【民法3】平成28年司法試験民事系第1問

今回は平成28年司法試験第1問を検討していきたいと思います。

 

事案は連続するものであるが、設問1と設問2で法律関係は異なる。

まず、設問1に関係する事実としては、Aがその子Cの所有とされている甲土地、乙土地について承諾なく代理人としてEに売却したというものである。甲土地についてはEと売買契約は締結されたが代金の支払いはなされておらずこれと所有権移転登記が同時になされる合意がなされた。乙土地についてはEが買い受けた後EからFに売却されて所有権移転登記がなされている。

設問は、EからAおよびD(Cの妻)に対しての甲土地の所有権移転登記手続請求の可否(1)、DからFに対する乙土地およびその上に建築された丙建物に対する請求の可否(2)

 

次に設問2に関係する事実としては、EがHおよびKから賭博に使う目的で500万円を借り入れる契約をし、これらにつきLが連帯保証した。もっとも、Kは契約を締結したが金銭をEに交付していない。その後HはこのEに対する貸金債権をMに譲渡し、Eはこの債権譲渡につき承諾をした。KはEに金銭を交付していないにもかかわらず、Lに返還請求をし、これを信じ584万円を支払った。

設問は、MからEに対する契約上の債権の請求の当否(1)、MからEに対する法廷債権の請求の当否(2)、LがEに対して584万円の請求ができるか(3)

 

こうやって事案を整理してみると、なんとか答えを導けそうな気がしますが、初見では提示された事実がこのような整理になるという所が難しかった。

 

前半が物権法、後半が債権法に関する問題になっている。

 

設問1について

設問1では、そもそもAE間で締結されたCの甲土地乙土地の売買契約が有効であるか否かが重要である。

甲土地乙土地はCが所有しており、その管理についてAが行っていたというもので、AはCの代理人としてEに売却している。もっとも、この売却についてはCの承諾はなく、この売却代金はAが自己の借金の返済にあてる目的であった。

 

本件契約時、Cは未成年者であり、Aが法定代理人であるから、AにはCの財産に関する管理権を有する(824条)。しかし、Aの目的が自己の借金の返済であること、C所有財産が失われることから826条1項の利益相反行為に該当し、特別代理人が選任されていないことから、無権代理となるという考え方ができるように思う。また、代理権の濫用として93条ただし書きを類推適用し、Cに本件契約の効果は帰属しないと考えることもできる。どちらにせよ、本件においてはCの承諾なく、Aが代理権を濫用し、Eがこれにつき悪意であるから、無効である。

参考判例最判H4・12・10である。

 

さらに、Cが死亡し、妻であるDとAがその地位を相続したことにより、無権代理人が本人を相続した場合の問題が生じる。最判H5・1・21を参考に、共同相続については追認権が不可分に帰属し、全員が追認することで効果が生じるとして、Dによる追認が認められない本件では、やはりAE間の契約が有効となることはない。

 

このように考えれば、AE間でなされた売買契約は無効であるから、Eは甲土地に対して所有権を取得することはできず、所有権に基づく所有権移転登記手続請求は認められない。

 

次に乙土地についてのDからFへの請求を考える。上記のようにAE間の売買契約が無効であるとすれば、Cが死亡した時にはいまだCに所有権があり、AとDが共同相続人として乙土地を相続したと考えることができる。そして、持分権者単独による請求は、252条ただし書きの保存行為として可能である。

 

そこで、Fとしては、何らかの保護される余地はないかを検討することになる。ここで考えられるのは、AE間で作られたEが真正な所有者であるという外観を信頼して契約したとして、権利外観法理、すなわち94条2項による保護がなされないかを考える。

 

確かに、外観の存在やFの善意無過失は認められるが、真の所有者たるCに帰責事由があるとはいえないため、これを類推適用することはできない。そうであれば、Fは保護されず、Dによる建物収去土地明渡請求は認められることになる。

 

 

設問2について

 設問2においても、そもそもEHおよびEK間の消費貸借契約が有効と言えるのかが問題となります。加えて、Hとの関係では、Hがその後Mに債権譲渡しこれにEが承諾をしたことがどのように影響するかが問題となる。

 

まず、Eとしては貸金を賭博に使う目的でそれぞれと消費貸借契約を締結している。このような契約は90条により公序良俗違反で無効となりうる。もっとも、Kとの関係ではこの目的は明らかにされておらず、かわりにKからの金銭の交付がなされていない場合に有効と言えるかが問題となる。

 

まず、小問1および2に答えるために、EHM間の法律関係を考えていく。

上記の通りEH間の消費貸借契約は無効である。そうであれば、これを譲り受けたMも契約の履行としてEに貸金返還請求をすることはできないといえる。もっとも、Eが債権譲渡に関して行った承諾は何らの異議をとどめないものであるといえるから、468条1項によりEはMからの請求を拒めないとも考えられる。

 

この点に関しては、判例最判H9・11・11)があるが、取引の安全よりも公共の安全を優先すべきであり債権譲渡に異議をとどめない承諾をしても無効を主張できるとする。そうであれば、やはりMはEに契約上の履行請求はできないことになる。

 

では、MがEに請求できる法定債権とは何が考えれるか。これについては、EH間の消費貸借契約が無効であれば、HがEに支払った500万円は不当利得として返還されるべきものである。そして、この返還請求権をMが債権譲渡により取得したと考えられれば、MはEに不当利得返還請求権を行使して500万円の支払いを求めることができると考えられる。もっとも、不当利得と考えても、賭博の用に供する金銭は不法原因給付(708条)であるから本来Hは請求することができないものと言える。そこで、Mがこれを請求することができるかを検討し、不法の目的についてMが善意であることから請求を認めるべきと考える。

 

最後に、EKL間の法律関係を考える。

まず、EK間では消費貸借契約が締結されたものの金銭の交付がなされていない。587条を見れば、消費貸借契約は要物契約であるから金銭が交付されていなければ効力は生じず、連帯保証契約も主たる債務が存在することがその成立要件として考えられるから、この連帯保証契約も効力は生じない。そうであれば、LがKに何らの債務も負うことはないし、これについて支払った事実があっても、保証契約に基づく求償(459条)をEに対してすることもできないと考えることになる。

 

しかしながら、消費貸借契約についてその要物性を緩和するという議論があり、民法改正案においても諾成的消費貸借という契約類型が設けられていることからも、本件のような場合において、消費貸借契約の成立を認めるべきといえる。その方法としては、EK間では消費貸借契約の締結日に金銭を交付するのではなく後日交付することがあらかじめ合意されていたという事情を使い、契約事由の原則から諾成的消費貸借契約の成立を認めるという考え方や、判例最判S48・3・16)を参考に保証契約における付従性の緩和を認めて、EKL間の消費貸借契約ないし連帯保証契約を有効とする。

 

このように考えた場合でも、Kには債権の受領権限がないため、LのKにした支払いが弁済として有効かを478条に基づき検討し、Lの善意無過失を認定してこの弁済を有効とし、LのEに対する求償権の行使も認められるとすべきである。

 

 

まとめ

今回は要件事実的な問題というよりも論点の組み合わせ的な問題でした。ただその分、ヒントを見落とすと答えが導けなくなる問題だった気がします。

 

これはLECの分析コメントを参考にまとめましたが、辰巳の方では全く異なる答案が展開されていて、まだ混乱があるように思えますが、現時点ではこのまとめがすわりがいいのではないかと思い、採用しました。

 

自分で構成している時には設問2小問2の法定債権とは何かがまったく思いつかなかったけれど、不当利得を捻り出せてよかった。もっとも、設問1のAの売却が利益相反行為に当たらないという判断(LECはそのように解している)や設問2のEHM間での請求に転用物訴権を用いるという考え方はいまだ理解が及ばず、難しい。