【刑訴7】自白法則と違法収集証拠排除法則

今回は、事例研究 刑事法Ⅱ 第4部問題4を素材に、自白法則と違法収集証拠排除法則について考えてみようと思います。参考判例は、東京高判H14・9・4と高輪グリーンマンション事件(最決S59・2・29)です。

 

自白法則と違法収集証拠排除法則

自白については、憲法38条2項、刑訴法319条1項において強制拷問、脅迫による自白は許されない旨が規定されている。この自白における証拠排除の法則を自白法則という。自白の証拠能力が問題とされる場面といえば、もちろん拷問等による場合には当然ながら、約束を伴う場合、偽計による自白、手錠を掛けた状態による場合などが問題となるが、これらはこのような類型的ケースの場合になされる自白が虚偽自白を誘発する恐れが強く、さらには憲法38条1項に規定される黙秘権の行使が保障されていないといえる場面であることから、自白の任意性が欠け、証拠能力を否定すべきであることから認められた法則である。

 

もっとも、捜査手続きにおいて違法な点があり、これにより自白を取得した場合などには、違法収集証拠排除法則により、この自白が証拠能力を否定されるのではないかという考え方もできる。現在の有力説はこれを認めており、これを否定する理由もないように思える。

 

しかし、この二つの法則を自白について適用できると解すると、いずれから検討すべきなのかが問題となる。

 

確かに、明文がある自白法則を先行して検討することも考えうるし、自白が取得されるに先行してなされる捜査の違法を指摘するのであるから違法収集証拠排除法則の検討からすべきということも考えうる。ひとつ考えられるのは、上記で違法収集証拠排除法則の適用を否定する理由はないと述べたが、自白につきこの法則を適用した最高裁判例がないことを考慮すれば、自白の任意性を一切問題とせず違法収集証拠排除法則により証拠能力を否定することは躊躇すべきなのかもしれないというところである。

 

私見としては、自白の問題であることを指摘した上で任意性を否定できないもしくは任意性に関する類型にわりふれない場合に、捜査手続きの違法が重大であるという点を指摘するという二段構えで構成することが無難ではないだろうか。この二段構えを混同して「違法が重大だから任意性がない」といった書き方をしないように注意が必要である。

 

東京高判H14・9・4は、

「本件のように手続き過程の違法が問題とされる場合には、強制、拷問の有無等の取調方法自体における違法の有無、程度等を個別、具体的に判断するのに先行して、違法収集証拠排除法則の適用の可否を検討し、違法の有無・程度、排除の是非を考える方が、判断基準として明確で妥当であると思われる。」

と自白法則と違法収集証拠排除法則の関係に配慮した記述があるから、参考になる。

 

では、このように自白にも違法収集証拠排除法則が適用されるとして、違法収集証拠排除法則で要件とされる「令状主義を没却する重大な違法」というものは、そのまま要件とすべきなのだろうか。自白が取得される場面は、捜索差押など令状の必要とされる場面とは異なるため、問題となる。

 

学説で自白にも違法収集証拠排除法則が適用されると考えるものにおいては、「憲法や刑訴法の所期する基本原則を没却するような重大な違法」と言い換えられることもあるようだが、自白の収集過程で無理が生じやすいことを考えれば、将来の違法捜査の抑制に重点をおいて、違法の重大性の基準は緩和されると考えるものもある。この重大な違法と将来の違法捜査の抑制という二つの要件をどちらも具備する必要があるとする重畳説に立てば、両者は相関関係に立ち、このような柔軟な基準定立も妥当といえるかもしれない。

 

宿泊を伴う取調べ

ここからは捜査手続きの違法についての検討になるが、本件事案でモデルとなった高輪グリーンマンション事件では、宿泊を伴う取調べは強制捜査には当たらず任意捜査であり、また、任意捜査として許容される限界を超えるものではなく適法と判断している。著名な判例であるから結論は知っておくべきであるが、実際には少数意見において違法である旨も述べられており、学説の批判も多い事例であるということも覚えておく必要がある。この事例では、違法に傾く事情および適法に傾く事情がそれぞれあげられ、利益衡量されているように見えるが、実際には不明確な点が多いという。最終的には、被告人が取調べの間に退去したいむねを申し入れなかったなどの事情を考慮しているが、これを申し入れることすら制限された状態であったと考えれば当然に違法となるはずである。

 

このように、高輪グリーンマンション事件が限界事例であると考えれば、この事例を基準に、この事例において考慮された事情と本件事例の事情を比較し、結論を導く必要がある。

 

このように任意による取調べが違法であり、この取調べから聴取された自白を違法収集証拠排除法則により排除するとすれば、実質的逮捕の状態であったのに令状によらなかったということであるから、やはり「令状主義を没却するほどの重大な違法」ということになるのではないだろうか。

【憲法7】報道の自由、取材の自由

今回は、事例研究 憲法 第2部 問題6を素材に、報道の自由について考えてみようと思います。

 

今回の事例も、市委員会傍聴を制限したY市委員会条例についての法令違憲、本件不許可処分についての処分違憲、ならびに条例の平等原則違反というXの主張について検討していくものになっています。この主張形式はとくに特殊な点はないように思われるので、今回は、本件事例で気になった点をピックアップして考えてみようと思います。

 

報道の自由について

まず、本件事例ではフリージャーナリストであるXがY市職員厚遇問題などについての取材を目的として市委員会の傍聴を申請したところ、本件条例に基づき不許可とされている。したがって、法令違憲として本件条例が報道の自由を制約するという主張をすることになる。そこで、報道の自由について少し考えてみます。

 

憲法は、報道の自由を明文で保障しているわけではない。しかし、報道の自由は一般に憲法21条1項の保障に含まれると考えられている。これは、博多駅事件(最大決S44・11・26)においても明示されている。この判例の決定要旨を見ると

「報道機関の報道は、民主主義において、国民が国政に関与するにつき、重要な判断の資料を提供し、国民の「知る権利」に奉仕するものである。」

ことを理由に報道の自由を認めている。また、報道の自由の前提となる取材の自由については

「また、このような報道機関の報道が正しい内容をもつためには、報道の自由とともに、報道のための取材の自由も、憲法21条の精神に照らし、十分尊重に値するものと言わなければならない。」

としている。これらの関係については学説の対立もあるが、報道については保障を明言しているのに対して、取材についてはこれを避けている点には注意する必要があるだろう。

 

以上のように、報道の自由と取材の自由も憲法上の保護をうけることはすでに確立している。もっとも、これまで問題とされてきた報道の自由と取材の自由は、本来オープンである場合にもかかわらず公権力による制限がなされたことに対する防御権の主張としてなされたものであった。しかし、本件事案においては、市委員会という本来オープンである場合とは言えないが、報道及び取材のためにオープンにせよという請求権的主張であるところに特殊性がある。

 

もちろん、Xとしては、市委員会が本来オープンである(市委員会を傍聴する権利を有している)という前提に立って主張を展開する必要がある。ここからは委員会についての制度的な話になるが、地方自治において議会の審議の実質的中心が委員会にあるという点を強調し、さらには憲法上議院の会議および地方公共団体の議会の会議は公開が原則とされている(憲法57条1項、地方自治法115条1項))ことを理由にXの主張を基礎付けることができる。

 

他方で、委員会については地方自治法上も条例に委任がなされているから、議会の公開原則は委員会には及ばない旨が反論となる。

 

また解説で興味深い点は、取材の自由が制度的保障であるという考え方である。この考え方の元になっているのは、裁判の公開と傍聴人によるメモ行為の自由が問題となったレペタ事件において、裁判の公開が制度的保障であって、傍聴する権利を認めたものではないという判断である。これに取材の自由を当てはめれば、報道のために取材をするに公権力による制限はなされるべきではないという制度は保障されているが、取材をするための請求権までをも認めることはできないということになるのであろう。

 

取材の自由と法の下の平等

本件事案での特殊性としては、上記の請求権的性格だけでなく、Xがフリージャーナリストであって、これまで市委員会を傍聴することができたものが市政記者クラブの会員であることから不許可処分とされた点であり、つまり、フリージャーナリストである事と市政記者であることにより不合理な区別がなされているのではないかという問題がある。

 

この問題を考えるには、記者クラブという団体の性質を考える必要がある。記者クラブは単なる私的団体ではあるが、その加入には要件が設けられ、閉鎖的な団体と言っていいだろう。その機能役割は、迅速的確な報道や情報公開の促進、報道上の調整、市民からの情報提供の共同の窓口などがあるが、本件事案のように記者クラブの記者であることで取材についての便宜を受けることができるなどの利点があるが、そもそも記者クラブに入会していないとこのような便宜を受けられないとすれば、記者クラブから排斥されないような報道をすることになり、報道機関が権力にとって都合のいいものとなるのではないかという批判もある。記者クラブ自体を違憲とする考えもあるようである。

 

このような市政記者であることで便宜の受けられるか否かが決せられるのは法の下の平等に反するという主張を展開するには、合理的理由がないことを強調することになる。注意が必要なのは、記者クラブの入会の判断に市が関係しないという点である。

 

合理的理由の検討ですべきなのは、取材をする者の能力を選定する必要があるのか、仮にそれが必要であるとして、記者クラブの記者がそれに当たるとする基準が妥当なのかという点である。

 

 

有名新聞社記者・民放記者これらの者にその能力があるかは最近では疑いがありそうなものである。

【民法7】共有物と持分権の主張

今回は、事例から民法を考える事例5を素材に、共有物と持分権の主張について考えてみようと思います。素材判例は、最判S41・5・19です。

 

今回の事例では、相続財産である甲土地および乙建物が相続によりECDの共有状態となったことが前提となる。さらに、事案を考える上では、被相続人であり両不動産の所有者であったのがAであり、EがAとともに居住し、さらには、家業を行っていたという経緯が重要となる。まずは、共有物における持分権者の主張について簡単に確認しておきたい。

 

所有権の共有と持分権

まず、ひとつの不動産について複数人の共有となる場合、各人の有する当該不動産への権利が一体どのような性質を有するものなのかという問題がある。これには、共有者全員において所有権が認められるとする単一説と所有権とは独立する持分権を各人が有するという複数説があったが、現在の通説は複数説である。これを採る我妻先生も、この問題においていずれの説を採るかは結論においては相違がないことを認めていて、要は、当該不動産への権利を侵害する場合などにおいて権利主張をするにさいし、構成が異なるというところに意味がある。ちなみに、通説が複数説を採る理由としては、単一説に基づき共有者の一人が権利主張をして、訴訟に敗訴した場合に、その既判力は他の共有者におよんでしまうことから、手続き的保障がなされないということは認められないということにある。

 

主張の構成として考えれば、単一説によれば共有者の一人からの権利主張は所有権に対する保存行為であるということになり、複数説によれば各自の持分権にもとづき、さらに不動産の明渡等が不可分債務であることを理由とすることになる。

 

では判例が採ってきた立場を確認しよう。基本的に、従来の判例は単一説によってされる説明がなされてきた。しかし、最判H15・7・11は共有者の一人による不実登記の抹消手続き請求について、明示的に持分権に基づくとしていながら、単独での抹消登記手続請求を認めている。

 

共有者の一人による明渡請求

本事例のように従前から不動産を占有していたものに対して、共有権者はそれを排除し自己に明け渡すように請求することはできるだろうか。確かに、共有者であれば、すでに占有をしている者についても自己の持分権を超える範囲で使用する権限は有しない。

 

この点について判例は、

「他のすべての相続人らがその共有持分を合計すると、その価格が共有物の過半数を超えるからといって、共有物を現に占有する前記少数持分権者に対し、当然にその明渡を請求するものではない」としている。

もっとも、この判決には、「明渡を求める理由」を主張立証すれば明渡を請求することも可能である旨が述べられている。この点については、各事例において個別的判断をするほかないだろうが、もっとも重要なのは、当該不動産の占有についての共有者間の合意の有無であろう。これが共有物の管理の内容として過半数による合意とされていれば、その決定に従うべきことになる。逆に、このような合意がなく、しかも従前の共有財産となる前の使用状況が続いており、それについて共有者となる者が異議を申し立てていないといった事情があるのであれば、やはり明渡請求を認めるべきではなく、これを主張することが権利の濫用として排斥されることも考えることができる。

 

今回の事例では、Eが従前から使用していたことから第三者Fに対して無償で貸借しているが、少なからずこれはCDの持分権を侵害することになるから、Cからの持分権の割合を限度にする賃料相当額の支払い請求については認められることになるだろう。

 

抹消登記か更正登記か

自分が気になった点として、無断で移転登記をした後に持分権侵害として登記を抹消する際になされる登記手続きは、抹消登記なのか一部抹消(更正)登記なのかという問題がある。

 

本件事例では無断で移転登記をしたのがAが死亡する前のいまだ共有状態となっていない時点であるから、真正な登記の表示という不動産登記法の趣旨からして、抹消登記をすべきだという主張が自分としては理解がしやすかったが、実際にどのような登記手続きをとるべきかというところはなかなか難しそうである。

 

 

【行政法7】国家賠償法3条1項の費用負担者

今回は、事例研究 行政法 第1部 問題9を素材に、国家賠償法3条1項の費用負担者について考えてみようと思います。素材判例は、最判S50・11・28です。

 

国家賠償法3条1項は、同法1条1項及び2条1項の責任を追及する場合に、実際の行為主体と費用等の支出者が異なる場合について規定している。この規定は、今回の事例の様に、実際に公園および保護柵の設置をした甲県が責任主体となりうるが、国もまた自然公園法および同法施行令に基づく補助金を支出していることから責任主体となりうるのではないかという場合に問題となる。

 

一見して、本件においても国は補助金を支出しているのだから3条1項により責任を負うのではないかと考えることもできるが、本件における補助金が、3条1項の費用に含まれるかという点を考える必要がある。なぜなら、この3条1項にいう費用とは、(公の営造物の設置と管理の瑕疵に関する責任においては)公の営造物の設置と管理について負担されるものでなければならず、単なる贈与的な支出であれば、3条1項にいう費用には当たらないと考えられるからである。

 

本件事例はほぼほぼ素材判例と同様であるから、この点についても素材判例である鬼ヶ城事件判決を理解することにしよう。

 

判例における規範

 この判例は3条1項における費用負担者には、当該営造物の設置費用につき法律上負担義務を負う者のほか、これと同視しうる補助金支給者もこれに含まれるとしている。

 

この様な規範を導く前提として、3条1項の趣旨が、被害者の救済にあり、行為主体と費用負担者が異なる場合に賠償責任の追及を困難にすることを防ぐことにあるとしている。つまり、行為主体と費用負担者が異なる場合には被害者としてはいずれに対しても責任追及をすることができ、その責任割合は3条2項における内部問題として解決すべきだとしているのである。

 

そして、いかなる場合に補助金支給者が法律上の負担義務者と同視しうるかという点については、①費用負担者が法律上負担を義務付けられている者と同等もしくはこれに近い設置費用を負担し、②実質的に当該営造物による事業を共同して執行していると認められる者であり、③当該営造物のの瑕疵による危険を効果的に防止しうる者であるとしている。

 

この3つの要素がいかなる関係にあり、どの点を重視すべきかについては明確ではないが、判例百選の解説によれば、②を基本とすべきだが、③ないし①の点を中心に考えざるをえないのではないかとしている。いずれにせよ、これら3つの要素は相関関係的なものになると思われ、補助金の支給額が多額になればその分当該補助金支給者の関与が強まる場合が多いであろう。

 

また、この判例の射程については、この判決が国賠法2条1項が適用される場合における判断であるから、本判決の法理が直接妥当するのは2条1項の責任に限られ、1条1項の責任の問題では、射程外となりそうである。

 

その他の問題点

本事例では、上記の3条1項の問題に加え、2条1項における問題点もある。その中でも重要なのは、被害者の営造物に対する使用方法がいかなる態様であったかという点に着目し、2条1項の瑕疵が通常有すべき安全性であることから、この使用方法が通常想定される使用方法による場合に賠償責任を限定するという守備範囲論である。

 

この守備範囲論は上記の様に「設置管理の瑕疵」についての解釈から導き出されるものであるが、これに対する反論として、通常想定される使用方法以外の方法がとられていたとしても、これが当該営造物に関して予測される使用方法であった場合や、この様な使用方法がなされていることを認識していた場合には、守備範囲論によって責任を免れることはできないというものがある。また、この予測に関しても一律に一般人を基準とすることは妥当ではなく、当該営造物の設置場所や使用環境等により変化すべきものである。

 

最後に、2条1項の問題とは異なるが、国賠法4条により、民法の規定が適用されることがあるため、本件事例の様に被害者に過失がある場合、過失相殺がなされることも忘れないようにしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【刑法7】被害者への盗品売却援助と盗品関与罪

今回は、事例から刑法を考える 事例17を素材に、被害者への盗品売却援助と盗品関与罪について考えみようと思います。素材判例は、最決H14・7・1です。

 

盗品関与罪は、財産犯のうち、領得罪(窃盗罪、強盗罪、詐欺罪、恐喝罪、横領罪)により領得された物を、運搬・保管・無償譲受け・有償譲受け・有償処分あっせんをした場合に成立する。したがって、盗品関与罪が問題となる場面においては、必ず本犯の存在が前提となる(罪責検討の対象となっているかは別として)、さらには、領得罪が成立している必要はない(構成要件に該当し違法であればよい)が、領得行為により財物の移転が生じているため、被害者もその存在が前提となる。そして、盗品関与罪にかかる行為をした者がいるわけである。

 

これらの登場人物との盗品関与罪の関係を考えてみると、まず、本犯については盗品関与罪は成立しない。これは、窃盗罪などの本犯によりすでに重大な違法を犯していることで、その評価はされ、盗品関与罪については共罰的事後行為(あるいは不可罰的事後行為)となると考えられている。もっとも、狭義の共犯においては盗品関与罪の成立が認められるから、これは共同正犯の場合にのみ当てはまるといえる。

 

そして、盗品関与罪に規定される行為類型を行った者には当然ながら盗品関与罪の成立が考えられる。ここで注意するのは、目的物が盗品であるという認識が各行為時に存在する必要がある。もっとも、保管罪に関しては、継続犯であることから、保管中に盗品であることの認識が生じたとしても成立する。また、親族間の特例により犯罪は成立するものの、刑は必要的免除される。この親族関係がいかなる者同士に必要であるかは問題となるが、判例は本犯者と盗品関与罪の行為者との間に必要であるとしている。

 

以上で盗品関与罪についての簡単な前提知識を確認したところで、被害者への盗品売却援助と盗品関与罪について考えてみようと思う。

 

被害者への盗品売却援助

上記のように本犯者と盗品関与罪の行為者については考えたがこれに被害者が関係するのが今回の問題である。つまり、盗品関与罪の行為者が行った行為が、被害者への有償処分あっせんであった場合についての犯罪の成否の問題である。

 

何らかの形で領得された盗品について、被害者が返還を求め、有償によりながらも、占有を回復している。このような場合において、有償処分あっせん罪は成立するだろうか。この問題を考えるには、盗品関与罪の保護法益について考える必要がある。

 

一般に盗品関与罪の保護法益は被害者の有する財物に対する追求権であると考えられている。つまり、本犯により領得された財物が譲渡されたりすることにより、被害者による回復(追求)が困難になるということを防ぐ必要がある。そして、この追求権に加え、本犯助長性という観点も盗品関与罪の保護法益を考える上で重要とされている。

 

そこで、判例をみると、最決H14・7・1は

「盗品等の有償の処分のあっせんをする行為は、窃盗等の被害者を相手方とする場合であっても、被害者による盗品等の正常な回復を困難にするばかりでなく、窃盗等の犯罪を助長し誘発するおそれのある行為であるから、刑法256条2項にいう盗品等の「有償の処分んのあっせん」に当たると解するのが相当である」として、従来の判例を踏襲しており、やはり盗品等の正常な回復という追求権と本犯助長性の二つの観点から考えていることがわかる。もっとも、この二つの観点の関係については明示されていない。

 

ここで、本犯助長性のみが保護法益であるとする物的庇護説という学説も存在するようだが、これによれば、被害者が単に財物を取り戻そうとして譲り受けたとしても盗品関与罪が成立するおそれすらあり、批判がなされている。

 

ここでは、やはり、被害者による追求権が第一次的法益であり、本犯助長性は第二次的要素であると考えるのがだろうな気がする。そして、この追求権の内容をいかに考えるかという点からこの被害者に対する盗品売却援助の問題を考えるべきであろう。これについて、学説では、追求権の内容は「いわれなき負担を負うことなく盗品等の返還を求めることができる権利」としている。そして、上記判例の「正常な回復」についても「無償による回復」であると読んでいる。

 

このような解釈を採ったとしても、やはり有償処分あっせんをした者が被害者の委託を受け本犯者との交渉の上財物を有償で取り戻すといった場合、「いわれなき負担」を負っていることは間違いないため、財物返還に尽力してくれた者についても盗品関与罪が成立してしまう結果になりうる。このような場合には、事案の特殊性を考慮して成立を否定すべきであるとされるが、難しい問題になりそうである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【商法6】株主代表訴訟の対象

今回は、事例研究 民事法Ⅱ 第1部問題6を素材に株主代表訴訟の対象について考えてみようと思います。参考判例最判H21・3・10です。

 

本題に入る前に、この事例では大株主Bが株主総会を開催せずに自己を取締役として登記したという事実から、この株主を取締役の地位から排除する方法についても問われています。他の株主Xとしてこの方法を考えると、開催されたかが不明な取締役選任の株主総会決議の瑕疵を訴えるというものになります。そこで、本件事実のような場合に、どの訴訟類型によりこれを争うことが妥当かという問題となります。

 

株主総会決議の瑕疵を争う訴訟類型としては、決議取消しの訴え、決議無効確認の訴え、決議不存在確認の訴えという3類型が会社法上規定されています。この3類型における異同を簡単に確認しておくと、決議取消しの訴えにおいては、その取消し事由は、手続きまたは決議方法の法令・定款違反もしくは著しい不公正、決議内容の定款違反、特別利害関係人による議決権行使により不当な議決となったこと、が規定されているが、決議から3ヶ月以内に提起する必要がある。決議無効確認の訴えでは、無効事由が決議内容の法令違反のみが規定されている。決議不存在確認の訴えでは、不存在事由の定めはない。また、決議無効確認の訴えと決議不存在確認の訴えは、出訴期間の定めはない。

 

本件株主総会決議は、決議から3ヶ月が経過しており、取消しの訴えは提起できず、違法事由も手続き違反にとどまるため、無効確認もできない。そこで、決議不存在確認の訴えを提起することになる。

 

決議不存在確認の訴えにおける不存在事由はその定めがないため、なにが不存在事由に当たるかが問題となるが、これを考えるにあたってのポイントとしては、実際上開催されたかという点と開催されていても不存在といえる法的評価を受けるかという点がある。

 

そして、後者の点については、判例最判S33・10・3)などが、招集手続きの瑕疵の程度が著しく重大な場合には、そのような総会で成立した決議は法的には不存在と評価されるとしている。ここからは事案ごとの個別的判断になるように思えるが、これまでの経営体制からの変更が伴う重要な議決について、従前の運営方法を理由に招集通知を発しないことは妥当ではなく、20パーセントを保有する株主に対して参加させないことは決議の不存在の評価をうけるのではないかと考えられる。

 

株主代表訴訟の対象

では、ここからは本題に入りたい。本件では、上記のように取締役の地位にないもしくは違法な手段により取締役の地位に立ちその権限を濫用していると考えているXは、Bが取締役として会社から得た取締役報酬を会社に返還ないし賠償させたいと考えている。そこで、Xがこのような請求をするための法律構成と法的手段を考えていく必要がある。

 

まず、P社からBへの請求についての法的構成を考えてみるが、上記のようにBが招集手続きの著しい瑕疵の存する株主総会により取締役に選任されたとすれば、右決議は不存在であり、これによりBのP社取締役という地位も否定される。そうであれば、Bには取締役報酬をうける法律上の原因がなくなり、民法703条に基づく不当利得返還責任を負うと考えることができる。

 

また、Bが違法な手段により取締役になり、この地位を濫用して法外な取締役報酬という損害をP社に与えたという不法行為責任を負うと考えることもできそうである。

 

ここで、これらはいずれも民法上の規定を根拠にしていることから、会社法上の責任として何かないだろうかと考えたが、取締役が会社に対して損害を与えたことに対する責任追及として会社法423条1項が思いついたが、これは、会社と取締役との関係が民法上の委任に基づくことを根拠に生じる取締役の会社に対する任務懈怠責任であるから、不当利得返還責任とも不法行為責任ともことなる性質にあると考えられる。そうであると、やはり今回のような場合には、会社は取締役に対して責任追及するばあい、民法上の請求をすることになるのだろう。

 

そこで、このような民法上の請求が会社から可能であるような場合に、会社がこれをしない場合、株主は株主代表訴訟を使ってこの請求を直接することができるだろうかという問題が生じる。これが、今回のテーマである株主代表訴訟の対象という問題である。この事例を考えるまでは具体的に意識したことのない問題であり、明確な記述が教科書にもないため、この機会に考えてみる。

 

とはいえ、判例百選掲載の判例最判H21・3・10)が株主代表訴訟の対象となる取締役の責任について判断しているため、確認する必要がある。

 

この判例の事案では、解説にも記述があるように、株主が会社所有たる不動産の登記を有する取締役に対して株主代表訴訟によって主位的に会社の所有権に基づいて、予備的に会社と取締役との間の借用契約の終了に基づいて、真正な登記名義への回復を求めている。そして、判決では、主位的請求を棄却しつつも、予備的請求を認容している。つまり、

「同法267条1項(現行会社法847条1項)にいう「取締役の責任」には、取締役の地位に基づく責任のほか、取締役の会社に対する取引債務についての責任も含まれると解するのが相当である。」としており、主位的請求については、これにあたらず、他方で、予備的請求は借用契約の終了を根拠にしているから取引債務についての責任追及として認められるという判断をした。

 

ここで、本件事例についてみると、考えられる請求の法的構成が不当利得返還責任と不法行為責任であるから、いずれも会社と取締役の取引債務についての責任とはいえそうもない。判例百選の解説にもあるように、この判例がこれまでの多数説・有力説であった全債務説と限定債務説いずれも支持せず、取引債務包含説を採ったと評価されるのであれば、本件事例でのいずれの請求も株主代表訴訟の対象とはならないのではないかと思われる。この点事例研究の解説では、「判例によれば代表訴訟が認められる余地がある」としていることに疑問がある。

 

確かに、上記で引用した判旨の部分ではない、847条1項の趣旨についての部分では、株主代表訴訟の趣旨が、会社と取締役の特殊な関係により責任追及を怠るおそれがあることから、これを株主にさせることを認めたものであるとしている。そうであれば、不当利得返還責任も不法行為責任もこのようなおそれは払拭できていないはずであるから、取引債務に限る必要はないとも考えられる。この点を汲んで「代表訴訟が認められる余地がある」としているなら理解できなくはない。

 

この事例を検討していて思ったことは、やはり大株主の暴走は少数株主によって止めることは容易ではないということである。

【民訴6】既判力の拡張、反射効

今回は、事例研究 民事法Ⅱ 第1部 問題4を素材に、既判力の拡張、そのうち主に反射効について考えてみようと思います。この問題の反射効についての設問は設問4で、この事例の素材となった判例最判S51・10・21です。

 

事例としては、Xが貸金債務の主たる債務者Y1とその債務の連帯保証をしたY2とを相手に訴訟を提起したが、Y2が訴訟に出席しなかったため、裁判所はこれらの訴訟の弁論を分離し、Y2についてはXの陳述に対する擬制自白を認め弁論を終結し、認容する判決を出した(①判決)。その後Y1との訴訟においてXはその請求を放棄した(②判決)。そこで、Y2は①判決に基づく執行について、②判決を援用して請求異議の訴えを提起した(③訴訟)というものである。ここでは、③訴訟で②判決を援用することは、①判決との関係でどの様な影響を受けるかという問題が生ずる。

 

 

反射効の意義

まず、反射効とは、当事者間に既判力の拘束のあることが、当事者と実体法上特殊な関係すなわち従属関係ないし依存関係にある第三者に反射的に有利または不利な影響を及ぼすことをいう。

 

これがどのような場合に生じると考えられているかというと、保証関係がその例とされる。つまり、主たる債務者への請求が棄却された場合には、保証債務についても不利(保証人勝訴)に影響するということである。

 

ここで注意が必要なのは、反射効は既判力とは異なるものであるということである。

 

判例における反射効

判例にでは、反射効という効力を直接に認めることはなされていないようである。

 

本事例の素材となった判例においても、反射効という効力には触れられず、この判例の分析をするものによれば事案を既判力により解決を図っているとされている。

 

この判例はその点において特殊な面を有し、反射効が問題となる保証関係の紛争につき、既判力の時的限界という問題で処理しているように思われる。つまり、判例においては、保証人が請求について争わずして敗訴が確定し、その後主たる債務者との関係で債務の不存在が認められたとしても

「同判決が保証人敗訴の確定判決の基礎となった事実審口頭弁論終結の時までに生じた事実を理由としてされている以上、保証人は右主債務者勝訴の確定判決を保証人敗訴の確定判決に対する請求異議の事由にする余地はないものと解すべきである。」とする。

 

この判旨はつまり、主たる債務者が勝訴した理由となった事実は保証人との訴訟における口頭弁論終結前までに生じた事実であるから、これを提出せずに確定した後に、後訴でこの事実を主張することは既判力により遮断されるという方法で、保証人による請求異議の訴えを棄却している。

 

これにおいては、そもそも主たる債務者と保証人との弁論が分離され、時間差を生じて判決が出されたことにも原因があるといえる。しかし、訴訟法上はこのような主債務者および保証人の関係では必要的共同訴訟にはならず、通常共同訴訟であるから、裁判所が職権で弁論を分離したことは適法となる。もっとも、弁論が分離された理由が保証人が請求について認めているという事情があったからであると考えれば、もし、保証人が主たる債務の存在や保証債務の存在について争う態度を示している場合には、恣意的に弁論を分離することは裁判所のミスとして、その後の保証人による請求異議の訴えを認めるという考え方もできるように思われる。

 

なんにせよ、主債務と保証債務とは別個の訴訟物に基づくものであるから、これらについて既判力による拡張を認めることは困難であるし、反射効という効力を認めるとしても、それはやはり保証債務の付従性などの実体法上の法律関係を根拠になされるものと考えられるから、やみくもに反射効というものを使うことは妥当ではないだろう。

 

請求の放棄の性質

ここで、本事例では判例とは異なり、債権者が主たる債務者との訴訟において、請求の放棄を行っている。上述の通り、先に敗訴が確定した保証人が後訴で②判決を援用する場合、②判決の勝訴の理由が①訴訟の口頭弁論終結時点で生じている事由であった場合にはその主張が遮断されることになる。もっとも、請求の放棄それ自体の効果として主たる債務の消滅という効力が生じるのだとすれば、これは口頭弁論終結後に生じた事由として、保証人は後訴での主張が認められることになる。

 

この点、請求の放棄が訴訟物たる権利関係の主張についてそれを維持する意思のないことを裁判所に対して陳述する訴訟行為であって、債権の放棄と同一と見ることはできないと解されていることからも、保証人敗訴後に請求の放棄がなされていても、後訴において保証人が②判決を援用することが許されないということには変わりはないように思える。