【民訴8】既判力の客観的範囲と争点効

今回は、事例演習民事訴訟法 事例16を素材に既判力の客観的範囲と争点効について考えてみようと思います。参考判例は、最判S44・6・24です。

 

本事例は、前訴においてYがXに対し係争地について所有権に基づく明渡請求を行い、これについてY勝訴判決を得た。しかし、その後XがYに対して係争地についての所有権の確認と所有権に基づく所有権移転登記手続請求を行ってきたというものです。そこで、Yとしては、係争地の所有権については前訴で判断されているとして後訴でXが自己の所有権を主張することは許されないとする主張を提出したいと考えているため、これにつき検討するものです。

 

このような既判力の問題は自分としても苦手なところがあるため、確認の意味も含めて考えていきたいと思います。また、争点効についても改めて理解するために判例とともに考えていきます。

 

既判力の客観的範囲

まず、同一の紛争について前訴での判断が後訴において拘束力を有するという場合には、既判力による遮断の有無を検討する必要があるでしょう。

 

そして、民訴法114条は、既判力の客観的範囲として、主文に包含するものに限るとしています。これは一般に、判決主文と一致する請求の趣旨のことであり、また、請求の内容たる訴訟物の存否についてであると考えられます。そして、判決理由中の判断とされるものには既判力は、例外として認められる場合を除き生じません。

 

このような既判力の客観的範囲を限定することの意義としては、当事者が攻撃防御をするうえで、最終的には訴訟物たる権利または法律関係の存否という点に集中させることが考えられ、攻撃防御にまで既判力が生じ、拘束力があるとすれば、攻撃防御についても慎重となり、不用意な萎縮を与える恐れがあるからです。また、裁判所の判断についても自由かつ迅速に行われる必要があることから、攻撃防御に関する拘束力を否定していると考えられます。

 

もっとも、既判力の客観的範囲を判決主文に包含されるものと限定することにより生ずる問題もある。それが本事例の想定するような場合であろう。

 

つまり、本事例における前訴での訴訟物は所有権に基づく土地明渡請求権であるが、これが認容されたとしても既判力が生じるのは土地明渡請求権の存在のみであり、Yが所有権を有する旨の判断は理由中の判断として既判力が生じないことになる。そして、この結果として、Xは後訴において自己の所有権を主張し、これの確認請求を求めることが可能となってしまうのである。そこで、このような場合に既判力とは異なる特殊な拘束力として主張されたのが争点効という理論である。

 

争点効理論

争点効理論は、前訴で当事者が主要な争点として争い、かつ、裁判所がこれを審理して下したその争点についての判断に生じる通用力で、同一の争点を主要な先決問題とした異別の後訴請求の審理において、その判断に反する主張立証を許さず、これと矛盾する判断を禁止する効力として、信義則または当事者間の公平を根拠に認められるべきであると主張するものである。

 

争点効の要件は①前後両請求の当否の判断過程で主要な争点となった事項についての判断であること、②当事者が前訴においてその争点についての主張立証を尽くしたこと、③裁判所がその争点についての実質的な判断をしたこと、④前訴と後訴の係争利益がほぼ同等であるか、前訴の係争利益の方が大きいこと、⑤争点効によって利益を受ける当事者の援用があることであるとされている。

 

本事例に則して考えれば、前訴と後訴との訴訟物は異なるが、「Xの係争地について時効による所有権の取得」という点は共通の争点となりうるもので、主要なものである。もっとも、本事例では前訴でXがこの主張を行ったうえで裁判所がこれにつき判断し、Y勝訴の判決を行ったかどうかが不明である。もし、Xが時効取得の主張を尽くしたにもかかわらず裁判所がこれを排斥していたとすれば、争点効を適用することができる場面であるといえそうである。

 

しかしながら、争点効理論が最高裁判例で明確に否定されているのも周知の事実であろう。これに対する新堂教授の批判は身震いするほどの痛烈さを持っているが、われわれ学生としては、判例ありきで考えるしかない。

 

では、争点効が否定されているとして他の主張が考えられないかといえば、やはり信義則による遮断という方法を考えるしかないのではないだろうか。争点効も同様に信義則を根拠にしているわけだが、判例としても信義則による遮断を認めているものもあるため、主張としてはこちらの方が安全だろう。

 

この信義則による遮断を主張する際にも、XおよびYが前訴で行った攻撃防御を検討し、すでにこれが尽くされているにもかかわらずこれを蒸し返すような後訴での主張かどうか、Yとして最終的な決着が前訴ですでについているという期待が保護されるべきかなどを考えていくことになるだろう。本事例で言えば、やはりXが時効取得の主張を前訴で行い、または行うことができたことが明らかになっていれば、後訴での主張を遮断することも可能ではないかと考える。