【刑法8】クレジットカードの不正使用

今回は、事例から刑法を考える 事例18を素材に、クレジットカードの不正使用と詐欺罪について考えてみようと思います。参考判例最判H16・2・9です。

 

まず、本事例については、いつもの通り細かい論点を含んだ事実が多く散りばめられており、これを見逃さずにひとつひとつ解決していけるかを問われています。これらの気になった点は最後に述べるとして、本題であるクレジットカードの不正使用と詐欺罪の問題について早速みていきましょう。

 

クレジットカード不正使用の事案の分類

まず、クレジットカードと詐欺罪という論点においては大きく分けて二つの事案が考えられます。それは、「自己名義のクレジットカードの不正使用」という事案と「他人名義のクレジットカードの不正使用」という事案です。

 

実際には共通する論点も含まれているが、前者においては加盟店はカード会社から支払いを受けることができるとすれば、そもそも損害が生じているか、被害者は誰と考えるかと言った観点からの検討が必要になるが、後者の事案では、どのように詐欺罪の構成要件を認めるか(欺く行為をどのように構成するか)、財産上の損害は生じているかという観点から検討する必要がある。

 

また、後者の事案では、クレジットカードの利用される実態に即した妥当な判断をすべき場面が少なからず認められるため、これと詐欺罪の成立をどのように考えるかも重要な視点となる。

 

他人名義のクレジットカードの不正使用

本件はXYが窃取したA名義のクレジットカードを不正使用し、B店から30万円相当の宝石を買い受けている。この際、YがAであるように装っているが、クレジットカード使用時の署名はXが行っている点に本件の特殊性があるといえる。

 

もっとも、特殊性があるとしても一見して他人名義のクレジットカードを、通常のクレジットカード規約に反する方法で使用していることから詐欺罪における欺く行為があったと認定することも可能であろう。しかし、他人名義のクレジットカードの不正使用という類型は、名義人と装った者が当該クレジットカードの提示・売上票への署名などを行う場合を想定していると考えられる。そうであれば、名義人と装った者と売上票への署名を行った者が別であれば、欺く行為もこれと対応した構成をしなければならないと考えるべきなのかもしれない。ここには、現実的なクレジットカードの利用実態という観点も取り入れる必要が出てくるとも考えられる。

 

では、本件の特殊性をどのように構成するか。それは、XYが「Yが名義人Aであるように装い、Aの意思にもとづく署名をXがした」ような外観を作出したことを欺く行為と構成すれば良いのではないだろうか。これによりXYの共同実行も基礎付けることができる。

 

また、このように構成する視点として、クレジットカードの利用実態というものも加味することになろう。それは、家族間や夫婦間で利用の承諾がなされていることが少なからずあるということから本件においても「Xが名義人Aを装い署名した」という単純な構成よりも事実に即した構成が可能であろう。

 

この承諾のある場合というのが構成要件該当性の問題であるか違法性阻却事由のひとつと考えるかという問題もありそうではあるが、クレジットカード詐欺の被害者は財物を交付する加盟店であることから被害者の承諾としての違法性阻却と考えることよりも、欺く行為の該当性および財産上の損害の有無において検討することになるだろう。判例は、たとえ承諾があり、名義人による支払いがなされるとしても詐欺罪の成立には影響がないとしていることから、財産上の損害の有無とは無関係であると考えているようである。原審で「クレジットカードの使用状況等の諸般の事情に照らし、当該クレジットカードの名義人による使用と同視しうる特段の事情がある場合」には詐欺罪の成立を否定することを示唆していることから、やはり上記のようなクレジットカードの利用実態をも加味してそれが不正使用といえるか、すなわち欺く行為と言えるかという関係において評価することになると思われる。

 

その他の問題について

最後にこの事例に散りばめられている細かい点について注意喚起をも含めてメモしておこう。

 

まず、家出中の者が自宅に侵入するというケースでは、侵入する者がいまだ住居権者と言えるかという点から検討する。

 

所有権留保がなされている財物の処分は横領罪となるかを検討を要するが、詐欺により取得した財物を売却すると言ったケースでは不可罰的事後行為として成立が否定される。

 

目的物の売却を委託された者がその売却代金を着服した場合には、一般に横領罪が成立すると考えられているが、詐欺により取得した物の売却である場合、目的物およびその対価の所有関係をどのように考えるか。目的物を売却したことによって得た対価の所有は本来の目的物の所有者ではなく売却を指示した者について考えるべきである。よってこの際にも横領罪が成立する。

 

贈賄罪の検討をする上では、「職務に関し」という点について、職務密接関連行為という観点と一般的職務権限という観点の異なる観点があるということに注意し、前者は公的行為と私的行為との限界についてのもので、後者は公的行為であるが行為者自身がその職務を行うことについて、事務分掌等の観点から規制がある場合のものであることを理解する必要がある。

 

以上のように挙げただけでもどれだけこの事例が単純そうに見えて複雑かがわかる。解説も読みやすく、そして読者(学生)への配慮も怠らない良質なものであった。