【刑訴7】自白法則と違法収集証拠排除法則

今回は、事例研究 刑事法Ⅱ 第4部問題4を素材に、自白法則と違法収集証拠排除法則について考えてみようと思います。参考判例は、東京高判H14・9・4と高輪グリーンマンション事件(最決S59・2・29)です。

 

自白法則と違法収集証拠排除法則

自白については、憲法38条2項、刑訴法319条1項において強制拷問、脅迫による自白は許されない旨が規定されている。この自白における証拠排除の法則を自白法則という。自白の証拠能力が問題とされる場面といえば、もちろん拷問等による場合には当然ながら、約束を伴う場合、偽計による自白、手錠を掛けた状態による場合などが問題となるが、これらはこのような類型的ケースの場合になされる自白が虚偽自白を誘発する恐れが強く、さらには憲法38条1項に規定される黙秘権の行使が保障されていないといえる場面であることから、自白の任意性が欠け、証拠能力を否定すべきであることから認められた法則である。

 

もっとも、捜査手続きにおいて違法な点があり、これにより自白を取得した場合などには、違法収集証拠排除法則により、この自白が証拠能力を否定されるのではないかという考え方もできる。現在の有力説はこれを認めており、これを否定する理由もないように思える。

 

しかし、この二つの法則を自白について適用できると解すると、いずれから検討すべきなのかが問題となる。

 

確かに、明文がある自白法則を先行して検討することも考えうるし、自白が取得されるに先行してなされる捜査の違法を指摘するのであるから違法収集証拠排除法則の検討からすべきということも考えうる。ひとつ考えられるのは、上記で違法収集証拠排除法則の適用を否定する理由はないと述べたが、自白につきこの法則を適用した最高裁判例がないことを考慮すれば、自白の任意性を一切問題とせず違法収集証拠排除法則により証拠能力を否定することは躊躇すべきなのかもしれないというところである。

 

私見としては、自白の問題であることを指摘した上で任意性を否定できないもしくは任意性に関する類型にわりふれない場合に、捜査手続きの違法が重大であるという点を指摘するという二段構えで構成することが無難ではないだろうか。この二段構えを混同して「違法が重大だから任意性がない」といった書き方をしないように注意が必要である。

 

東京高判H14・9・4は、

「本件のように手続き過程の違法が問題とされる場合には、強制、拷問の有無等の取調方法自体における違法の有無、程度等を個別、具体的に判断するのに先行して、違法収集証拠排除法則の適用の可否を検討し、違法の有無・程度、排除の是非を考える方が、判断基準として明確で妥当であると思われる。」

と自白法則と違法収集証拠排除法則の関係に配慮した記述があるから、参考になる。

 

では、このように自白にも違法収集証拠排除法則が適用されるとして、違法収集証拠排除法則で要件とされる「令状主義を没却する重大な違法」というものは、そのまま要件とすべきなのだろうか。自白が取得される場面は、捜索差押など令状の必要とされる場面とは異なるため、問題となる。

 

学説で自白にも違法収集証拠排除法則が適用されると考えるものにおいては、「憲法や刑訴法の所期する基本原則を没却するような重大な違法」と言い換えられることもあるようだが、自白の収集過程で無理が生じやすいことを考えれば、将来の違法捜査の抑制に重点をおいて、違法の重大性の基準は緩和されると考えるものもある。この重大な違法と将来の違法捜査の抑制という二つの要件をどちらも具備する必要があるとする重畳説に立てば、両者は相関関係に立ち、このような柔軟な基準定立も妥当といえるかもしれない。

 

宿泊を伴う取調べ

ここからは捜査手続きの違法についての検討になるが、本件事案でモデルとなった高輪グリーンマンション事件では、宿泊を伴う取調べは強制捜査には当たらず任意捜査であり、また、任意捜査として許容される限界を超えるものではなく適法と判断している。著名な判例であるから結論は知っておくべきであるが、実際には少数意見において違法である旨も述べられており、学説の批判も多い事例であるということも覚えておく必要がある。この事例では、違法に傾く事情および適法に傾く事情がそれぞれあげられ、利益衡量されているように見えるが、実際には不明確な点が多いという。最終的には、被告人が取調べの間に退去したいむねを申し入れなかったなどの事情を考慮しているが、これを申し入れることすら制限された状態であったと考えれば当然に違法となるはずである。

 

このように、高輪グリーンマンション事件が限界事例であると考えれば、この事例を基準に、この事例において考慮された事情と本件事例の事情を比較し、結論を導く必要がある。

 

このように任意による取調べが違法であり、この取調べから聴取された自白を違法収集証拠排除法則により排除するとすれば、実質的逮捕の状態であったのに令状によらなかったということであるから、やはり「令状主義を没却するほどの重大な違法」ということになるのではないだろうか。