【憲法6】表現の自由を制限する法令の文面審査

今回は、事例研究 憲法第2部 問題5を素材に、表現の自由を制限する法令の文面審査について考えてみようと思います。素材となる判例はありませんが、徳島市公安条例事件(最大判S50・9・10)、福岡県青少年保護育成条例事件(最大判S60・10・23)、広島市暴走族条例事件(最判H19・9・18)も確認していきたいです。

 

まず、事例について検討してみると、本事例では、選挙結果とマスコミの行う世論調査との関係が問題となり、これを規制する法律が成立した。その後、この法律に反し、世論調査の放送を行ったYテレビ局とY局報道局長が起訴されたという事案である。そして、憲法上の主張を考えるに、この世論調査法の法令違憲の主張と本事例における適用違憲を主張することになると思われる。今回はどちらの主張もそこまで技巧的ではなさそうで一安心ではあるが、表現の自由に対する法令違憲の手法である文面審査について、すこし考えてみようと思います。

 

その前に、解説においては、Yらが憲法上の権利として主張すべきものは何かという点について問題提起がなされている。つまり、本事例においても成立した世論調査法がYらの世論調査に関する報道を規制することは明らかであるが、法令違憲を主張する場合には、Yらの個別的な権利の主張ではなく、法令に含まれた人権制約一般を違憲として主張する必要があるため、この世論調査法がいかなる人権制約を行っているかを検討して、主張することが必要となるのである。

 

この点、解説では、広く表現の自由の制限であるとしている。この根拠は、世論調査法の11条において世論調査の公表等を禁止されている主体が「何人」とされており、報道機関および放送主体がに限られていないため、表現一般として世論調査の公表等を禁じているところに着目しているのである。このように、法令違憲の主張をかんがえるには、当該法令を精査する必要がある。

 

そして、世論調査法が制約するのは表現の自由であることとし、この違憲を主張する内容として、文面審査の手法としての漠然不明確故に無効の法理を使うことができる。つまり、世論調査法が禁止する「世論調査」という文言が何を指すのか不明確であり、表現に対する萎縮効果が生じるとして、表現の自由への制約として違憲となるというものである。この表現の自由に対する文面審査の方法としては、この漠然不明確故に無効の法理というものと、過度に広範故に無効の法理というものがある。これらの区別とその内容を以下で確認していこう。

 

漠然不明確故に無効の法理

まず、本事例でも主張することになる漠然不明確故に無効の法理について確認すると、これは、上記の通り表現の自由に対する萎縮効果を考慮して、不明確な文言の規定による表現の自由の制約を違憲とするというものである。

 

後述する過度に広範故に無効の法理との区別で考えれば、前者は手続的適正の要請から導き出されるものであり、後者は実体的適正の要請から導き出されるものである。区別と言っても両者は相互に補完し合うものであり、これを簡単に表せば「表現の自由に対する制約は、制約射程を限定し、法令上明確な文言で定めなければならない」ということになる。

 

では、不明確であることが表現の自由の制約となり、文面上違憲となるという主張に対する反論はどのようになるだろうか。単純に考えれば、不明確という主張に対しては、明確であると反論すれば良い。具体的には、徳島市公安条例判決がこの法理に対する判例としてあげることができる。もっとも、右判決は文言上の不明確さが憲法31条の求める適正手続の要請から告知機能を欠くという点を問題視していることに注意を要する。右判決は、

「ある刑罰法規があいまい不明確のゆえに憲法31条に違反するものと認めるべきかどうかは、通常の判断能力を有する一般人の理解において、具体的場合に当該行為がその適用を受けるものかどうかの判断を可能ならしめるような基準が読み取れるかどうかによってこれを決定すべきである。」としている。

 

つまり、漠然不明確故に無効の法理の主張に対しては、一般人の理解で不明確性を払拭できる旨の反論が適切であるということになる。

 

過度に広範故に無効の法理

他方で、過度に広範故に無効の法理というのは、文言の明確性は問題とならないが、規制される対象が広範すぎるため、表現の自由に対する萎縮効果を及ぼすため違憲となるという主張である。先に両者についての区別を述べたが、この法理が実体的適正の要請から導き出されるということは、つまり、制約対象が広範であり適正でない場合には無効となるということを意味する。

 

具体的には、福岡県青少年保護育成条例事件事件において問題になっている。これは、条例が禁止する「淫行」という構成要件が真摯な性交渉をも規制するものとすれば、規制が広範であるとして無効であるという主張がなされた。この事件では表現の自由が問題となったものではないが、条例における刑罰法規の広範性が問題となり、これに対する判断がなされているため、参考になる。本事例でも「世論調査」という一事をもって一律に規制することが広範であるとの主張が考えることができるのではないだろうか。もっとも、これはどちらかといえば、Yらのした報道が世論調査法の規制するものではないという適用違憲を主張する際の論証のような気もする。

 

では、この過度に広範故に無効の法理に対する反論はどのようなものが考えられるか。ここで登場するのが、合憲限定解釈という手法である。これは、確かに条例ないし法令が規制するものが文言上の広範に捉えられる場合があるとしても、実際に当該条例ないし法令が規制するものは、より限定された範囲内に解釈された規制であるから、合憲であるというものである。そして、この合憲限定解釈の根拠たり得るのは、社会通念に従った解釈である必要があり、右社会通念の判断は裁判所の裁量にあるとされている。

 

 

以上で確認したように、表現の自由に対する文面審査の手法とそれに対する反論は、区別して理解されるべきものである。この様な視点をしっかり持ち、問題を解く上できちんと判断できる様になる必要がある。

 

【刑訴6】先行手続きの違法と証拠能力

今回は、事例研究刑事法Ⅱ 刑事訴訟法第4部問題3を素材に、先行手続きの違法と証拠能力の問題について考えていこうと思います。参考判例は、最判S53・9・7と、最判S61・4・25および最判H15・2・14です。

 

今回の事例は非常に典型的という感じがしますが、典型的であるがゆえにしっかりと問題提起から結論までのプロセスを理解する必要がある気がします。簡単に事例を見ると、詐欺罪の容疑がかけられた甲の様子を警察官が見に行くと覚せい剤の影響による錯乱状態のような甲を発見し、甲が警察署による採尿に応じないため、複数の警察官により連行し、説得を続けて最終的に尿を任意提出させ、これを検査したところで通常逮捕し、覚せい剤使用(および所持)の容疑で捜索差押許可状の発布を受け、これを執行したところ覚せい剤を発見したため差押をし、これを鑑定したというもので、覚せい剤使用の罪で起訴された際に請求された各種証拠の証拠能力が認められるかという問題である。

 

対象となる証拠は、①甲の尿を鑑定した結果を記した鑑定書、②覚せい剤そのもの、③覚せい剤についての鑑定結果を記した鑑定書である。事例の特殊性としては、採尿手続きおよびその提出に強制手段が取られたという事情がないという点と、甲には詐欺罪の嫌疑がかけられ、これに関する甲宅の捜索差押許可状がすでに発布されており、覚せい剤使用の捜索差押許可状とともに執行されたという点であろう。

 

この事例で問題となるのが、連行行為が違法である場合の、これをきっかけとして収集された証拠の許容性であることがわかる。そして、①については、先行手続きの違法が証拠収集行為(採尿手続き)にも認められ、これにより得られた鑑定書の証拠能力が違法収集証拠排除法則により排除されるのではないかという問題が、②③については、違法収集証拠にあたる証拠をきっかけになされた捜査活動により発見された証拠の許容性を問う、いわゆる毒樹の果実理論の問題である。この二つの問題の区別はわかりにくいところがあるが、別問題であることを理解する必要があるだろう。これらの問題につき区別して、検討していく。

 

先行手続きの違法と違法収集証拠排除法則

まず、違法収集証拠法則の基準を簡単に押さえておこう。これは捜査における強制処分と任意処分の区別に関する最決と同等に重要かつ著名な判旨だと思われる。つまり、判例最判S53・9・7)は違法に収集された証拠物の証拠能力が否定される場合を「令状主義の精神を没却するような重大な違法があり、これを証拠として許容することが、将来における違法な捜査の抑制の見地からして相当でないと認められる場合」であるとする。判旨では、この基準を導く過程として、刑事事件における真実発見の要請という立場と憲法においても要請される適正手続という立場との調整を行っている。そして、この基準を要素に分解するとすれば、重大な違法と違法捜査の抑制という二つの要素にすることができる。

 

以上の違法収集証拠排除法則が適用されるのは、通常、証拠収集行為自体に違法性がある場合であると考えられる。そこで、証拠収集行為自体には違法性がないともいえるが、それに先行する手続きに違法性があると言えそうな場合に、どのように考えるべきかという問題について検討していく。

 

ここで、一番重要な視点は、なぜこのような場合が問題となるかという意識である。それは、このような場合に違法収集証拠排除法則を適用できないとすれば、この法則により達成しようとする目的、すなわち、適正手続の保障、司法の廉潔性、違法捜査の抑止を達成することができなくなるということである。そして、この目的を達成するためには、いかなる基準で、先行手続きの違法を評価するべきかという考えに至るのである。このような問題意識を踏まえて、判断基準については、判例の力を借りることにしよう。

 

判例は、最判H15・2・14においては「密接な関連」というキーワードを、最判S61・4・25では「同一目的」「直接利用」というキーワードを用い、証拠収集行為の適法性を検討するにあたっては、先行する手続きの違法性をも加味するという方法をとっている。すなわち、先行手続きが証拠収集行為と密接な関連がある場合には、先行手続きが違法であれば、証拠収集行為も違法となるということになる。ここで、両判決のキーワードの関係がどのようなものかが問題となるが、解説においては密接関連性の有無を判断するメルクマールとして「同一目的」「直接利用」があると理解すべきとされている。

 

もっとも、このように密接関連性を根拠に証拠収集行為が違法とされたとしても、直ちに証拠能力を否定するのではなく、ここで認定された違法の程度が、違法収集証拠排除法則により排除されるほどのものかを検討している。したがって、検討のプロセスとしては、証拠収集行為の適法性を検討(密接関連性のある先行行為に違法があればこれをも参酌する)、違法とした場合違法収集証拠排除法則を適用し証拠能力の有無を検討するということになる。

 

毒樹の果実理論

では、①の証拠につき違法収集証拠排除法則により排除されるべきであると考えた場合、②③の証拠のように、①の証拠をきっかけになされた捜査活動により得られた証拠の証拠能力をどのように考えるべきか検討していこう。

 

毒樹から得られた果実たる派生証拠の証拠能力が否定されるべきではないかという考え方においても、やはり違法収集証拠排除法則の目的達成という視点がある。

 

もっとも、派生証拠が得られる場合には、上記の①のような先行手続きと証拠収集行為というような関連性(因果性)は薄れ、新たな手続きが介在していることが多い。そこで、もっとも重要となってくるのは、違法手続きと派生証拠との関連性(因果性)の有無・程度を個別の事案ごとに考えていく必要がある。

 

考え方の指針として、この毒樹の果実理論とその例外法則について頭に置いておくことが有効かもしれない。それは、希釈化の理論、独立入手源の法理、不可避発見の法理と呼ばれている。

 

判例としては、本事例の素材となったと思われる最判H15・2・14を見る必要がある。この判決の事案においても、違法に収集された採尿結果の鑑定書を疎明資料として発布された捜索差押許可状により差押られた覚せい剤とそれに関する鑑定書の証拠能力が問題となっている。判例は、覚せい剤の差押については裁判官による新たな捜索差押許可状が発布されているという点と、同時に嫌疑がかけられていた窃盗についての同様の捜索差押許可状も同時に執行されていたことを理由として、違法収集証拠と派生証拠との密接関連性を否定し、派生証拠の証拠能力を肯定している。

 

この判例に従えば、本事例においても派生証拠たる②③の証拠能力は肯定されるであろう。

 

少し疑問に思ったのは、本事例では、覚せい剤使用の罪に関する捜索差押許可状の請求についての疎明資料が甲の採尿結果についての鑑定書ではなく、捜査官の作成した捜査報告書等とされている点である。上記判例のように鑑定書が違法収集証拠である点には相違がないが、裁判官が捜索差押許可状を発布した際にチェックを受けた資料が捜査報告書であり、この捜査報告書に記載された事実には虚偽が含まれているとすれば、本件において、裁判官の令状発布の審査は正当性を欠くということができないだろうか。そうであれば、上記判例が違法性の希釈化の根拠とした裁判官のチェックという理由付けは本件には妥当せず、これをもかいくぐって収集された②および③についても違法手続きとの密接関連性を認めることが可能と言えないだろうか。この点をついた答案を書くのはかなりの冒険になりそうなので、進んでいく必要もないだろうけれど、考えたことをメモしておこう。

 

 

 

【民法6】サブリースと賃料減額請求

今回は、事例から民法を考える 事例16を素材にサブリースと賃料減額請求の問題を考えてみようと思います。

 

サブリースという契約関係について

まず、サブリースという契約類型を理解するために、本事例の事実関係を確認しておきます。本事例では、Aがスポーツクラブ経営のために建物を探していたところ、Bが適当な物件を探してくる旨を約し、建物を有するCに打診し、Cがこれをスポーツ施設に改装し、Bに賃貸し、これをさらにBがAに転貸借するという関係になっている。そして、設問として提示されているのは、Aの業績が悪化したことにより収益をあげられなくなったBがCに対し、BC間の賃貸借契約について賃料減額請求を行うというものである。

 

このようにCという土地または建物を所有するオーナーが右不動産の運用をBに一括して委託し、これをBがAに転貸借するといった関係が、サブリースという契約関係である。これによりCは資産を運用することができるし、BはAから得る転貸料から収入を得ることができるし、Aとしては営業する場所を確保することができるといったメリットがある。

 

このような契約関係は、民法上の典型契約に当てはまるのかどうかが議論されてきたが、現在では判例最判H15・10・21)が、サブリースも使用収益の対価として賃料を支払うという内容を含まれている以上、賃貸借契約なのは明らかであるとしている。

 

この判例は続けて、本件契約には、借地借家法が適用され、同条32条の規定も適用されるというべきであるとしている。借地借家法32条は建物賃貸借に関する借賃減額請求権について規定している。

 

借地借家法32条の借賃減額請求権

借地借家法32条1項は、建物の借賃が、土地もしくは建物に対する租税その他の負担の増減により、土地もしくは建物の価格の上昇もしくは低下その他の経済事情の変動により、または近傍同種の建物の借賃に比較して不相当となったときは、契約条件にかかわらず、当事者は、将来に向かって建物の借賃の額の増減を請求することができるとしている。

 

借地借家法はなかなか条文に目を通す機会がないだろうから長々と書いたが、この条文で大切なところは、考慮要素が例示されていることと、強行規定であるという点であろうか。強行規定であるから、当事者間における賃貸借契約において、賃貸借期間中の賃料の変更は認めない旨の特約があったとしても、その合意は無効であり、32条の適用は認められる。

 

もっとも、減額しない旨の特約が排除され、32条の適用が認められたとしても、これにより当然に、また、どの程度の減額が認められるかは別問題である。そして、これらを考えるための考慮要素が32条1項には規定されている。要は、賃料が当初と比べて不相当となった場合に認めるという事情変更の原則を立法化したものということができる。しかし、単なる価格の変動という事実のみならず、賃料が定められた要因や経緯なども総合考慮するべきだというのが平成15年判決の示すところである。

 

このような考慮要素によりどのような結論が具体的に出されるかは、個別的な事案について検討するほかない。本事例においては、BC間の賃貸借契約においては賃料が固定式に設定され、これには、経済的変動に対するリスクはBが負うことが現れているとも言える。さらに、CはBからの賃料支払いを期待して改築費用の融資を受けたわけであるから、減額が許されたとしても、Cが返済しなければならない右融資額を下回るほどの減額は認められないと考えることもできる。

 

賃貸借契約解除と転貸人への明渡請求

最後に、転貸借関係における一般的な問題を確認しておこう。

 

つまり、賃貸借契約が解除された場合に、適法転貸借の転借人に対して、賃貸人が明渡請求をすることができるかという問題である。

 

判例最判H9・2・25)では、賃貸借において紛争が生じ賃借人が賃料を支払っていない状態で、賃貸人が解除の意思表示をし、転借人に明渡請求をした段階で、転貸借契約は社会通念上履行不能となると判示されている。これは、転貸人から転借人に対する転貸料支払請求事件における判示である。

 

そして、賃貸人からの明渡請求については、解除の原因によってその結論が変わっている。つまり、賃借人の債務不履行を原因として賃貸借契約が解除された場合には、転借人に対する明渡請求は認められるが、賃貸借契約の合意解除は、信義則により転借人に対抗することができないとする。では、本事例のような更新拒絶(本件では賃借人からの拒絶)により期間満了となった場合には、どのように解すべきであろうか。この点、Cが減額に応じなかったという理由から債務不履行解除に利益状況が似ているとして、明渡義務を認めることも考えられる。また、本件がサブリースの事案であり、賃貸借契約と転貸借契約の関係を一体的に考えるとすれば、BC間の紛争により更新をせず期間が満了したということをAに主張することは信義則に反するという判例最判H14・3・28)に近い考え方もすることができるかもしれない。もっとも、平成14年判決は賃貸人がサブリース関係において中心的立場の者であった。本事例での賃貸人たるCはAB間のサブリース計画に参加した者であって、利益状況が異なるようにも思え、一般の賃貸借契約と転貸借契約の関係と同様に、CからAの明渡請求を認めるという考え方がしっくりくるように思える。

 

【行政法6】行政事件訴訟の類型

今回は、事例研究 行政法 第2部 問題5を参考にして行政事件訴訟の類型およびそれぞれの訴訟要件を考えてみようと思います。

 

この問題では、大規模小売店舗立地法とそれに関連する指導要綱に沿ってなされた行政指導にスーパーマーケット出店業者Xが従わずに法に基づく届出をし、県知事がこれを受理せず返戻したという設問1と、法に基づく意見と勧告をそれぞれ県知事が行い、Xはこれに従わない旨を通知している状況でこれら意見・勧告の違法性を争う方法および、この事実を法に基づき公表しようとしている県知事に対抗する方法を考えるという設問2で構成されている。

 

また、設問では主にどのような訴訟を提起することが考えられ、その訴訟要件を具備しているかというところが中心となっている。そこで、今回は行政事件訴訟の概観の確認もあわせて、各種訴訟の確認と、訴訟要件を整理してみようと思います。

 

行政事件訴訟の概観

行政事件訴訟の類型としては、行政事件訴訟法2条において、抗告訴訟、当事者訴訟、民衆訴訟および機関訴訟であると規定されています。このうち、抗告訴訟と当事者訴訟が個人の権利・利益の保護を目的とする訴訟である主観訴訟に分類され、機関訴訟、民衆訴訟は行政の適法性確保を目的とする客観訴訟に分類されます。今回はおもに主観訴訟に主眼を置いて考えていきます。

 

個人の権利・利益の保護を目的とする訴訟として抗告訴訟行政事件訴訟法3条)および当事者訴訟(同4条)が分類されるが、これらを区別するポイントは、訴訟の目的が「行政庁の公権力の行使に関する不服」か否かという点であると思います。

 

つまり、抗告訴訟として争うことができるのは、行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為についてであり、これは一般に処分性という要件とされています。したがって、処分性をゆうする行政庁の行為についての訴訟は抗告訴訟となり、処分性が認められない場合に当事者訴訟の提起を考えることになります。ではまず訴訟の目的が処分性を有すると考えて、抗告訴訟の類型を確認していきます。

 

抗告訴訟としては、行政事件訴訟法3条において処分取消しの訴え、裁決取消しの訴え、無効等確認の訴え、不作為の違法確認の訴え、義務付けの訴え、差止めの訴えが規定されています。もっとも、この類型にあてはまらない場合においても訴えが許されないわけではなく、無名抗告訴訟として訴えを提起することができると考えられています。しかし、平成16年の改正により義務付けの訴えおよび差止めの訴えが明文として規定されたことから、無名抗告訴訟を考える必要性は少なくなったと思われます。

 

当事者訴訟としては、4条前段に当たる形式的当事者訴訟と4条後段に当たる実質的当事者訴訟に分類される。形式的当事者訴訟は法令の規定がある場合にのみ提起することができ、本質的に行政庁の処分および裁決の効力を争うものであるとして抗告訴訟としての実質を有すると言われている。そして、後段の実質的当事者訴訟は訴訟物を「公法上の法律関係」とするのみで訴訟類型について規定していないため、民事訴訟における給付訴訟および確認訴訟の類型が想定されている。各種手続きを考える上では、上記の分類を理解しておきたい。

 

訴訟要件の確認

では、抗告訴訟および当事者訴訟における訴訟要件を確認していきたい。基本的には抗告訴訟における取消訴訟が中心として規定が設けられ、これが各種類型の訴訟に準用されるという取消訴訟中心主義が行政事件訴訟法では採られている。

 

そこで、取消訴訟の訴訟要件を簡単に列挙すれば

①処分性

原告適格

③訴えの利益

④被告適格

⑤管轄裁判所

⑥不服申立前置

⑦出訴期間

ということになる。

このうち、⑥不服申立前置は取消訴訟においても法に特段の定めがある場合にのみ必要とされ、⑥および⑦出訴期間は取消訴訟独自の要件となっている。この中でもっとも問題となるのは、①処分性と②原告適格、③訴えの利益であろうが、今回は行政事件訴訟の概観として訴訟要件を確認するだけにとどめて、個別の問題はそれぞれで考えていきたいと思う。

 

取消訴訟以外のその他の抗告訴訟については、36条以降で個別の訴訟要件がある場合にそれが規定されている。まず、36条は無効等確認の訴えの原告適格につき、補充性を定める。37条では不作為の違法確認の訴えの原告適格につき、処分または裁決についての申請をした者に限るとしている。

 

義務付けの訴えにおいては、3条6項の1号および2号でふたつの類型が規定されており、これらは、1号が非申請型義務付訴訟、2号が申請型義務付訴訟とされ、それぞれ37条の2および37条の3で個別の要件規定が設けられている。非申請型義務付訴訟では、損害の重大性および補充性が要件とされており、申請型義務付訴訟では、取消訴訟等の併合提起が要件とされている。

 

差止めの訴えは、37条の4において、損害の重大性および補充性が要件とされている。

 

当事者訴訟の訴訟要件としては、形式的当事者訴訟においては、法令の規定がある場合という形式的要件が、実質的当事者訴訟においては、基本的には民事訴訟における訴訟要件、特に公法上の確認の訴えにおいては確認の利益が求められる。実施的当事者訴訟における公法上の確認の訴えでは、いかなる法律関係の確認をその対象とするかが難しいところであるが、民事訴訟における確認の訴え同様、何を確認の対象とすることで紛争の抜本的解決になるかを念頭に考えることで、訴訟物の確定と訴訟要件の具備という両者をクリアすることができると思われる。

 

本問に関する問題点について

以上のように今回は大まかな確認にとどめたのも、本問において問題となる点がなかなかにして論点を含まなかったからである。確かに、届出制において行政庁が届出を受理せず返戻するといった手続き上の違法については理解しなければならないところであるが、これも、この場合に争う方法が実質的当事者訴訟としての「届出義務を履行したことの確認を求める訴え」を提起するという結論さえ知っていれば回答できる。さらに、設問2における意見・勧告についても同様に、処分性が否定されるため抗告訴訟は提起できず、国家賠償訴訟の中で違法主張をするということに帰結し、これに関する解説も省かれている。

 

もっとも、設問2後段の制裁的公表という行政庁の行為は、今後も注目しておくべきものと思う。これも処分性の有無の問題になるが、一般的な消費者への情報提供としての公表ではなく、行政指導に従わないことに対する制裁的公表は、権力的事実行為ととらえて抗告訴訟の対象とすることができるとも考えられる。本問解説では、制裁的公表も行政指導に過ぎず、処分性が認められないため抗告訴訟を提起することはできず、民事上の差止請求をすることができるにとどまるとしているが、民事上の差止請求というのも根拠が明文上になく、いかなる性質か、要件はいかなるものか、不明確な点が多いものである。行政法の事例問題であるなら、制裁的公表の処分性を一蹴して民事上の請求に逃げるのではなく、権力的事実行為の論点に踏み込んでもらいたかった。

 

 

  【刑法6】共謀共同正犯と正当防衛

今回は事例から刑法を考える 事例16を素材に共謀共同正犯と正当防衛について考えてみたいと思います。参考判例は最決H4・6・5です。

 

まず、今回の共謀共同正犯と正当防衛という問題がどのようなものかというと、共同正犯における実行者には正当防衛の要件が充足すると考えられるが、共謀者にはこれが認められない場合、片方の違法性が阻却することが他方の違法性に影響を与えるのであろうかというものである。参考判例としてあげた判例において、過剰防衛のケースにおいて過剰防衛の判断は共犯者それぞれにおいてなされるべきであること及び急迫性の要件も個別に検討されるべきであることが示されていることから、この判例を援用することができれば事案解決はそう難しくはないかもしれない。もっとも、この判例の射程をどのように考えるか、この判例の理論的解釈については非常に困難な問題が含まれているようにおもう。正直なところ、理解しているかと言われれば怪しいが、 一応の理解をまとめておきたいと思う。

 

また、今回のケースで関連する積極的加害意思について判断した判例の判旨も確認しておこう。

 

正当防衛の要件

まずは簡単なところから、正当防衛の要件を確認しておこう。事例問題においては、ある行為の構成要件該当性を認め、その後に正当防衛による違法性阻却が可能な事案かを検討することになる。つまり、これから挙げる要件をいずれかにおいて充足しなければ犯罪が成立する(相当性を欠く場合には過剰防衛の成否が問題となるが犯罪は成立する)。

 

正当防衛の要件としては、①急迫性、②不正な侵害、③防衛行為、④相当性である。正当防衛は緊急避難とは異なり、不正な侵害対正当な防衛であるから、その前提として回避の義務は課されない。そのため、緊急避難で求められる補充性は必要ではなく、急迫性があればよいとされている。もっとも、回避の義務が課されないとしても、不正な侵害が予期される場合にまで防衛行為によることが許容されるのだろうか、これが侵害の予期・積極的加害意思という問題である。

 

この点としては、有名な判例があるため、その判旨を確認することにする。最決S52・7・21は、政治団体どうしの対立において、片方の襲撃が予期され、そのために闘争用の道具を準備していた場合における正当防衛の成否について

「刑法36条が正当防衛について侵害の急迫性を要件としているのは、予期された侵害を避けるべき義務を課する趣旨ではないから、当然又はほとんど確実に侵害が予期されたとしても、そのことから直ちに侵害の急迫性が失われるわけではないと解するのが相当であ」るとしている。そして、これに続けて

「しかし、同条が侵害の急迫性を要件としている趣旨から考えて、単に予期された侵害を避けなかったというにとどまらず、その機会を利用し積極的に相手に対して加害行為をする意思で侵害に臨んだときは、もはや侵害の急迫性の要件を充たさないものと解するのが相当である。」として防衛者に積極的加害意思がある場合には急迫性を否定し、正当防衛の成立を否定した。

 

共謀共同正犯と正当防衛

では、共謀共同正犯により犯罪がなされた場合、実行者に正当防衛の要件を充足するという事情があった場合に、共謀者の違法性に影響を与えるのであろうか。

 

まずは判例を確認しておこう。本事例とは多少異なるが参考判例である最決H4・6・5は、XとYが共同してAの家に押しかけることを企て、XがYにナイフを渡し、Aが襲ってきたら反撃するよう指示をした。Yとしては、Aが襲ってくるなど思ってはいなかったが、AがYをXと間違え暴行を加えたため、ナイフにより反撃し、殺害したという事案において、Yには過剰防衛が成立するとされたことからXにも過剰防衛が成立すると旨の主張に対して

「共同正犯が成立すると場合における過剰防衛の成否は、共同正犯者の各人につきそれぞれの要件を満たすかどうかを検討して決すべきであ」るとし、さらに、XにはAの攻撃について予期するだけでなく積極的加害意思が存するとして

「Xにとっては急迫性を欠くものであ」るとして正当防衛を認めなかった原審を是認した。

 

この判例を援用すれば本ケースにおいてもXには積極的加害意思が認められ、実行者たるYにはこれが認められない。そうであれば、Yには正当防衛が成立し、Xについては急迫性を否定し、正当防衛不成立、殺人罪の共謀共同正犯(Yの故意について傷害致死にとどまる場合には単独正犯)が成立すると考えられる。

 

この判例の理論的根拠については、難しい議論が展開されている。確かに、客観的違法論によれば違法は連帯し、責任は個別に判断するということになる。そうであれば違法性阻却が片方に認められる場合には、他方の違法性も阻却されるべきではないだろうか。

たとえば、この制限従属性説によった帰結は、共同正犯という一次的責任を負う場合には適用されず、違法性レベルにおいても個別判断をすることができると考えることもできる。

もしくは、客観的事情は実行者を基準とすることができ、積極的加害意思といった主観的事情については個別に判断することができると考えることができる。

さらに、本件におけるXのような違法性が阻却される前提となる状況を、わざわざ作り出している者は、実行者の行為の違法性が阻却されることだけを理由として処罰を免れることはないと考えることもできる。

 

最後の見解は島田先生の提唱するものであるから、説得的に感じるのは気のせいだろうか。

 

正直なところ、事例を解く上ではこの判例を知っていることが第一に重要であり、これを援用できれば答えを導くことができるといえるから、理解が甘い場合には深追いして記述することは避けるべきかもしれない。

 

その他の問題点

この事例16は総論の故意・緊急行為・共犯についてのその他の問題も含まれている。気になった点だけ最後にメモしておこう。

 

本件のようにBからの不正な侵害に対抗するためにAの所有たる壺を投げて壊したことが器物損壊罪の構成要件に該当するが、違法性阻却がなされるかという点、この場合にはBの侵害がAとの共同正犯と言えば正当防衛の検討となるが、それぞれ別個に検討すると考えれば、Aの壺を壊すという行為は緊急避難と扱われるべきである。

 

本件のようにXとYが共同正犯としてA及びBを殺害した場合、XにおいてもA・Bに対する殺人罪が成立し、これらは併合罪となる。他方で、XがYを教唆(幇助)し、YがA及びBを殺害した場合には、Xは1つの教唆行為で2つの犯罪を犯していると言えるから、観念的競合として殺人の教唆1罪が成立する。

 

さらに、XはYにAを殺害するように指示をしているが、YはBも殺害している。このような場合にXにBの死亡の結果の責任を負わせて良いだろうかという故意の問題もある。もっとも、抽象的法定符合説によれば、Xには人の殺害という故意が認められるから、これがAに対するものかBに対するものかは問題とならず、故意の数においても抽象化することができるとすれば問題なく両者に対する殺人の故意を認めて良い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【商法5】利益供与、委任状勧誘

今回は、事例で考える会社法 事例18を素材に会社からの利益供与の問題と委任状勧誘について考えていきたいと思います。

 

 会社法120条の利益供与禁止の規定は、総会屋と呼ばれる者たちへの対策として導入されたものであることは周知のことであろう。もっとも、条文上で利益供与を許されない相手方としては「何人」とされていることから、単に総会を混乱させるために出席する総会屋(株主)に対する利益供与を禁ずる規定とはなっておらず、また「株主の権利の行使に関し」利益を供与することが禁止されていることから、この意義が不明確であるなど問題点がある。さらには、会社と株主の間で経営権について争いがあり、または敵対的買収の恐れがある場合に、会社から議決権行使のお願いを株主にするとともに優待制度を設けるなどの場合にも問題となる。

 

このような利益供与に関する問題を考えてみたい。そして、最後にこれと関係する株主提案と委任状勧誘についても少しだけ考えてみたいと思う。

 

利益供与について

120条は会社による株主の権利の行使に対する利益の供与を禁じている。これは上述のように総会屋対策として導入されたものである。

 

細かく要件を確認していけば、まず、供与される財産が会社の計算においてなされることが必要である。つまり、取締役が他者に利益を供与したとしてもそれが取締役の計算においてなされていれば120条には違反しない。もっとも、これを最終的に会社が補填するなどがあれば120条に反するだろう。

事例に即して考えれば、本事例の設問1においてはBは自己の計算において支払いを行っているから120条には反しないとできる。

 

次に、利益の供与が必要である。これは、金銭に限らず、幅広く解釈されているため、役務の提供などの利益であってもよい。また、利益の供与に何らの対価がない場合には当然に、対価があってもこれが釣り合わない場合にも120条に違反することになる。

 

そして、この条文上一番問題とされるのは、「株主の権利の行使に関し」という文言の解釈についてであろう。

つまり、本事例の設問2と同様の事例である最判H18・4・10は、株主である者が他の者に保有株式を売却したと会社に伝え、会社としてはその売却先が株主として好ましくない場合に、これの買い戻しのために金銭を支払ったという事案に対して

株主の譲渡は株主たる地位の移転であり、それ自体は「株主の権利の行使」とは言えない「しかしながら、会社から見て好ましくないと判断される株主が議決権等の株主の権利を行使することを回避する目的で、当該株主から株式を譲り受けるための対価を何人かに供与する行為は、」該当する

としている。

つまり、設問2においても、乙会社を使って買い戻しのための融資を行った行為は「株主の権利の行使に関し」ということができるからAは120条4項の責任をおうことになる。

 

なお、120条の利益供与の相手方は「何人」とされていること、利益供与と権利行使との関連性については主観を重視する立場によれば利益供与の相手方が実際に株主に対して影響力をゆうするか等は問題とならないといえる。

 

株主優待制度との関係

現在の株式会社においては、株式保有数に応じて株主優待制度を取り入れていることがある。ここにおける問題としては、120条の利益供与というよりは109条の株主平等原則であったり、剰余金配当といったところの問題となりそうである。

 

しかし、本事例の設問3のように経営権の争いが生じている状況で、議決権行使を促すため(会社提案に賛同してもらうため)に何らかの優待制度を実施することも考えられ、この場合には120条の規制が問題となってくる。

 

この問題のキーワードとしては供与される利益が「社会的儀礼の範囲内」か否かというところである。つまり、取締役が自らに有利な議決権行使を誘導するために同制度を不当に利用する場合には、120条違反となりうるのである。

 

この点について裁判例東京地裁H19・12・6)は3つの考慮要素を事案に即して検討している。つまり、①株主の権利行使に影響を及ぼす恐れのない正当な目的か、②個々の株主に供与される額が社会通念上許容される範囲のものであるか、③総額も会社の財産的基礎に影響を及ぼすものでないかという3点を検討することになる。上記裁判例では、議決権を行使した株主に対して500円のクオカードを配布するという優待制度を実施したことについて、②③については問題ないとされたが、議決権行使書面および株主通知における記載が会社提案に賛成した者に対してのみ配布されるものととられるおそれがあり、このような場合には①における正当な目的とは言えないとして利益供与に当たるとしている。

本事例に当てはめてみると、たしかに会社側の議案に賛成するか否かにかかわらず配布するということが記載されているが、それ以上に会社提案に賛同することを強調した記載になっていることから、裁判例に従いこれを利益供与に当たるとすることもできる。

 

委任状勧誘の規制

委任状勧誘とは、一般に上場株式の議決権について、自らまたは第三者が代理行使できるよう、株主に対して勧誘することを意味するが、これに対しては金融商品取引法の規制がなされる。

 

委任状による勧誘という言葉は耳にしたことがあるが、じっさいのところどのような制度なのかいまいち理解していないところでもある。今回調べた限りでは、上記の様に金商法ないし内閣府令にしたがった手続きにおいてのみこの委任状の勧誘は可能となり、これを行うのは、株主総会の招集者であるから、会社に限らず株主においても取りうる手段であるということはわかった。他方で、書面による議決権行使は、会社から株主に対して要請することができる手段であるというところに差異がある。前述の裁判例では、じつはこの株主による委任状勧誘と会社からの書面による議決権行使の要請が問題となった事案でもあった。問題点としては、委任状用紙には議案ごとの株主本人が賛否を記載する欄の設置が義務付けられていたが、株主提案および委任状を発送した段階ではわからなかった会社提案の議案についてこれを設けていなかったことが争われたが、委任状と議決権行使書面の手続き的差異等を考慮して無効としなかった。

 

 

この様な金商法上の規制等までは手が回らないけれど、知識としてしっておいて損ではないから、メモをしておこう。

 

【刑訴5】「場所」を目的とする捜索差押許可状

今回は、法学教室2016年4月号の演習 刑事訴訟法を素材に、「場所」を目的とする捜索差押許可状の執行について考えていきたいと思います。参考判例は、最決H6・9・8と最決H19・2・8です。

 

まず前提として、捜査機関が捜索差押をする場合には、裁判官の発する令状によらなければ捜索差押をすることはできない。これは憲法35条に根拠を置き、これを具体化するために刑事訴訟法218条にも規定が置かれています。また、この捜索差押許可状の記載要件として刑訴規則155条1項1号は、その対象について「物」「場所」「身体」を明記することとしている。

 

そこで、この対象として「場所」のみを記載した場合に、この令状執行時起こりうる問題を検討していきます。問題となり得るのは、①執行中に搬入された「物」の捜索ができるか、②執行中に持ち出された「物」を捜索できるかという点になります。

 

具体的な問題を検討する前に、考えるポイントとしては、その捜索差押の対象となった物が場所に包摂する関係にあるかどうかという点があります。つまり、場所に生じるプライバシーなどの権利利益について制限されることを許可した裁判官の令状の効力は、この場所に包摂される物には及ぶと考えることができ、他方で、たとえそこに居合わせた者であっても、その身体に対する捜索は、場所に生じる権利利益とは別個の身体に対する権利利益の侵害を生じさせるため、場所に対する捜索差押許可状の効力を及ぼすことはできないと考えられるのである。

 

もっとも、このように考えても、場所に居る者がそもそも場所に包摂される物を身体に隠匿するなどの場合にも身体に対する捜索が許されないとすれば、捜索差押の目的は達成することはできない。このような場合には、その物が場所に包摂するものであることを理由に認める考え方と、222条・111条1項における必要な処分として認める考え方の二つがあると思われる。

 

では、以上のような考え方をもとに、具体的な問題を検討してみたい。

 

執行中に搬入された「物」

まず、執行中に宅配運送業者や関係者が居住者と関係する物を搬入してきた場合、その物を捜索差押することが認められるだろうか。

 

この点についての判例は、明確な理由を述べずに捜索差押を適法としている。しかし、この判例控訴審においては上記の必要な処分として認めていた点について正当とはしておらず、結論のみを正当としている。そして、判旨からは、令状の効力がそのまま及ぶように考えられている。

 

つまり、宅配便で居住者宛に届けられた物について居住者がこれを受領した場合には、その物は場所に包摂されるものになったと考えられるから、場所に対する令状の効力を直接に及ぼすことができるとしているのである。

 

法学教室の事例では、宅配便ではなく、共犯者と思われる乙が有するボストンバッグに対して捜索差押がなされている。この差異をどの様に評価するかで結論は変わる様に思えるが、事前の張り込みである程度の嫌疑があり、乙が犯罪に関する物品の運搬に右ボストンバッグを使用していることの蓋然性が相当程度に高まっていると解せば、甲方にボストンバッグが持ち込まれた段階で、場所に包摂されたということもできそうである。

 

執行中に持ち出された「物」

さらに、搬入されるのとは逆に、場所にあった物を持ち出し、これを追った警察官が場所から離れたところでこれを捜索差押した場合に、令状の執行として適法とすることができるだろうか。

 

これに関しても、そもそも場所に包摂された物であればたとえこれを身体に隠匿したとしても包摂関係が否定されると考えるのは妥当ではないため、場所に対する令状の効力として捜索差押することができるだろう。さらに、これに抵抗する場合などに身体を取り押さえる行為は、222条・111条1項の必要な処分として適法に行うことができると考えられる。

 

 

この様に捜索差押の目的物が搬入されたり、持ち出された場合を検討してきたが、そもそも、目的物を捜索したにもかかわらず発見できずにいた場合にそこに居る者の身体を捜索できるかという問題は残されている。上述した様に原則として侵害される権利利益が別個であるから格別の捜索差押令状によらなければならないとも考えられるが、そこに居る者が隠匿していることに合理的な理由がある場合には、認めるべきではないかという考え方もある。確かに、警察官が隠匿を現認していない場合にはこのような合理的な疑いを根拠に認めるしかないだろう。東京高裁H6・5・11はこれに近い基準を提示しているから、認められる余地はあるようにおもう。