【商法6】株主代表訴訟の対象

今回は、事例研究 民事法Ⅱ 第1部問題6を素材に株主代表訴訟の対象について考えてみようと思います。参考判例最判H21・3・10です。

 

本題に入る前に、この事例では大株主Bが株主総会を開催せずに自己を取締役として登記したという事実から、この株主を取締役の地位から排除する方法についても問われています。他の株主Xとしてこの方法を考えると、開催されたかが不明な取締役選任の株主総会決議の瑕疵を訴えるというものになります。そこで、本件事実のような場合に、どの訴訟類型によりこれを争うことが妥当かという問題となります。

 

株主総会決議の瑕疵を争う訴訟類型としては、決議取消しの訴え、決議無効確認の訴え、決議不存在確認の訴えという3類型が会社法上規定されています。この3類型における異同を簡単に確認しておくと、決議取消しの訴えにおいては、その取消し事由は、手続きまたは決議方法の法令・定款違反もしくは著しい不公正、決議内容の定款違反、特別利害関係人による議決権行使により不当な議決となったこと、が規定されているが、決議から3ヶ月以内に提起する必要がある。決議無効確認の訴えでは、無効事由が決議内容の法令違反のみが規定されている。決議不存在確認の訴えでは、不存在事由の定めはない。また、決議無効確認の訴えと決議不存在確認の訴えは、出訴期間の定めはない。

 

本件株主総会決議は、決議から3ヶ月が経過しており、取消しの訴えは提起できず、違法事由も手続き違反にとどまるため、無効確認もできない。そこで、決議不存在確認の訴えを提起することになる。

 

決議不存在確認の訴えにおける不存在事由はその定めがないため、なにが不存在事由に当たるかが問題となるが、これを考えるにあたってのポイントとしては、実際上開催されたかという点と開催されていても不存在といえる法的評価を受けるかという点がある。

 

そして、後者の点については、判例最判S33・10・3)などが、招集手続きの瑕疵の程度が著しく重大な場合には、そのような総会で成立した決議は法的には不存在と評価されるとしている。ここからは事案ごとの個別的判断になるように思えるが、これまでの経営体制からの変更が伴う重要な議決について、従前の運営方法を理由に招集通知を発しないことは妥当ではなく、20パーセントを保有する株主に対して参加させないことは決議の不存在の評価をうけるのではないかと考えられる。

 

株主代表訴訟の対象

では、ここからは本題に入りたい。本件では、上記のように取締役の地位にないもしくは違法な手段により取締役の地位に立ちその権限を濫用していると考えているXは、Bが取締役として会社から得た取締役報酬を会社に返還ないし賠償させたいと考えている。そこで、Xがこのような請求をするための法律構成と法的手段を考えていく必要がある。

 

まず、P社からBへの請求についての法的構成を考えてみるが、上記のようにBが招集手続きの著しい瑕疵の存する株主総会により取締役に選任されたとすれば、右決議は不存在であり、これによりBのP社取締役という地位も否定される。そうであれば、Bには取締役報酬をうける法律上の原因がなくなり、民法703条に基づく不当利得返還責任を負うと考えることができる。

 

また、Bが違法な手段により取締役になり、この地位を濫用して法外な取締役報酬という損害をP社に与えたという不法行為責任を負うと考えることもできそうである。

 

ここで、これらはいずれも民法上の規定を根拠にしていることから、会社法上の責任として何かないだろうかと考えたが、取締役が会社に対して損害を与えたことに対する責任追及として会社法423条1項が思いついたが、これは、会社と取締役との関係が民法上の委任に基づくことを根拠に生じる取締役の会社に対する任務懈怠責任であるから、不当利得返還責任とも不法行為責任ともことなる性質にあると考えられる。そうであると、やはり今回のような場合には、会社は取締役に対して責任追及するばあい、民法上の請求をすることになるのだろう。

 

そこで、このような民法上の請求が会社から可能であるような場合に、会社がこれをしない場合、株主は株主代表訴訟を使ってこの請求を直接することができるだろうかという問題が生じる。これが、今回のテーマである株主代表訴訟の対象という問題である。この事例を考えるまでは具体的に意識したことのない問題であり、明確な記述が教科書にもないため、この機会に考えてみる。

 

とはいえ、判例百選掲載の判例最判H21・3・10)が株主代表訴訟の対象となる取締役の責任について判断しているため、確認する必要がある。

 

この判例の事案では、解説にも記述があるように、株主が会社所有たる不動産の登記を有する取締役に対して株主代表訴訟によって主位的に会社の所有権に基づいて、予備的に会社と取締役との間の借用契約の終了に基づいて、真正な登記名義への回復を求めている。そして、判決では、主位的請求を棄却しつつも、予備的請求を認容している。つまり、

「同法267条1項(現行会社法847条1項)にいう「取締役の責任」には、取締役の地位に基づく責任のほか、取締役の会社に対する取引債務についての責任も含まれると解するのが相当である。」としており、主位的請求については、これにあたらず、他方で、予備的請求は借用契約の終了を根拠にしているから取引債務についての責任追及として認められるという判断をした。

 

ここで、本件事例についてみると、考えられる請求の法的構成が不当利得返還責任と不法行為責任であるから、いずれも会社と取締役の取引債務についての責任とはいえそうもない。判例百選の解説にもあるように、この判例がこれまでの多数説・有力説であった全債務説と限定債務説いずれも支持せず、取引債務包含説を採ったと評価されるのであれば、本件事例でのいずれの請求も株主代表訴訟の対象とはならないのではないかと思われる。この点事例研究の解説では、「判例によれば代表訴訟が認められる余地がある」としていることに疑問がある。

 

確かに、上記で引用した判旨の部分ではない、847条1項の趣旨についての部分では、株主代表訴訟の趣旨が、会社と取締役の特殊な関係により責任追及を怠るおそれがあることから、これを株主にさせることを認めたものであるとしている。そうであれば、不当利得返還責任も不法行為責任もこのようなおそれは払拭できていないはずであるから、取引債務に限る必要はないとも考えられる。この点を汲んで「代表訴訟が認められる余地がある」としているなら理解できなくはない。

 

この事例を検討していて思ったことは、やはり大株主の暴走は少数株主によって止めることは容易ではないということである。