【行政法1】補助金の支出と住民訴訟

本日の問題はTKC論文演習セミナー行政法 問題1です。素材判例最判H22.2.23です。

なんだか行政法の問題を考えるのがとても久しぶりだったので、答案を自力で書くまでの勇気が湧かずに判例解説を読んでしまいました。
ただ、このTKCの問題はきちんと試験問題風に会話文による誘導も提示されていてとても良いと思いました。次回こそはチャレンジしよう。

さて、問題の概要は
地方公共団体が運営すると畜場が閉鎖されることになり、これにより右と畜場を利用していた業者や従事していたと殺業務従事者に不利益が生じることから、市長が支援金を支出したという事例において、当該地方公共団体の住民が支出の違法を主張して住民訴訟を提起するというものです

設問としては、住民訴訟のおさらいとして、どのような訴訟となるかを考えさせる問題と具体的な主張について検討させる問題が出されています。


住民訴訟のおさらい

久しぶりの行政法で戸惑ったのは内容がこの住民訴訟という地方自治の分野だったのも大きいです。なかなか事例問題として解くことも少なかったので、この機会におさらいをしておきたいと思います。

住民訴訟は、地方公共団体の住民が、自己の属する地方公共団体の執行機関・職員による財務会計上の行為を適正に保つために特に法定された訴訟である。住民訴訟を提起するには、住民監査請求を経る必要がある(地方自治法242条の2第1項柱書き)。

そして、訴訟の類型としては242条の2第1項各号に掲げられているものに限られる。これは、1号が差止め、2号が処分の取消・無効確認、3号が不作為の違法確認、4号が地方公共団体に違法な公金支出を行った執行機関・職員に損害賠償ないし不当利得返還を請求するように義務付けるものである。

4号請求については、原告が勝訴したのにもかかわらずこれがなされない場合には、住民は地方公共団体を代位して当該執行機関・職員を被告として地方公共団体に損害賠償ないし不当利得返還をするよう訴えを提起することができるという二段構えになっている(242条の3)。

本事例では改正前地方自治法に基づき訴えが提起されていることから、現行法とは異なるかもしれないが、住民としては「市長の行った支援金の支出は違法であるから、地方公共団体に対して損害を賠償せよ」という趣旨の訴えを提起したい。そこで、現行法で考えるに、242条の2第1項4号の請求を地方公共団体を被告として提起して認容判決を得たのち、これがなされない場合には242条の3による請求を市長を被告として提起することになるであろう。


支援金の支出の違法性

次に、上記訴訟を提起した際に住民側が主張する違法の内容はどのようなものになるか。
これは、設例に付け加えられている会話文にヒントを見出そう。

まず、会話文においてなされているのは本件支援金の法的性格をいかなるものと考えるべきかという点であることに気づきたい。そして「市はどうも損失補償として考えていたのではないか」というヒントが出てくる。さらに、「補助金としても本件支援金の適法性が問題になるのではないか」というヒントがある。結局のところ、素材となった判例はこの2点から本件支援金の適法性を検討しているから、これらを分けて検討すれば自ずと判例と同様の検討が可能となる素晴らしい誘導である。

ただ、この誘導とそれに関連して挙げられている参考知識がどのように答えを導くかは頭を使わないといけない。これが難しい。

まず、損失補償としての面から検討する。

ここでヒントとされているのは最判S49.2.5である。
これは、東京市中央卸市場の土地を建物所有目的で、期限の定めなく使用を許可されていたが、使用の目的が生じたためその一部につき許可を取り消し(撤回し)、行政代執行により占有を奪取したことから、使用を許可された者の使用権は「私有財産」に当たるからこれを侵害するには損失補償が必要だと請求した事例で、最高裁はこれを否定したものである。
もっとも、最高裁は使用権に対する権利対価補償は不要と解したものの、付随的損失に対しての補償は否定するものではなく、認められる余地を残している。

この判例と本事例がどのように関係するのか、一見して分からなかったが、つまり、と畜場の閉鎖によりこれが利用できなくなるもしくは他の施設を利用するのに費用がかかるなどの損害の補償として、本件支援金がなされたとすれば適法と言えるのではないかという点を検討する物差しにせよということであろう。
そこで、両事例の差異をみるに、判例の事案では使用許可という処分があるが、設例では単に利用関係があったというのみである点が大きな違いである。
判例のような損失補償がなされるには継続的関係が必要とされていることから、判例が付随的損失に対する補償には肯定的であっても、本件支援金を損失補償として適法とすることはできないことになる。

次に、本件支援金が補助金としての性質を有すると解する場合を検討する。
素材判例では、この点に審理不尽があるとして原審に差し戻す判断をしているから、結論としては自ら答えを出さなければならない。

まず、補助金の支出については、232条の2が「公益上必要がある場合においては」補助金を支出することができる旨定めている。設例で言われているように、この公益上の必要性については地方公共団体に広範な裁量があると考えられており、素材判例でもこの点に関しては認められうるとしている。

そこで、補助金を支出した手続きにおける瑕疵を理由に違法性を主張することが考えられる。
設例の会話文にある220条における款、項の流用禁止がなぜここで出てきているのか、なかなかヒントにしては難しいとは思うのだけれど、つまり、「補助金であるのに補償の節に入れられているのは、実際には議会において審議されていないことを表しているのではないか」ということを示唆しているようである。判例も、このように実際には議会において審理がなされていないなどの事情があれば違法となるとしていることからも、重要な点である。
また、補助金条例の手続きが取られていないという点も違法性を基礎付ける事情となりうる。
設例としては主張を立てることで十分とされているが、第一審がこれらを理由に違法と判断していることから、この主張が認められる旨を付け加えていても良いかもしれない。


次こそは、書く努力をしていかなくては。