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【刑訴5】「場所」を目的とする捜索差押許可状

今回は、法学教室2016年4月号の演習 刑事訴訟法を素材に、「場所」を目的とする捜索差押許可状の執行について考えていきたいと思います。参考判例は、最決H6・9・8と最決H19・2・8です。

 

まず前提として、捜査機関が捜索差押をする場合には、裁判官の発する令状によらなければ捜索差押をすることはできない。これは憲法35条に根拠を置き、これを具体化するために刑事訴訟法218条にも規定が置かれています。また、この捜索差押許可状の記載要件として刑訴規則155条1項1号は、その対象について「物」「場所」「身体」を明記することとしている。

 

そこで、この対象として「場所」のみを記載した場合に、この令状執行時起こりうる問題を検討していきます。問題となり得るのは、①執行中に搬入された「物」の捜索ができるか、②執行中に持ち出された「物」を捜索できるかという点になります。

 

具体的な問題を検討する前に、考えるポイントとしては、その捜索差押の対象となった物が場所に包摂する関係にあるかどうかという点があります。つまり、場所に生じるプライバシーなどの権利利益について制限されることを許可した裁判官の令状の効力は、この場所に包摂される物には及ぶと考えることができ、他方で、たとえそこに居合わせた者であっても、その身体に対する捜索は、場所に生じる権利利益とは別個の身体に対する権利利益の侵害を生じさせるため、場所に対する捜索差押許可状の効力を及ぼすことはできないと考えられるのである。

 

もっとも、このように考えても、場所に居る者がそもそも場所に包摂される物を身体に隠匿するなどの場合にも身体に対する捜索が許されないとすれば、捜索差押の目的は達成することはできない。このような場合には、その物が場所に包摂するものであることを理由に認める考え方と、222条・111条1項における必要な処分として認める考え方の二つがあると思われる。

 

では、以上のような考え方をもとに、具体的な問題を検討してみたい。

 

執行中に搬入された「物」

まず、執行中に宅配運送業者や関係者が居住者と関係する物を搬入してきた場合、その物を捜索差押することが認められるだろうか。

 

この点についての判例は、明確な理由を述べずに捜索差押を適法としている。しかし、この判例控訴審においては上記の必要な処分として認めていた点について正当とはしておらず、結論のみを正当としている。そして、判旨からは、令状の効力がそのまま及ぶように考えられている。

 

つまり、宅配便で居住者宛に届けられた物について居住者がこれを受領した場合には、その物は場所に包摂されるものになったと考えられるから、場所に対する令状の効力を直接に及ぼすことができるとしているのである。

 

法学教室の事例では、宅配便ではなく、共犯者と思われる乙が有するボストンバッグに対して捜索差押がなされている。この差異をどの様に評価するかで結論は変わる様に思えるが、事前の張り込みである程度の嫌疑があり、乙が犯罪に関する物品の運搬に右ボストンバッグを使用していることの蓋然性が相当程度に高まっていると解せば、甲方にボストンバッグが持ち込まれた段階で、場所に包摂されたということもできそうである。

 

執行中に持ち出された「物」

さらに、搬入されるのとは逆に、場所にあった物を持ち出し、これを追った警察官が場所から離れたところでこれを捜索差押した場合に、令状の執行として適法とすることができるだろうか。

 

これに関しても、そもそも場所に包摂された物であればたとえこれを身体に隠匿したとしても包摂関係が否定されると考えるのは妥当ではないため、場所に対する令状の効力として捜索差押することができるだろう。さらに、これに抵抗する場合などに身体を取り押さえる行為は、222条・111条1項の必要な処分として適法に行うことができると考えられる。

 

 

この様に捜索差押の目的物が搬入されたり、持ち出された場合を検討してきたが、そもそも、目的物を捜索したにもかかわらず発見できずにいた場合にそこに居る者の身体を捜索できるかという問題は残されている。上述した様に原則として侵害される権利利益が別個であるから格別の捜索差押令状によらなければならないとも考えられるが、そこに居る者が隠匿していることに合理的な理由がある場合には、認めるべきではないかという考え方もある。確かに、警察官が隠匿を現認していない場合にはこのような合理的な疑いを根拠に認めるしかないだろう。東京高裁H6・5・11はこれに近い基準を提示しているから、認められる余地はあるようにおもう。