【民訴3】将来給付の訴え、敷金返還請求権と不法行為に基づく損害賠償請求

今回は法学教室演習 民事訴訟法2016年6月号です。参考判例はもちろん最大判S56・12・16大阪国際空港事件です。

問題としては、大阪国際空港事件を前提として、
賃貸借契約継続中に敷金返還請求訴訟を提起できるか(問1)
土地不法占有者に対する明渡しまでの賃料相当額の損害金請求訴訟を提起できるか(問2)
である

どちらも大阪国際空港事件を前提として考えるよう求められているため、これを確認してそれぞれの検討をしたい。

そもそも、将来給付の訴えについては民事訴訟法135条が「あらかじめその請求をする必要がある場合に限り」することができるとしている所が出発点であることを忘れないようにしよう。


大阪国際空港事件について

大阪国際空港事件では、将来の慰謝料請求のみならず、夜間の航空機の発着の差止め及び過去の損害賠償も請求されているが、今回との関係で将来給付の訴えの適法性にしぼってまとめていこう

この事件では次の2つ(ないし3つ)を要件としている
すなわち、請求権の基礎となるべき事実関係および法律関係がすでに存在し、その継続が予想されることと、請求権の成否およびその内容につき債務者に有利な影響を生ずるような事情の変動は、あらかじめ明確に予測しうる事由に限られ、しかもこれについては、請求異議の訴えによりその発生を証明してのみ執行を阻止しうるという負担を債務者に課しても格別不当とはいえないこと、である。

この要件が満たされる具体例としては、不動産の不法占有者に対して、明け渡し義務の履行完了までの賃料相当損害金請求権が挙げられている。

そして、この事件では将来の侵害行為が違法性を帯びるか否かおよびこれによって原告らの受けるべき損害の有無、程度が一義的に明確とはいえず、立証の負担を債務者に課すことはできないとして請求を認めなかった。

この判例は、その後の航空機騒音公害訴訟において踏襲されているが、その要件が厳しすぎるとの指摘がなされている。判例の反対意見においても、請求権発生の基礎となるべき事実関係が継続的な態様においてすでに存在し、将来にわたって確実に継続することが認定される場合には、認められるべきであるとするし、本件においても過去の損害賠償について認定していることから、このような最小限の被害についての救済は認められるべきであるとしている。

同様の基地の騒音問題である横田基地訴訟(最判h19・5・29)の田原睦夫裁判官の反対意見においても指摘されている。


設問について

まず、問2から考えてみれば、上記判例を前提に考えれば、この不動産の不法占有者に対する賃料相当損害金の支払い請求訴訟は将来の給付の訴えに該当するが、すでに形成された事実関係が継続することが確実であり、損害の範囲が明確で、変動事由があった場合にこの立証を債務者に負わせても妥当であると言えるから、適法となるということになりそうである。

しかしながら、上記横田基地訴訟の反対意見においては、この不動産の不法占有者に対する賃料相当損害金の支払い請求訴訟についても、地価の急激な変動など損害の範囲が一義的に明確とはいえないことがありうると指摘している。もっとも、この反対意見に基づけば、そもそもこのような要件が狭きに失するため、その他の要件が満たされれば将来給付の訴えとして適法とするべきであるとされているから、結論としては変わらないのであろう。


では問1についても考えてみる。
問1では賃貸借契約継続中の敷金返還請求権の行使が問題となるが、そもそも敷金返還請求権の性質が問題となる。

敷金返還請求権は、判例最判S48・2・2)によると、賃貸借終了後、家屋明け渡しがなされた時において、それまでに生じた敷金の一切の被担保債権を控除しなお残額があることを条件として、その残額につき発生する条件付請求権であるとされている。

そうであれば、賃貸借契約の継続中にはその具体的な金額については算定することが困難であると言えるため、将来給付の訴えの請求適格は否定されると考えられる。

もっとも、給付の訴えではなく、敷金返還請求権の存否について確認を求める確認訴訟は、当事者がこれを差し入れたこと自体を争っているというケースにおいて、現在の権利または法律関係であるとして訴えを適法とした判例最判H11・1・21)がある。


この将来給付の訴えの問題は以前出題されて解いたはずなのに問題内容とかどんな解答をしたか覚えていない箇所だったので、これを機に頭に入れよう。