【民訴9】訴えの取り下げ、再訴禁止効

今回は、法学教室2016年7月号 演習民事訴訟法を素材に、訴えの取り下げについて考えてみようと思います。素材となった裁判例は東京地判H19・7・11で、参考判例最判S52・7・19です。

 

設問を読んだときは、例えば設問1で、XがYに訴えを提起してYが自己の当事者能力の欠缺を主張して訴え却下判決を求め、予備的に請求棄却を求めているなか、Xが訴えを取り下げたのに対し、Yがこれを認めず、なおも訴え却下判決を求めているという状況で、一体何が問題となるのかがうまく把握できなかった。条文を頼りにすると、確かに被告が抗弁を提出した等の場合に訴えを取り下げるには被告の同意を要するとされているが、本件における争い(論点)がここに当たるものとは考えが及ばなかった。これに対する最判もないため、いまだ議論の余地があるのかもしれないが、問題の着眼点としてしっかりと覚えておこう。

 

訴えの取下げの要件

さて、本事例の設問1が上記のような問題であるということが分かったわけだが、設問としては、Xの主張およびYの反論を考えろといったものになっている。そこで、Xとしては、Yの主張(当事者能力の欠缺)では、訴えの取下げにおいて被告の同意を要する261条2項は適用されないという主張、さらに本事例において訴え却下判決を求める主張を維持し、これを得たとしてもYの利益とはならないため、同意を要すると解することはできないと主張することになる。

 

この第二の主張は、そもそも訴えの取下げに被告の同意を要するとしたのは、被告が本案について争う姿勢を見せた場合には、被告としても請求棄却判決をえることについての利益を保護する必要があるからである。

 

では、Yとしての反論はどのようなものとなるか。上記のXの主張は択一的なもので、いずれかに当たるため訴えの取下げに被告の同意は不要とするものであると考えられるから、Yとしてはいずれの主張に対しても反論する必要がありそうである。

 

まず、261条2項の適用される抗弁とは異なるという点に関しては、たしかに訴訟要件の判断は本案の前段階において審理されるものと考えられ、管轄違いの抗弁などは本案以前のものと考えられていることと同じようにも考えられる。しかし、当事者能力の欠缺に関しては、本案での抗弁として提出することが許されないわけではなく、管轄違いの抗弁とは異なる。また、予備的に請求棄却を求める抗弁を提出していることからも261条2項が不適用であるとは言えない。

 

そこで、Yに訴え却下判決を求める必要性があるかを検討しなければならない。これに関連する論点として、訴訟判決の既判力というものがある。一般に訴訟判決にも欠けると判断された訴訟要件につき、同一当事者、同一請求の後訴に対し既判力が作用するものと考えられている。これは、訴訟要件の存否をめぐる紛争においてもその蒸返しが行われることがあり得るためこれを防ぐ必要があることを理由とする。したがって、Yとしては当事者能力が欠けるという争いに関しての蒸返しを防ぐため訴訟判決を得る利益を有すると考えられるため、このような主張をして、訴えの取下げにはYの同意が必要であると反論する。

 

再訴禁止効

設問2では262条2項に規定される訴えの取下げの効力としての再訴禁止効が問題となっている。前提として、Xの訴えの取下げにYも同意してその効力が発生しているといえる。また、訴えの取下げ後にYが提起した訴えは確認の訴えであるが、訴訟物たる実体法上の権利関係が同一であることから、再訴禁止効の適用が問題となる。

 

再訴禁止効が認められる趣旨としては、訴えの取下げに対する制裁という側面と、再訴の濫用の防止という側面とがあり、その両者を考慮しているのが判例である。また、最判S52は再訴禁止効が作用するのは、単に当事者・訴訟物を同一とするだけではなく、その利益・必要性についての事情が同一である場合であるとし、これは、再訴の提起を正当ならしめる新たな利益・必要性があれば再訴も許されるという規律を示している。つまり、再訴の許容性を事例に沿って検討することになる。

 

また、本事例では再訴を提起したのが訴えの取下げをした原告Xではなく、被告であったYである。262条2項の文言を見ると再訴が禁じられるのは訴えの取下げをした原告側のみであるようにも思われるが、被告の同意を要するとされる場面で、本事例でもYが同意をした上で訴えの取下げが行われているような場合には、両者が訴えの取下げをした当事者と考えることができるため、Yに再訴禁止効を生じさせることは可能である。そして、Yの再訴についてこれを正当ならしめる新たな利益・必要性について考えてみると、Xが訴えを取下げてからまもない時に、協議の結果たる金銭の支払いを拒んでいるという状況では、新たな利益・必要性は認められない。したがって、Yの再訴提起は不適法である。

 

また、Xとしても協議の結果たる金銭の支払いを拒まれている状況であるから、訴えの取下げの効力自体を争い、本訴についての期日指定の申し立てをすることが可能であると考えられる。この場合には訴訟物を同一とするYの再訴は二重起訴禁止に反して不適法却下されることになる。