【刑訴9】別件逮捕と余罪の取調べ

今回は、事例研究 刑事法Ⅱ 刑事訴訟法 第3部問題3を素材に、別件逮捕と余罪の取調べについて考えてみようと思います。参考判例は、最決S52・8・9となりますが、百選掲載のものとして浦和地裁H2・10・12を挙げておきます。

 

別件逮捕について

まず、別件逮捕という問題について考えてみると、この問題は、被疑者の逮捕という身体拘束が憲法上も保障を受ける重大な権利侵害を伴うことを考慮して各別の令状を求めた令状主義を根拠とし、さらにこの逮捕が事件単位においてのみ認められるという事件単位の原則から、捜査機関が未だ逮捕の要件を具備できていない犯罪を本件として、右本件の取調べをすることを主たる目的とし、逮捕の要件を具備する別件において逮捕をすることが、上記主義ないし原則に反し違法となるのではないかという問題である。

 

つまり、別件逮捕の問題は、形式的には逮捕の要件を具備しているが、実質的には本件の取調べを目的とする本件逮捕であるから違法であるという考え方から導き出される。そして、違法となる別件逮捕による身体拘束中になされた被疑者の自白および得られた供述調書は違法な逮捕と不可分一体のものと認められ、違法性が承継されることでその証拠能力が否定されることになる。

 

この別件逮捕の問題には、別件基準説、本件基準説、実体喪失説等の学説の対立があり、実務においては捜査機関の逮捕の目的が本件取調べにあるなどの判断が困難となることもあり形式的な逮捕要件が認められれば原則として別件逮捕は適法となるとされているようである。我々が事例問題を解く上では事案によって柔軟に対応するしかないが、本件捜査が主たる目的であることが明白であるという事実がない限りは、適法とするほかないだろう。もっとも、本事例のように、一定の時以降の取調べが本件取調べのみが行われたといった事実が認められる場合には、やはり何らかの違法を主張するべきであるため、余罪取調べの違法という問題を指摘しつつ、別件逮捕の問題と余罪取調べの問題とをいかにリンクさせて処理するかを考えなければならないだろう。

 

余罪取調べについて

上記のように、一旦は別件逮捕が適法としても、その後の取調べが余罪たる本件の取調べを主眼に置かれている場合には、余罪取調べの問題として、違法性を帯びるのではないかということを問題とする。ここでややこしいと思うのは、この違法とは「別件逮捕が違法となる」のか「余罪取調べが違法となる」のかの区別である。上述のように、別件基準説によれば形式的要件を具備する別件逮捕は適法とされるはずであるが、後の取調べの態様によりこの適法が覆され、違法となるというのは何ともわかりにくい気がする。そうであれば、別件逮捕としての身体拘束は適法であるが、余罪の取調べについて違法性が生じ、結果として右取調べで得られた証拠についての証拠能力に影響を与えることになると考えた方が素直な気がする。もっとも、このように取調べの違法を問題とするためには、取調べの性質について考えてみる必要がある。

 

取調べは被疑者および参考人から捜査資料を得るために行われる捜査手続きであるが、これを根拠づける198条1項をみると、身体拘束をされていない被疑者については出頭および退去を申し入れることが可能とされ、やはり任意捜査の一つと読めそうである。もっとも、逮捕・勾留されている被疑者についてはこれが認められていないことから、一般に被疑者については取調べ受忍義務があると考えられている。もっとも、逮捕勾留が取調べを目的とするものではないことからも、逮捕勾留の必要がなくなった後に取調べを目的としては身体拘束を継続することは被疑者の権利を侵害するものとして違法性を帯びるであろう。

 

そして、逮捕について事件単位の原則が採られているとしても、これを後の取調べに及ぼし、一切の余罪取調べが許されないとすることは捜査活動の目的達成を阻害することになるし、余罪取調べを認めることで被疑者の身体拘束時間短縮というメリットも認められなくなるため妥当ではない。そこで、逮捕後の取調べについても事件単位の原則が適用されるとしてもいいこれを緩やかに適用すべきとして、右取調べを受けるか否かについて被疑者の自由が実質的に保障されている場合には適法となると考えるべきである。また、例外的に別件たる犯罪と本件たる犯罪との間の密接関連性が認められる場合には、余罪取調べが適法となる余地も認めるべきである。

 

 

本事例で言えば、別件たる侵入窃盗に対する逮捕は客観的資料に基づき適法になされており、本件たる強盗致傷の逮捕についても共犯者乙の供述等の別件における取調べ結果とは独立した客観的資料に基づきなされているため適法と言える。もっとも、侵入窃盗についての勾留延長後は主として本件たる強盗致傷の取調べがなされていたというものであるし、侵入窃盗と強盗致傷が密接関連性を有するとは言い難く、甲が右取調べについて抗議していることからも違法な余罪取調べということができる。したがって、この余罪取調べから得られた捜査報告書については証拠能力が否定されるだろう。前述の通りその後の強盗致傷に対する逮捕は適法であるからその後の取調べも適法と考えられる。もっとも、違法な余罪取調べにより得られた供述と同様の内容の供述であれば、違法性の承継および反復自白として証拠能力に影響を与えるかを考える必要がある。しかし、本事例では強盗致傷に対する逮捕が独立した客観的資料に基づきなされていることから、取調べ状況が何らの変化もないなどの事情がない限りは不可分一体の取調べとはいえず、違法性は承継しないものと考えるべきである。したがって、強盗致傷について逮捕後の取調べにより得られた自白調書については証拠能力が否定されるものではないと考えられる。

 

これらは浦和地裁判決の判旨といわゆる狭山事件の要旨を参考にしているが、結局のところ総合考慮に逃げてしまっていて不安が残る。