びBを殺害した場合、XにおいてもA・Bに対する殺人罪が成立し、これらは併合罪となる。他方で、XがYを教唆(幇助)し、YがA及びBを殺害した場合には、Xは1つの教唆行為で2つの犯罪を犯していると言えるから、観念的競合として殺人の教唆1罪が成立する。

 

さらに、XはYにAを殺害するように指示をしているが、YはBも殺害している。このような場合にXにBの死亡の結果の責任を負わせて良いだろうかという故意の問題もある。もっとも、抽象的法定符合説によれば、Xには人の殺害という故意が認められるから、これがAに対するものかBに対するものかは問題とならず、故意の数においても抽象化することができるとすれば問題なく両者に対する殺人の故意を認めて良い。